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4 ゆめのあと
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しおりを挟む「アンタさっきから、ギャンギャンうっさいわねー! バカ犬なの? しつけがなってないわねぇ」
「はっ、……はぁ……ずみ、ば、ぜん……」
もしボクが本当に犬なのであれば、テンションぶち上がりでブンブン振りまくった尻尾がとっくに千切れていたことだろう。
でもただの陰気な高校生だから、シンプルに息切れするだけ。助かった。生き延びた。
「アンタもしかして徹《てつ》ちゃまの知り合いなのかしら? クラス同じだっけ? あー、そもそも一緒に倒れてたんだっけか」
「はっは、はぁ、……はい」
正直、尾花沢先生のことなんてどぉおおおおうでもいい。
宮田くんだ。
ボクの目の前で宮田くんが無防備にぐっすりとおねんねしている。
それだけでもう、ヨダレが口いっぱいに出ちゃう。
舌で転がしてじゅるじゅるしてると、やっぱりボクって人間じゃなく犬だったのかなという予感がしてくる。
でも、どうせなら猫になったほうがいい。
宮田くんに飼われて、一緒にひなたぼっこしたいニャ。
幸せすぎる甘々ほのぼのぬくぬく妄想にほっぺがとろけそうになったとき、分厚すぎる筋肉が急にボクの背中を叩いた。
肩甲骨にオイルをぬりたくるような、ねっとりとした動き。
「会津くん……だったわよね?」
「え? はぁ──」
さっきまでは『アンタ』だったのに名前で呼ぶなんて──と、違和感を抱きつつ、生返事しかけた。
その次の瞬間だった。先生のムキムキの筋肉がボクのいたいけな細首に襲いかかり、一気に巻き付いてきた。
「──ヴッ!!!!」
肩を内側に入れて脇を締めるようなマッスルポーズ。
満腹アナコンダみたいな腕にボクの頭が巻き込まれている。絞まる。喉仏がへこんでしまいそう。絞まる。絞まりまくってる。
「ぐ、ぇええ……っ!!」
「もしかしてアンタ、徹ちゃまになにかされた?」
「ふは、ふ、えぇええっ……?」
徹《てつ》というのが宮田くんの名前であることはすぐに分かったけど、なにかというのは──。
まあ、たしかにナニをナニはされたけども。それはボクだけが見た夏の日の幻──。
「質問に答えなさいよ! ほんっとに躾のなってない犬ね!」
「ぐっ、え、ええっ……」
「あーら! たったこれだけで苦しそうだなんて貧弱ですことっ。これでもあんまり力入れてないのよ?」
嘘だ。菩薩のように微笑みながら言ってるけど、絶対に嘘。
ムチムチの弾力たっぷりに震えている尾花沢の手の甲には、極太の血管が浮かび上がっている。
「貧弱にして貧相。おまけにずいぶんと冷たい身体してるわね。タンパク質食べないからよー! 一日100gは摂らなきゃ」
こんなときに筋肉の情操教育されても頭に入らないです、先生。
酸素も回らないです、先生。
おまけに、飲み込んだはずのヨダレが逆流してくる──。
(やばい……頭、くらくら……、オトされちゃう……)
どうせ意識を失って昇天するのなら、宮田くんの腕の中──いや、太ももの間でサンドイッチ──のほうが断然いいのに。
(ああっ……やばい、気絶するっ……、せめて、宮田きゅんのお股のタンパク質をはむはむする夢が見られますように……神さまっ……)
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