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2 恋しちゃいました
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◆ ◆ ◆
ギンギンの欲望が梅雨前線を消し去った。午後にかけて太陽は乱れ輝き、空気と湿気が激しくもつれ合って気温は急上昇。
更衣室から出てきた半裸の宮田くんは、あまりにもまぶしすぎて三秒凝視するのが限界だった。
かぶりつきたくなるほど張り詰めた二の腕。
むっちりとした弾力がありそうな胸筋。
引き締まった腹筋。
見事にスマートな腰のくびれ。
その下の魅惑の膨らみ──。
(神さまありがとぉおおう! プールの授業ばんざーーーいっ!!)
貧弱なボクや他の男子たちとは同じ生物とは思えないほどの仕上がり具合だ。
真の細マッチョ。
己に厳しくストイックに鍛えているのがボディラインに出ている。
雄としてのレベルの高さが異常。
(優しくて、気遣いができて、頭も良くて、スタイルもいいって……どういうことなんだよぉおお……)
一方のボクはジメジメ日陰でジャージ姿で体育座り。はいっ、宮田くんの裸をくまなく観察するために仮病を使いました。最低最悪でしょう。
棲む世界の差を見せつけられているような気分。格差にも程ってものがある。
(ボクにはもったいないよな……つり合わないよね)
ヒザにおでこをくっつけ、深い深いため息をついてから、もう一度宮田くんをじっくり鑑賞しようと思った。そのときだった。
「──っ!?」
プールサイドにたたずむ彼がボクを見ていた。
目と目が合った──いや、そんなはずない。
きっとボクの『自意識過剰』ってやつだ。コンサートでアイドルがこっちを見たと思うのと同じに決まってる。でも──。
彼の涼やかな視線は確かにボクをとらえている。数秒間、たしかに見つめ合った。
いつでもにこやかに上がっている口角は下がり気味。その瞳は悲しげで──。
(あれ……?)
なにかがおかしい。
ボクが昨日まで熱烈にウォッチングしてきた宮田くんと何かが違う。
違和感は授業が始まっても変わらなかった。
むしろますます『いつもの宮田くんじゃない』という予感が膨らむ。
授業開始の号令の声は小さくてモゴモゴしているし、まっすぐの背筋がどんどん前傾していく。なにより、頬がゆでたように真っ赤だった。
授業が始まってまだ10分も経っていなかったけど、ボクは思わず立ち上がっていた。
「せ、先生、……あの」
「どーした?」
野太い声で怒鳴り散らして泳ぎ方を指導している先生の話をさえぎるのはとっても怖かった。
案の定、両指の先っぽが急激に冷たくなってくる。
でも、引き下がれなかった。
「み、宮田くんの様子が、おかしいと思います……」
「宮田が?」
いぶかしげにボクを睨みつけていた先生も、生徒の体調不良と聞けば態度を一変させた。
すぐにプールから宮田くんを呼び出し、「具合が悪いのか?」と、たずねた。
「……はい。少し……からだが、だるくて……」
水のなかから顔を上げた宮田くんの目はすでにうつろだった。視線は先生のほうにあるのに、焦点があってない。
「体調が悪いならちゃんと申告しろ」
「すみません……」
「あのっ、ボクが保健室につれていきますんでっ!!!」
プールから這い上がろうとする宮田くんの腕を引っ張りつつ、ボクは自己判断で突っ走った。
「宮田くん、大丈夫?」
「ああ。……申し訳ない」
タオルをかけてあげながら、ボクはそっと彼の背中にタッチする。
初めて触れる宮田くんの濡れた素肌はものすごくスベスベしててなめらかで、筋肉の弾力がすごくて、おもいっきり撫でまくりたかったベロベロしたかった。──理性で抑え込む。
「昨日まで涼しかったのに、急に暑くなったもん。水泳なんかしたら気持ち悪くなって当然だよねぇ……」
ボクはギンギンの下心をやさしさというオブラートでくるむ。
腹の底でどんちゃん騒ぎしている衝動に絶対に気づかれないように。
ギンギンの欲望が梅雨前線を消し去った。午後にかけて太陽は乱れ輝き、空気と湿気が激しくもつれ合って気温は急上昇。
更衣室から出てきた半裸の宮田くんは、あまりにもまぶしすぎて三秒凝視するのが限界だった。
かぶりつきたくなるほど張り詰めた二の腕。
むっちりとした弾力がありそうな胸筋。
引き締まった腹筋。
見事にスマートな腰のくびれ。
その下の魅惑の膨らみ──。
(神さまありがとぉおおう! プールの授業ばんざーーーいっ!!)
貧弱なボクや他の男子たちとは同じ生物とは思えないほどの仕上がり具合だ。
真の細マッチョ。
己に厳しくストイックに鍛えているのがボディラインに出ている。
雄としてのレベルの高さが異常。
(優しくて、気遣いができて、頭も良くて、スタイルもいいって……どういうことなんだよぉおお……)
一方のボクはジメジメ日陰でジャージ姿で体育座り。はいっ、宮田くんの裸をくまなく観察するために仮病を使いました。最低最悪でしょう。
棲む世界の差を見せつけられているような気分。格差にも程ってものがある。
(ボクにはもったいないよな……つり合わないよね)
ヒザにおでこをくっつけ、深い深いため息をついてから、もう一度宮田くんをじっくり鑑賞しようと思った。そのときだった。
「──っ!?」
プールサイドにたたずむ彼がボクを見ていた。
目と目が合った──いや、そんなはずない。
きっとボクの『自意識過剰』ってやつだ。コンサートでアイドルがこっちを見たと思うのと同じに決まってる。でも──。
彼の涼やかな視線は確かにボクをとらえている。数秒間、たしかに見つめ合った。
いつでもにこやかに上がっている口角は下がり気味。その瞳は悲しげで──。
(あれ……?)
なにかがおかしい。
ボクが昨日まで熱烈にウォッチングしてきた宮田くんと何かが違う。
違和感は授業が始まっても変わらなかった。
むしろますます『いつもの宮田くんじゃない』という予感が膨らむ。
授業開始の号令の声は小さくてモゴモゴしているし、まっすぐの背筋がどんどん前傾していく。なにより、頬がゆでたように真っ赤だった。
授業が始まってまだ10分も経っていなかったけど、ボクは思わず立ち上がっていた。
「せ、先生、……あの」
「どーした?」
野太い声で怒鳴り散らして泳ぎ方を指導している先生の話をさえぎるのはとっても怖かった。
案の定、両指の先っぽが急激に冷たくなってくる。
でも、引き下がれなかった。
「み、宮田くんの様子が、おかしいと思います……」
「宮田が?」
いぶかしげにボクを睨みつけていた先生も、生徒の体調不良と聞けば態度を一変させた。
すぐにプールから宮田くんを呼び出し、「具合が悪いのか?」と、たずねた。
「……はい。少し……からだが、だるくて……」
水のなかから顔を上げた宮田くんの目はすでにうつろだった。視線は先生のほうにあるのに、焦点があってない。
「体調が悪いならちゃんと申告しろ」
「すみません……」
「あのっ、ボクが保健室につれていきますんでっ!!!」
プールから這い上がろうとする宮田くんの腕を引っ張りつつ、ボクは自己判断で突っ走った。
「宮田くん、大丈夫?」
「ああ。……申し訳ない」
タオルをかけてあげながら、ボクはそっと彼の背中にタッチする。
初めて触れる宮田くんの濡れた素肌はものすごくスベスベしててなめらかで、筋肉の弾力がすごくて、おもいっきり撫でまくりたかったベロベロしたかった。──理性で抑え込む。
「昨日まで涼しかったのに、急に暑くなったもん。水泳なんかしたら気持ち悪くなって当然だよねぇ……」
ボクはギンギンの下心をやさしさというオブラートでくるむ。
腹の底でどんちゃん騒ぎしている衝動に絶対に気づかれないように。
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