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1 好き好き宮田きゅん
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この世には二種類の人間がいる。
他人の席になんのことわりもなく座って仲間と弁当を食う人間。
そいつらに自分の席を占領され、沈黙のまま絶望に震える人間。
ボクは圧倒的に後者だ。
自分の席以外に学校に居場所なんてない。
イスと机だけが友達。
なのに、ほんのちょっとトイレにいった間にボクの席に座ってしまう馬鹿野郎は一体なんなんだ!
「キターー! スズキンは今日もメロンパンー!」
「うっせぇし、チョコチップメロン」
「同じっしょ。ジワる」
クラスで最もチャラいグループの昼食パーティーが、どうしてボクの席周辺で行われるんだ。
「……ぐっ」
絶望は無限にできるけど、奪い返すための「どいて」の一言はいえない。
コミュ障だから。
人が怖いから。
自分が嫌いだから。
笑われるのが嫌だから。
どんなふうに声をかけたら笑われないか教室後方のロッカーによりかかって考えていると、ただでさえ冷たい指先がガチガチに凍りつく。
話しかけるなんて、できるわけない──。
両手をぎゅっと握りしめたらたちまちヒビが入って、バラバラに崩壊しそう。
ボクは氷のように身も心も繊細だ。繊細すぎてうんざりする。
ついでに体温も人並み以下でとても冷たい──らしい。自分じゃよく分からない。
けど、ボクに触れた人はいつも『冷たッ!』って驚くからきっとそうなんだ。
ボクの席を占領しているやつらは、氷なんて一瞬で蒸発させる太陽のよう。
「待って待ってチョコ入ってなさすぎてウケんだけど!」
「だははははっ」
「パン屋のじじぃ、マジ詐欺ってんぞ」
自分たちだけの教室だと言わんばかりに大声をあげ、爆笑。ギラギラと騒いでいる。
話しかけられるわけがない。
ボクは溶かされてしまわないよう、ひんやりするロッカーに寄り添って息をひそめているしかない。
(しょうがない。今日もトイレに引きこもるしかないか……)
お弁当をまだ食べていないけど、しょうがない。
お腹空いたけど、我慢するしかない。
弁当は机のなか。太陽には近づけない。ボクの昼休みは奪われたんだ。
泣きそうになりながら教室を出ようとしたとき、ボクの席のほうにむかって突き進む誰かを見つけた。
ウソみたいに長い手足、しゃんと伸びた背筋。そのシルエットだけで一目瞭然。
学級委員長の宮田くんだ。
誰もがうらやむモデル体型でありながら、きっちりカッキリ校則通りのファッションをつらぬいている。
制服のボタンは首元までとめているし、さらさらの黒髪は七三にまとめている。装飾品は一切無し。
なのにまったくダサく見えないのは、色白で清潔感にあふれるイケメンだから。
おまけに成績は優秀。非の打ち所ゼロ。
アァ、まさにこのクラスの頂点にふさわしい人だ。太陽なんてレベルじゃない。
「きみたち、少しいいかな? お楽しみ中のところすまないが」
「ふぉー、いいんちょー! なんか用?」
宮田くんが声をかけたのは、ボクの席を占領してチョコチップ無しメロンパンをむさぼり食っている男だった。もぐもぐしたまま喋るから汚い。
でも、委員長は嫌な顔ひとつしない。
胸の前でゆったりと指を組んで、友好的な笑みを浮かべている。
「申し訳ないが、そこの席を空けてくれないか? 掲示物を貼り直したいのでね」
とても丁寧な喋り方。おまけに声もいい。月夜に響くアコースティックギターの音色のようで、なにを喋っても雰囲気と説得力がある。
「おう。いーよー!」
宮田くんの前では、太陽なんて下等な物質でしかない。──ってか、ボクの席に勝手に座っておいて『いーよー』なんて図々しいにもほどがあるだろ。なんでお前が許可してんだよ。
「ありがとう。感謝するよ」
宮田くんは委員長としての仕事をスマートにこなす。
ボクの席の横の壁に貼られた『テストまであと“35”日』のカウントダウンを『34』に直した。
テストのことなんて考えたくもない──憂鬱に心が沈み、頭まで重たくなったときだった。
穏やかな足音。近づいてくる気配がする。
この世には二種類の人間がいる。
他人の席になんのことわりもなく座って仲間と弁当を食う人間。
そいつらに自分の席を占領され、沈黙のまま絶望に震える人間。
ボクは圧倒的に後者だ。
自分の席以外に学校に居場所なんてない。
イスと机だけが友達。
なのに、ほんのちょっとトイレにいった間にボクの席に座ってしまう馬鹿野郎は一体なんなんだ!
「キターー! スズキンは今日もメロンパンー!」
「うっせぇし、チョコチップメロン」
「同じっしょ。ジワる」
クラスで最もチャラいグループの昼食パーティーが、どうしてボクの席周辺で行われるんだ。
「……ぐっ」
絶望は無限にできるけど、奪い返すための「どいて」の一言はいえない。
コミュ障だから。
人が怖いから。
自分が嫌いだから。
笑われるのが嫌だから。
どんなふうに声をかけたら笑われないか教室後方のロッカーによりかかって考えていると、ただでさえ冷たい指先がガチガチに凍りつく。
話しかけるなんて、できるわけない──。
両手をぎゅっと握りしめたらたちまちヒビが入って、バラバラに崩壊しそう。
ボクは氷のように身も心も繊細だ。繊細すぎてうんざりする。
ついでに体温も人並み以下でとても冷たい──らしい。自分じゃよく分からない。
けど、ボクに触れた人はいつも『冷たッ!』って驚くからきっとそうなんだ。
ボクの席を占領しているやつらは、氷なんて一瞬で蒸発させる太陽のよう。
「待って待ってチョコ入ってなさすぎてウケんだけど!」
「だははははっ」
「パン屋のじじぃ、マジ詐欺ってんぞ」
自分たちだけの教室だと言わんばかりに大声をあげ、爆笑。ギラギラと騒いでいる。
話しかけられるわけがない。
ボクは溶かされてしまわないよう、ひんやりするロッカーに寄り添って息をひそめているしかない。
(しょうがない。今日もトイレに引きこもるしかないか……)
お弁当をまだ食べていないけど、しょうがない。
お腹空いたけど、我慢するしかない。
弁当は机のなか。太陽には近づけない。ボクの昼休みは奪われたんだ。
泣きそうになりながら教室を出ようとしたとき、ボクの席のほうにむかって突き進む誰かを見つけた。
ウソみたいに長い手足、しゃんと伸びた背筋。そのシルエットだけで一目瞭然。
学級委員長の宮田くんだ。
誰もがうらやむモデル体型でありながら、きっちりカッキリ校則通りのファッションをつらぬいている。
制服のボタンは首元までとめているし、さらさらの黒髪は七三にまとめている。装飾品は一切無し。
なのにまったくダサく見えないのは、色白で清潔感にあふれるイケメンだから。
おまけに成績は優秀。非の打ち所ゼロ。
アァ、まさにこのクラスの頂点にふさわしい人だ。太陽なんてレベルじゃない。
「きみたち、少しいいかな? お楽しみ中のところすまないが」
「ふぉー、いいんちょー! なんか用?」
宮田くんが声をかけたのは、ボクの席を占領してチョコチップ無しメロンパンをむさぼり食っている男だった。もぐもぐしたまま喋るから汚い。
でも、委員長は嫌な顔ひとつしない。
胸の前でゆったりと指を組んで、友好的な笑みを浮かべている。
「申し訳ないが、そこの席を空けてくれないか? 掲示物を貼り直したいのでね」
とても丁寧な喋り方。おまけに声もいい。月夜に響くアコースティックギターの音色のようで、なにを喋っても雰囲気と説得力がある。
「おう。いーよー!」
宮田くんの前では、太陽なんて下等な物質でしかない。──ってか、ボクの席に勝手に座っておいて『いーよー』なんて図々しいにもほどがあるだろ。なんでお前が許可してんだよ。
「ありがとう。感謝するよ」
宮田くんは委員長としての仕事をスマートにこなす。
ボクの席の横の壁に貼られた『テストまであと“35”日』のカウントダウンを『34』に直した。
テストのことなんて考えたくもない──憂鬱に心が沈み、頭まで重たくなったときだった。
穏やかな足音。近づいてくる気配がする。
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