真っ白子犬の癒やし方

雨宮くもり

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4 石の蛇

4-4 芳香

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「ふむ。バラといえば思い出すなキイチ」

 テルがこちらに背を向けているのをいいことに、ツゲはオレの肩に手を回してきた。
 筋肉の品評をするみたいに二の腕のあたりをさすってくる。なんとも気持ち悪い。

「まだ入学したての頃、キイチがバラの香りを──」

「あ。待ってくれ、その話はオレがす──」


「あああっ!!!」


 テルが急に大声を上げた。また何か見つけて感情が荒ぶったのだろう──そう思っていたのは数秒。
 バラの芳香とは似ても似つかない生臭さが鼻をかすめる。砂利がこすれるようなにぶい響き。びちゃびちゃと粘っこい水音──。


「テル!」


 考えるよりも先に体が動いていた。

 テルの腕を引っ張って背中にかばい、剣を抜く。敵がなんなのか認識する前に斬りかかるのはオレの悪いクセだ。
 しかし、目に飛び込んできた赤黒い色が血液だと本能的に察知していた。
 殺気がある。先に殺らなければこっちが殺られる。その思い一つで刃を振り下ろす。

 宙を舞ったのはヘビの頭。

 岩石に見間違えそうなほどの大ぶりなヘビだった。じっとりと湿った赤茶と黒のまだらのウロコ。目元まで裂けた口にはオレの指よりも遥かに太い牙がのぞき、赤黒く染まった毛皮をくわえていた。
 おそらく、生まれて間もない子犬だ。だらりと垂れ下がった白い尾が見える。毒が回ったのか、それとも心臓を貫かれたのか、ぴくりともしない。
 もとは真っ白だった子犬が──。
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