真っ白子犬の癒やし方

2 赤い雫

2-9 ケガしてる

「先輩ッ！　ケガしてるのにトレーニングなんてしちゃダメですよ！！」

「剣の練習してたときにちょろっと切っただけだ。痛くもねぇし、こんなのいつもの──」

「ぼくがいますぐ治してみせますっ！」


　癒やす気満々。腕立て伏せがちっともできなかったから悔しくて──いや、傷を前にしたらヒーラーとしての血が騒ぐのだろう。

　ベッドに横になれと言われ、大げさだと断ったがどうしてもと押し切られた。大人しく腹ばいになる。

　テルはあまりにも袖が長すぎるローブの腕をまくり、例の細っこい腕を胸の前に掲げた。
　鼻先をくっつけるように傷口を凝視して、フンフンと息を荒くする。

　なんだか大ケガをした気分だ。
　刃がほんの少し肌に触れただけのかすり傷なのに。


「こんなの自然治癒で構わないんだが」

「だめです！　キイチ先輩の美しいお身体に痕が残るかもしれない」

「は？　これのどこが美しいんだよ。ゴツくて、浅黒くて、汚ぇだろ」

「そんなことありましぇんっ！！！」

「しぇん、て……」


　筋トレしてアドレナリンでも出まくってるんだろうか。あまりにも熱が入りすぎだ。