真っ白子犬の癒やし方

雨宮くもり

文字の大きさ
上 下
12 / 106
2 赤い雫

2-4 好きだぜ、もふもふ

しおりを挟む
「ごめんなさい。ふだんは出さないようにしてるんです。でも感情が荒ぶるとつい……」

「好きだぜ、もふもふ。二人っきりのときならモロ出しのままでいいぞ」

「はうッ!」

 ほっぺを真っ赤にさせたテルは再びビクンと震え上がった。
 とっさに頭に手を当てて耳の出現こそ死守したが、ホコリまみれのしっぽがローブの下から見事にこぼれた。


「また荒ぶっちまったか?」

「荒ぶっちまいました。……う、嬉しくて」

 テルは恥ずかしすぎて今にも死にそうだという風にくちびるを噛む。

「ぼく……なにからなにまで未熟で本当に恥ずかしいです。変なやつで……ごめんなさい……」

「そんなことねぇよ。他の部屋にいるヤツらだって特殊だぜ? 黒魔道士志望なのに雷が怖くて雷属性断固拒否してるヤツとか、経験値稼ぎで見つけたはずの銀色のスライムを溺愛して飼ってるヤツとか……」

 なんとか励まそうとしたのだが、テルは押し黙ったまま返事をしてくれない。


「よしよし」


 うつむく頭のてっぺんにオレは思わず手を置いていた。

 息を飲むほどサラサラした髪だった。
 オレのボッサボサの黒髪とはわけが違う。まるで上質なシルク糸のよう。
 もし悪い奴らに目をつけられたらバッサリ切られて高値で売買されるかも──そんな不安が脳裏をよぎってしまったぐらいの美しさ。

 なにより、いい香りがする。
 焼き立てのパンを頬張ったときに似た、甘くて優しいちいさな幸せが胸の奥をくすぐる。ふわっと包み込まれるような癒やしだった。
 どこかで嗅いだことがあるような──。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

誰よりも愛してるあなたのために

BL / 完結 24h.ポイント:447pt お気に入り:1,061

生きることが許されますように

BL / 完結 24h.ポイント:418pt お気に入り:795

Domは抱けぬと誰が言った

BL / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:58

拾った恋に、落ちたなら。

BL / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:6

僕が再婚するまでの話

BL / 完結 24h.ポイント:37,630pt お気に入り:376

処理中です...