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1 白い子犬
1-1 雨上がりの晩
しおりを挟むクズ寮長様が“白い子犬”をつれてきたのは、ずっと降り続いていた雨がやんだ日の晩のことだった。
「この子をあたためてやってくれ、キイチ。お前の部屋はベッドが余分にあったろう?」
オレの前にあらわれた“子犬”は二足歩行だった。
細くて小さなシルエットから察するに立派なヒト。
犬っぽいところといえば、寮長のそばでうつむいてじっと指示を待っている従順さぐらい。
「どこが犬だ。聞いてた話と違うぞ」
「伝言に不備があったか。すまなかった。ならば、この子をお前のペットとしてかわいがれ」
「ペッ……!? そんなことできるか!」
「なぜだ。愛玩生物として最適だろう? むだにデカいお前に比べたら場所も取らない。むさ苦しくもない」
「クズのヘリクツなんざ聞きたかねぇ」
純白の衣を全身にまとう“子犬”は頭上で交わされる声に完全にビビっているらしかった。
雨に濡れたわけでもないのにカタカタと凍えて──怯えて──いる。
「私の主張がヘリクツかどうかは自分の目で見て確かめたらどうだ」
寮長は子犬の頭をすっぽり覆っている布を指でつまみ、はらった。
闇のなかでもテカテカと光って見える、青真珠色のおかっぱ頭。
その茂みの左右には、へにょりと垂れ下がった三角形の獣耳。
──なるほど、犬だ。
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