僕は、今日死ぬ。

とうふ

文字の大きさ
上 下
2 / 5
一章

伊藤 翔1

しおりを挟む
 「最悪だ。」
 本当に最悪な気分だ。
 最初目が覚めた時は生々しい夢だと思った。でも、すぐに違うと分かった。
 ここまで強烈な血の匂いや痛覚等の感覚があるんだ。
 そして目が覚めてから数日たち今日は俺にとって2度目の妹と父親のお通夜だ。

 自分が死ぬ体験をして時が戻ったと思ったら既に妹と父親は死んだ後。せめて、親父と静香が死ぬ前に戻れたなら2人が前に助ける事だって犯人を捕まえる事だって出来たはずだ。
 これからは俺が殺されるはずの日までに親父と静香を殺した犯人、そして俺の事を殺す奴を見つけなければならない。
 そもそも犯人は同一犯なのか、何故俺ら一家を狙うのか。
 まずはそこからだ。

 時が戻って数日たち分かった事が1つある。
 何故か目が覚めてから俺が殺されるまでの間の記憶が全くもって抜け落ちているのだ。
 けれど、何か特別な事だったり印象的なことだとそれが起きる数時間前にずっと探していた物の場所をふとした時に急に思い出すかのように記憶が戻るのだ。
 例えば、今ならこのお通夜の後に話の成り行きで自分が父方の祖父母宅に引き取られるはずだ。
 これも今朝になって思い出したこと。

 そんな事を考えていたらあっという間にお通夜が終わってしまった。
 「かけるくん、今少しいいかな?」
 背後から自分の事を呼ぶ声が聞こえた。
 どうせ祖父が俺の事を引き取ると伝えに来たのだろう。
 「はい、どうかしましたか?」
 「こういう者何だけど、少し話聞かせてもらってもいいかな?」
 驚いた、祖父にしてはだいぶ若い声だと思ったが振り向いたら警察手帳を自信満々に堂々とかざしてきたのだ。
 この人とは仲良くなれない。そう一瞬で判断できた。
 だがおかしい、ここまで印象的な事を何故思い出せなかったのか。

 「いいですけど、父親と妹を失ったばかりの親族にそんなに意気揚々と声掛けてくるのもどうかと思いますよ。」
 「それはすまない、だが君を見ている限りそんなに凹んだ様子が見えなかったものでね。私の思い過ごしだったようだ、謝るよ。」
 「それで話って?」
 「事件が起こった日、そして伊藤 つよしさんと伊藤 静香しずかさんが殺された時間、君は何をしていたんだい?」
 「もしかして俺の事を疑ってるんですか?」
 「いや、疑ってる訳では無いよ。一応これが仕事なんでね。」
 やっぱりこいつとは仲良くなれない。体の奥底から怒りが込み上げてくる。実の妹と父を殺されて何故自分が疑われなければならないのか。
 この後自分だって殺される運命があるというのに。
 しかし、やはりおかしい。警察からの事情聴取。ましてや、自分が疑われているのにどうしてそんな重要な出来事を全くと言っていいほど思い出せなかったのか。

 「疑ってるなら最初から正直に言えばいいじゃないですか。まぁ答えますよ。事件があった日に何をしていたかですよね?」
 「すまない、でも本当に疑ってる訳では無いんだ。私は君の味方になりたい。その為にも教えて欲しいだけなんだ。」
 「分かりましたよ。まずその日は彼女の美希と一緒に妹の誕生日プレゼントを買いに行ってました。次の日が静香の誕生日だったんでね。」
 「その彼女さんは今どこに?」
 「美希なら今日は学校じゃないですかね。さっきも自分の元に心配の連絡が来ましたよ。」
 「彼女さんの事も少し調べさせて貰ったんだけど、いやぁ凄い人じゃないか。」
 「まぁ本人はあんまり嬉しくは思ってないみたいですけど。」
 「それは驚いたなぁ。美希さん今自分のイラストで個展を開いたりSNSなんかで人気になってきているんだろ?」
 「あれは美希のイラストなんかじゃ無いですよ。それよりもそれまったく事件と関係ないですよね?」
 「いや翔君もイラストを描いてると聞いたのでね。でも中々評価されない事や将来の事で父親とよくをしていたみたいじゃないか。」
 「それが何か?父は昔から厳しい性格だったので。それともそれが原因で俺が父を殺したとでも?」
 「その現場を妹の静香さんに見られてそのまんま殺害。なんてのもありえるからね、一応聞いたまでだよ。そんなに怒らないでくれ。」
 「怒らない奴のがどうかしてるでしょう?」
 「すまない、そろそろ本気で怒られそうなんで今日の所は帰らせてもらうよ。」
 まるで俺が犯人だと決めつけるかのような態度だけとってニヤケ顔で帰っていった。

 疑われた怒りでそのまんま口論に発展してしまいそうだったが、それをしたら確実に俺はていた。
 負けていたと言っても俺が犯人でそれを隠し通せなくて負けるのではなく、今自分にはほとんどと言っていい程事件に関しての記憶が無い。
 静香と親父が殺された時間も分からないしその時間、自分に確実なアリバイがあったのかも分からない。
 美希と出かけていたのは確かに覚えているのだが自分が何時に帰ったか、そして静香と親父が死んでいるのを発見して通報したのは俺らしいがそれもあまり覚えていない。
 さっきの事情聴取で、あの土屋とかいう警察に事件の事を深く聞かれてたら確実に犯人扱いされていただろう。

 今俺がやらなきゃいけない事が増えた。
 まずは、俺のアリバイの証明と記憶を少しでも取り戻さなければいけない。犯人探しはそれからだ。
 とにかく美希に連絡して話を聞くのが一番だろう。
 そもそも、俺は死んだはずなのに何故この時間に戻って今を生きているのだろう。
 何か意味があるのならば俺が死ぬまでたった1ヶ月ちょっと。時間がこんなにも惜しいと思ったのはいつぶりだろうか。

 高校を卒業してからは夢や目標こそはあれど思うようにいかず、ただただ過ぎていく時間を見守るばかりで周りに置いて行かれる恐怖だったり、夢や目標ですら今では自分が本当にダメにならないように言い聞かせる為の道具でしかないのかもしれない。
 いつからこんなに荒んでしまったのか。こんな事もう何回考えたのだろう。
 やけに外が寒く感じる。もうすぐ月がかわって11月になろうとしている。
 今日は難しい事を考えるのはやめて静香と親父を見送ろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

冤罪! 全身拘束刑に処せられた女

ジャン・幸田
ミステリー
 刑務所が廃止された時代。懲役刑は変化していた! 刑の執行は強制的にロボットにされる事であった! 犯罪者は人類に奉仕する機械労働者階級にされることになっていた!  そんなある時、山村愛莉はライバルにはめられ、ガイノイドと呼ばれるロボットにされる全身拘束刑に処せられてしまった! いわば奴隷階級に落とされたのだ! 彼女の罪状は「国家機密漏洩罪」! しかも、首謀者にされた。  機械の身体に融合された彼女は、自称「とある政治家の手下」のチャラ男にしかみえない長崎淳司の手引きによって自分を陥れた者たちの魂胆を探るべく、ガイノイド「エリー」として潜入したのだが、果たして真実に辿りつけるのか? 再会した後輩の真由美とともに危険な冒険が始まる!  サイエンスホラーミステリー! 身体を改造された少女は事件を解決し冤罪を晴らして元の生活に戻れるのだろうか? *追加加筆していく予定です。そのため時期によって内容は違っているかもしれません、よろしくお願いしますね! *他の投稿小説サイトでも公開しておりますが、基本的に内容は同じです。 *現実世界を連想するような国名などが出ますがフィクションです。パラレルワールドの出来事という設定です。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

有栖と奉日本『デスペラードをよろしく』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第十話。 『デスペラード』を手に入れたユースティティアは天使との対決に備えて策を考え、準備を整えていく。 一方で、天使もユースティティアを迎え撃ち、目的を果たそうとしていた。 平等に進む時間 確実に進む時間 そして、決戦のときが訪れる。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(X:@studio_lid)

天使さんと悪魔くん

遊霊
ミステリー
キュートで笑顔が素敵な 天使さんと、いつも無感情でトゲトゲしてる 悪魔くんと普通な人間 同助のキズナの物語.... ある日突然主人公の一心同助(ドースケって呼んで)の家に天使さんと悪魔くんが訪ねてきた。 異次元からやってきた天使さんと悪魔くんは現世に居場所がなく仕方なくたまたま見かけた同助の家に居候することに。 困る同助はこのまま外にいたら何をしでかすか分からない二人を仕方なく受け入れる。 天使さんと悪魔くんは無事元の世界へ帰ることができるのか....? ※R15 全文がピエロで愚かです。

ガレキの楽園

Olivia
ミステリー
一度終わった世界で旅をする話

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

とある女の身の上話

紅羽 もみじ
ミステリー
主人公の岡田ひろみは、夫と幼稚園に入園する息子の3人暮らし。ひろみの教育方針で夫を説得し、息子を私立の幼稚園に通わせることにした。入園後には、保護者同士のつながり、いわゆるママ友との交友もできていく。そんな折、1人のママ友からの一言で、ひろみの人生は少しずつ変化していくこととなる。変化した先で待っているひろみの運命とは。

処理中です...