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「ああ、勘違いするな。そういう関係じゃねえ。俺には世界一の天使がいるからな」
虎夫には似合わない蕩け顔で画像を見せてくれた――。
7,8歳ぐらいの女の子。
白いワンピースに麦わら帽子。
ひまわり畑の中で、ひまわりのように輝く笑顔。
確かに天使だ。
しかも、この表情は完全に心を許している相手に向けられたものだ。
えっ、これは、通報した方がいいの?
「なあ、カワイイだろ?」
「えっと……」
「娘の虎虎《とらこ》だ。どうした、そんなに見入って。いくらひでおでも娘はやらんぞ」
「とらこ……」
色々と衝撃的すぎて、頭が追いつかない……。
「下心で近づいてくる探索者が多いから普段は警戒してるんだけど、いきなりこの画像を送られてね。話しても親バカ丸出しなんです」
「まあ、そんなわけで、一緒に依頼を受けようって話になったんだよ」
「まさか、ひでおさんが来るとは思わなかったけど」
「そういうことだったんだ……」
「ああ、驚いたぜ」
いや、驚いたのはこっちの方なんだけど……。
「そうそう。この前、助けてもらったお礼があるんだよ」
「えっ、いや、そう気をつかわなくても……」
「ああ、そう言うと思ってな」
「お金やなんかだと、ひでおさんにはあまり喜んでもらえないと思ったので」
「なに、大したもんじゃねえから受け取ってくれよ」
「はあ」
虎夫がカバンからある物を取り出す。
それは――。
「これなら受け取ってくれるだろ?」
ぬいぐるみだ。
クレーンゲームの景品のようなヤツ。
でも、手作りの品だってひと目で分かる。
だって――。
「ダンジョンヒーローですね」
「ああ」
それはダンジョンヒーローをデフォルメした可愛らしいぬいぐるみだった。
わざわざ手作りしてくれたのか。
思いがけないものだったが、これは嬉しい。
「ありがとうございます! 大切にします!」
二人に感謝して頭を下げる。
「でも、リリスさん凄いですね。こんなに上手に」
「私じゃないんです」
リリスさんが虎夫を指差す。
「えっ、もしかして」
「ああ、俺の手作りだ」
「こんな顔して、手芸が趣味なんですって」
「えええええっ!!!!」
「娘に頼まれて作ってるうちにハマってな」
今日の虎夫には驚かされっぱなしだ。
「売り物に出来るくらいのクオリティーですね」
「ああ、気合い入れたからな。俺のぬいぐるみはそこそこの値段で売れるんだぜ」
「探索者を辞めても、これで食べて行けそうですね」
「おう。引退したら、その道もありだな」
「これ、配信で紹介してもイイですか?」
「もちろんだぜ。前回の配信で俺の印象が悪いかもしれないからな。これでイメージアップだ」
「あはは」
確かにイメージは変わるだろうが、それは良い方向なんだろうか……。
「私からはこれです」
リリスさんもカバンからある物を取り出す。
それは――。
「彫刻……」
「ダンジョンヒーロー様の彫刻です。今回は自信作ですよ」
「えっと…………ありがとう……ございます」
彫刻だ。
宇宙怪獣にしか見えない彫刻だ。
ダンジョンヒーロー要素は腕が二本あるくらい。
下半身はどうなってるのかよく分からない。
クラインの壺かな?
虎夫を見ると、なんとも言えない苦笑いをしてる。
「私のも是非、配信で紹介してください」
「えっ……あっ……はい」
ニコニコ顔のリリスさんを見ていると、「それはちょっと」とは言いづらい。
紹介したら、リリスさんのイメージはどうなっちゃうんだろ……。
ともあれ、気持ちは嬉しい。
「お二人とも、ありがとうございました」
「なに、礼を言うのはこっちだ。命の恩人だからな」
「そうです。ひでおさんがいなかったら、二人ともこの場所にいないですからね」
「じゃあ、これで貸し借りなしということにしましょう」
「こっちの借りが多すぎますけどね」
「でも、ひでおとしては、これで終わりにしたいんだろ」
「はい。貸しとか借りとか苦手なんで」
「ヨロシクな」
「よろしくね」
「よろしくお願いします」
僕と佑が上手くやれているのは、貸し借りナシの関係だからだ。
友人だからなにかするのは当然。やりたいからやっているだけ。
僕にとって初めての探索者の友人。
この二人ともそういう関係になれたらなと思う。
【後書き】
次回――『掲示板回(3)』
リリスの事務所「彫刻絶対NG」
虎夫には似合わない蕩け顔で画像を見せてくれた――。
7,8歳ぐらいの女の子。
白いワンピースに麦わら帽子。
ひまわり畑の中で、ひまわりのように輝く笑顔。
確かに天使だ。
しかも、この表情は完全に心を許している相手に向けられたものだ。
えっ、これは、通報した方がいいの?
「なあ、カワイイだろ?」
「えっと……」
「娘の虎虎《とらこ》だ。どうした、そんなに見入って。いくらひでおでも娘はやらんぞ」
「とらこ……」
色々と衝撃的すぎて、頭が追いつかない……。
「下心で近づいてくる探索者が多いから普段は警戒してるんだけど、いきなりこの画像を送られてね。話しても親バカ丸出しなんです」
「まあ、そんなわけで、一緒に依頼を受けようって話になったんだよ」
「まさか、ひでおさんが来るとは思わなかったけど」
「そういうことだったんだ……」
「ああ、驚いたぜ」
いや、驚いたのはこっちの方なんだけど……。
「そうそう。この前、助けてもらったお礼があるんだよ」
「えっ、いや、そう気をつかわなくても……」
「ああ、そう言うと思ってな」
「お金やなんかだと、ひでおさんにはあまり喜んでもらえないと思ったので」
「なに、大したもんじゃねえから受け取ってくれよ」
「はあ」
虎夫がカバンからある物を取り出す。
それは――。
「これなら受け取ってくれるだろ?」
ぬいぐるみだ。
クレーンゲームの景品のようなヤツ。
でも、手作りの品だってひと目で分かる。
だって――。
「ダンジョンヒーローですね」
「ああ」
それはダンジョンヒーローをデフォルメした可愛らしいぬいぐるみだった。
わざわざ手作りしてくれたのか。
思いがけないものだったが、これは嬉しい。
「ありがとうございます! 大切にします!」
二人に感謝して頭を下げる。
「でも、リリスさん凄いですね。こんなに上手に」
「私じゃないんです」
リリスさんが虎夫を指差す。
「えっ、もしかして」
「ああ、俺の手作りだ」
「こんな顔して、手芸が趣味なんですって」
「えええええっ!!!!」
「娘に頼まれて作ってるうちにハマってな」
今日の虎夫には驚かされっぱなしだ。
「売り物に出来るくらいのクオリティーですね」
「ああ、気合い入れたからな。俺のぬいぐるみはそこそこの値段で売れるんだぜ」
「探索者を辞めても、これで食べて行けそうですね」
「おう。引退したら、その道もありだな」
「これ、配信で紹介してもイイですか?」
「もちろんだぜ。前回の配信で俺の印象が悪いかもしれないからな。これでイメージアップだ」
「あはは」
確かにイメージは変わるだろうが、それは良い方向なんだろうか……。
「私からはこれです」
リリスさんもカバンからある物を取り出す。
それは――。
「彫刻……」
「ダンジョンヒーロー様の彫刻です。今回は自信作ですよ」
「えっと…………ありがとう……ございます」
彫刻だ。
宇宙怪獣にしか見えない彫刻だ。
ダンジョンヒーロー要素は腕が二本あるくらい。
下半身はどうなってるのかよく分からない。
クラインの壺かな?
虎夫を見ると、なんとも言えない苦笑いをしてる。
「私のも是非、配信で紹介してください」
「えっ……あっ……はい」
ニコニコ顔のリリスさんを見ていると、「それはちょっと」とは言いづらい。
紹介したら、リリスさんのイメージはどうなっちゃうんだろ……。
ともあれ、気持ちは嬉しい。
「お二人とも、ありがとうございました」
「なに、礼を言うのはこっちだ。命の恩人だからな」
「そうです。ひでおさんがいなかったら、二人ともこの場所にいないですからね」
「じゃあ、これで貸し借りなしということにしましょう」
「こっちの借りが多すぎますけどね」
「でも、ひでおとしては、これで終わりにしたいんだろ」
「はい。貸しとか借りとか苦手なんで」
「ヨロシクな」
「よろしくね」
「よろしくお願いします」
僕と佑が上手くやれているのは、貸し借りナシの関係だからだ。
友人だからなにかするのは当然。やりたいからやっているだけ。
僕にとって初めての探索者の友人。
この二人ともそういう関係になれたらなと思う。
【後書き】
次回――『掲示板回(3)』
リリスの事務所「彫刻絶対NG」
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