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041 八王子ダンジョン(9)
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名探偵が動くと殺人事件が起こる。
ヒーローが動くとイレギュラーが起こる。
まあ、そういうことです。
【本文】
「虎夫、指揮してくれ」
俺に出来るのはモンスターを倒し、誰かを助けることだけだ。
他人を動かすのは不得意だ。
神保町ダンジョンでの狩りの季節を思い出す。
――たとえ苦しくなろうとも、弱者を逃がす。
――パーティーメンバーに的確な指示を出し、見事な連携を実行する。
――味方を救うためであれば、自分の命を簡単に捨てられる。
――究極の場面で正しい判断を行える。
どれも俺には出来ないこと。
俺が知る限り、虎夫は最高のリーダーだ。
「ヒーロー、お前ひとりでボスザルを倒せるか?」
山頂にいるボスザルは大勢のメスザルに囲まれ、この戦いを楽しそうに見下ろしている。
完全に舐めきった態度だ。
ボスザルのスペックは事前に調べておいた。
ひとつ気になるのは、ここに来るまでに見かけた大量のワイルドベリー。
この木の実はサルどもにとって餌であるだけでなく、能力強化する効果もある。
あれだけの量があるということは、相当強化されているはずだ。
だから、他の探索者が苦戦しているし、ボスザルの予想スペックも上方修正する必要がある。
だが、それでも――。
「ああ、問題ない」
深々層に生息するモンスターほどではない。
怪我を負わずに完勝できる相手だ。
ただ――。
「俺が倒しちゃって構わないのか?」
「そこなんだよな」
俺の疑問を虎夫もちゃんと理解している。
怖いのはボスが死んだことで、サルどもの秩序が崩壊すること。
そうなれば、サルは凶暴化し、攻撃は今以上に熾烈になる。
「時間稼ぎを頼めるか?」
「なにか、策があるのか?」
「ああ」
「だから、それまで防御に徹して、被害を最小限にとどめてくれ」
「分かった。お前を信じる」
虎夫を頷くと、大声で叫ぶ。
「おい、ダンジョンヒーローが来てくれたぞ。ボスザルはヒーローがなんとかしてくれる。それまで粘るんだ。倒す必要はない。防御に徹しろ。分かったか?」
「おおおおお」
「悪しきモンスターから探索者を救うダンジョンヒーロー、ここに見参ッ!」
歓声が上がる。
今まで押され気味だった士気が一気に高まる。
よし、後の指揮は虎夫に任せた。
事前に八王子ダンジョンのことは調べ尽くした。
正確に言えば、佑が作ってくれた資料を読んだだけだが。
――だから、問題ない。
ヒーロースーツはある機能を備えている。
この局面にうってつけの機能だ。
本当はまだ人前で晒したくなかった機能だ。
佑にも、「面白いからまだ出すな」と言われている。
だけど、状況で被害を最小限に抑えるためには使わざるをえない。
「ダンジョンにヒーローがいる限り、悪のモンスターが栄えることはない。正義の味方ダンジョンヒーローここにありッ!」
俺はファイティングモンキーには目もくれず、戦闘の間を切り抜け、サル山にたどり着き。
「ヒーロージャァァァンプッッッ!!!」
一気に頂上まで跳び上がる。
――ウキキィ。
完全に油断していたボスザルだったが、すぐに立ち上がり戦闘態勢を取る。
それと同時にメスザルどもが散っていく。
ボスザルは隙だらけ。
倒すだけだったら、もう終わっていた。
が。
目的は別にある――。
俺はダッシュでボスザルに迫る。
まったく目で追えていないボスザルの頭を掴む。
掴むだけ。頭を潰したりはしない。
5秒経過。
ようやくボスザルが反応し、腕を振り回す。
俺は反射的に反撃しそうになり――。
「おっと」
バックステップでボスザルから離れる。
危ない危ない。殺してしまうところだった。
相手を殺さずに目的を果たす。
クアッドスケルトン戦でアイテムをゲットしたときと同じ――縛りプレイだ。
アイツくらい強ければ、逆に簡単なのだが……。
弱すぎるボスザルは気を抜いたら倒してしまう。
慎重に行かないとな。
それからも俺は同じことを繰り返す。
ボスザルに近づき。
頭を掴み。
反撃を躱してバックステップ。
舐めてるわけではない。
今回の一件を無難に終わらせるために、最適な方法なのだ。
10秒。
20秒。
30秒。
必要なタメ時間が蓄積されていく。
下を見ると虎夫の指示で探索者が上手に立ち回っている。
まだ、死者は出ていないようだ。
40秒
50秒。
60秒。
よし、目標達成!
俺は切り札を発動させる。
「ヒーローチェェェンジィィィィ!!!」
【後書き】
次回――『八王子ダンジョン(10)』
ヒーローの切り札とは?
感想欄でネタバレしてくれー!
ヒーローが動くとイレギュラーが起こる。
まあ、そういうことです。
【本文】
「虎夫、指揮してくれ」
俺に出来るのはモンスターを倒し、誰かを助けることだけだ。
他人を動かすのは不得意だ。
神保町ダンジョンでの狩りの季節を思い出す。
――たとえ苦しくなろうとも、弱者を逃がす。
――パーティーメンバーに的確な指示を出し、見事な連携を実行する。
――味方を救うためであれば、自分の命を簡単に捨てられる。
――究極の場面で正しい判断を行える。
どれも俺には出来ないこと。
俺が知る限り、虎夫は最高のリーダーだ。
「ヒーロー、お前ひとりでボスザルを倒せるか?」
山頂にいるボスザルは大勢のメスザルに囲まれ、この戦いを楽しそうに見下ろしている。
完全に舐めきった態度だ。
ボスザルのスペックは事前に調べておいた。
ひとつ気になるのは、ここに来るまでに見かけた大量のワイルドベリー。
この木の実はサルどもにとって餌であるだけでなく、能力強化する効果もある。
あれだけの量があるということは、相当強化されているはずだ。
だから、他の探索者が苦戦しているし、ボスザルの予想スペックも上方修正する必要がある。
だが、それでも――。
「ああ、問題ない」
深々層に生息するモンスターほどではない。
怪我を負わずに完勝できる相手だ。
ただ――。
「俺が倒しちゃって構わないのか?」
「そこなんだよな」
俺の疑問を虎夫もちゃんと理解している。
怖いのはボスが死んだことで、サルどもの秩序が崩壊すること。
そうなれば、サルは凶暴化し、攻撃は今以上に熾烈になる。
「時間稼ぎを頼めるか?」
「なにか、策があるのか?」
「ああ」
「だから、それまで防御に徹して、被害を最小限にとどめてくれ」
「分かった。お前を信じる」
虎夫を頷くと、大声で叫ぶ。
「おい、ダンジョンヒーローが来てくれたぞ。ボスザルはヒーローがなんとかしてくれる。それまで粘るんだ。倒す必要はない。防御に徹しろ。分かったか?」
「おおおおお」
「悪しきモンスターから探索者を救うダンジョンヒーロー、ここに見参ッ!」
歓声が上がる。
今まで押され気味だった士気が一気に高まる。
よし、後の指揮は虎夫に任せた。
事前に八王子ダンジョンのことは調べ尽くした。
正確に言えば、佑が作ってくれた資料を読んだだけだが。
――だから、問題ない。
ヒーロースーツはある機能を備えている。
この局面にうってつけの機能だ。
本当はまだ人前で晒したくなかった機能だ。
佑にも、「面白いからまだ出すな」と言われている。
だけど、状況で被害を最小限に抑えるためには使わざるをえない。
「ダンジョンにヒーローがいる限り、悪のモンスターが栄えることはない。正義の味方ダンジョンヒーローここにありッ!」
俺はファイティングモンキーには目もくれず、戦闘の間を切り抜け、サル山にたどり着き。
「ヒーロージャァァァンプッッッ!!!」
一気に頂上まで跳び上がる。
――ウキキィ。
完全に油断していたボスザルだったが、すぐに立ち上がり戦闘態勢を取る。
それと同時にメスザルどもが散っていく。
ボスザルは隙だらけ。
倒すだけだったら、もう終わっていた。
が。
目的は別にある――。
俺はダッシュでボスザルに迫る。
まったく目で追えていないボスザルの頭を掴む。
掴むだけ。頭を潰したりはしない。
5秒経過。
ようやくボスザルが反応し、腕を振り回す。
俺は反射的に反撃しそうになり――。
「おっと」
バックステップでボスザルから離れる。
危ない危ない。殺してしまうところだった。
相手を殺さずに目的を果たす。
クアッドスケルトン戦でアイテムをゲットしたときと同じ――縛りプレイだ。
アイツくらい強ければ、逆に簡単なのだが……。
弱すぎるボスザルは気を抜いたら倒してしまう。
慎重に行かないとな。
それからも俺は同じことを繰り返す。
ボスザルに近づき。
頭を掴み。
反撃を躱してバックステップ。
舐めてるわけではない。
今回の一件を無難に終わらせるために、最適な方法なのだ。
10秒。
20秒。
30秒。
必要なタメ時間が蓄積されていく。
下を見ると虎夫の指示で探索者が上手に立ち回っている。
まだ、死者は出ていないようだ。
40秒
50秒。
60秒。
よし、目標達成!
俺は切り札を発動させる。
「ヒーローチェェェンジィィィィ!!!」
【後書き】
次回――『八王子ダンジョン(10)』
ヒーローの切り札とは?
感想欄でネタバレしてくれー!
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