36 / 57
036 八王子ダンジョン(4)
しおりを挟む蔓に絡め取られ、身動きが取れない男性三人組みパーティー。
そして、5体のワイルドモンキーが離れてところで「キャッキャッ」と浮かれ騒ぐ。
一人が罠にかかり、慌てて助けようとして、残りの二人も引っかかった――というところだろう。
「たっ、助けて」
「もう、やめてくれ」
「ママ~」
磔《はりつけ》にされた三人に向かって、ワイルドモンキーが石を投げつける。
石が当たるたびに、奴らが喜ぶ。
ワイルドモンキーは相手をいたぶって楽しむという悪趣味な性格をしている。
すでに何度も石をぶつけられたようだ。
三人の装備は傷つき、顔もボコボコだ。
大怪我を負うわけではないが、逃げることも出来ず、一方的になぶられる――この恐怖は相当なものだろう。
彼らは俺と同じくらい、高校生だろう。
「この若さでここまで来られるのは、なかなか優秀だ」
しかし、彼らは罠にハマり泣き叫んでいる。
ダンジョンで油断は大敵だ。
だが、問題ない。
ダンジョンヒーローが駈けつけたから。
「ダンジョンにヒーローがいる限り、悪のモンスターが栄えることはない。正義の味方ダンジョンヒーローここにありッ!」
ワイルドモンキーの気を惹くように大声で叫ぶ。
「ダンジョンヒーローさん!」
「助けてください」
「ああ、心配するな。すぐに終わらせる」
俺は飛び出し、ワイルドモンキーに近づく。
奴らが反応する前に、一体を掴む。
「ヒーロージャイアントスイングゥゥゥ!!!」
ワイルドモンキーの身体をぶん回し、残りの4体をぶっ飛ばす。
4体は絶命。掴んでいたヤツも死んだ。
呆気にとられている三人の元へ向かい、蔦を切る。
解放された三人はその場にへたり込んだ。
「大丈夫か?」
俺を見上げ、三人はホッとした表情を浮かべる。
だが、まだ身体が震えている。
よっぽどの恐怖だったのだろう。
「ポーションは持ってるか?」
「はい、あります」
三人は自前のポーションを飲み、傷を癒やす。
彼らが落ち着いてから、俺は変身を解除する。
まだショックから立ち直れず、座ったままの彼らに話を聞く。
「八王子ダンジョンは何回目ですか?」
「今日が初めてです」
「では、罠にハマったのさっきのが初めてですか?」
「はい、そうです」
やっぱりな。
慣れていれば、最初の一人が罠にハマった時点で警戒する。
慣れていないから助けようとして、二次被害を起こしてしまったのだ。
「この後はどうしますか? 必要ならば出口まで送りますけど」
さっきの女性探索者は平気そうだったけど、彼らは心配で放っておけない。
僕の問いかけに三人は顔を見合わせる。
三人とも同じ気持ちのようだ。
「お願いします」
「わかりました。歩けるようになったら出発しましょう」
三人の回復を待つ間、さっきの協会職員に連絡を入れる。
彼らを送り届けるために、出口に向かうと伝えるためだ。
「もう、大丈夫です」
「では、出発しましょう」
三人を連れて、歩き始める。
「あ、そうでした。さっきの救出シーンを録画していたのですが、動画に使ってもよろしいですか。ご希望でしたら、モザイクとボイスチェンジャーを入れてますので」
僕が尋ねると、三人は相談を始めた?
「どうする?」
「恥ずかしいだろ」
「俺、ママって言っちゃったぜ」
「でも、モザイクかけてくれるって言ってるし」
「うーん、バレないかな?」
「バレたら絶対にからかわれるよな」
「彼女に『今日、八王子ダンジョンに行く』って言ってるしな」
「身内なら、分かりそうだよな」
「でも、記念っちゃあ記念だぜ」
「いや、でも……」
三人はどっちつかずで悩んでいる。
「今日は5時までやってるので、一休みしてから協会の職員に伝えてもらえれば結構ですよ。連絡がなければ採用しませんので」
「ありがとうございます。三人で相談してみます」
この一件はとりあえず保留ということで終わらせようとしたところ、一人から話しかけられた
「ダンジョンヒーローさん。お願いがあるのですが」
「ああ、今はひでおでいいですよ」
「ひでおさん、俺たちに――」
【後書き】
次回――『八王子ダンジョン(5)』
0
お気に入りに追加
287
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ
高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。
タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。
ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。
本編完結済み。
外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる