変身ダンジョンヒーロー! 正体不明の特撮ヒーローとして活躍するはずが、配信切り忘れで有名女配信者を助けてしまい、初回から身バレしてしまう

まさキチ

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024 上野毛ダンジョン(2)

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 僕は声のもとに向かって走り出した。

「こっちだ」

 ダンジョン入り口の方へと駈ける。
 女性の声がだんだんと近くなっていく。
 この感じだと、下層入り口付近みたいだ。

 あと少し、というところで声が途絶えた。

「間に合ってくれ」

 全力で飛ばして、声のした部屋に駆け込むと――。

「おら、助けてやろうか?」
「恩返ししてくれるんなら、助けてやるぞ」

 下卑た笑い声を上げる二人の男性探索者。
 金髪と編み込み。
 ガラの悪そうな二人だ。

 二人の視線の先を見ると、そこには――。

「レインボースパイダーか」

 体長3メートルの蜘蛛型モンスター。
 攻撃方法はカラフルな糸を吐き出して、相手を絡め取る。

 そして、今、まさに誰かがグルグル巻きにされている。
 声の主に違いないが、身動きが取れず、口を塞がれ、くぐもった声を上げることしかできない。

 状況は把握した――急がないと。

「ダンジョンヒーロー。変身ッ!!」

 ダンジョンヒーローが探索者を助けるのは、基本的に助けを求められたときだけだ。
 力を持たぬ一般人なら別だが、探索者の場合は話が違う。
 少しピンチになったからといって、気軽に誰かに頼るようでは探索者は務まらない。
 そんな甘い気持ちでは、いずれ取り返しのつかないことになる。

 虎夫をギリギリまで助けなかったのは、彼の探索者としての矜持を尊重したからだ。
 彼は初心者ではない。熟練の探索者だ。
 彼はギリギリまで自分の力でなんとかしようとした。
 探索者としての誇りを示した。
 だからこそ、俺は踏ん張った――飛び出したくなる気持ちを必死で押さえ込んで。

 だが、命の危険にさらされている場合は別だ。
 求められなくても、俺は助ける。
 後で、文句を言われても構わない。
 それがヒーローの生き方だからッ。

「悪しきモンスターから探索者を救うダンジョンヒーロー、ここに見参ッ!」

 変身した俺はピンクスパイダーから女性に伸びる糸に向かって――。

「ヒーローチョォォォォプォォォ!!!」

 手刀で糸を断ち切る。
 そのまま糸を掴み、女性に巻き付けられた糸を巻き取っていく。

 1メートル。
 2メートル。
 3メートル。

 女性の上半身が顕《あら》わになる。
 半ば解放された女性はケホケホと咳き込む。
 目が回ってしまったかもしれないが、これで命の心配はない。

 俺はその糸を男たちに向かって投げる。
 糸は二人をまとめて拘束した。
 これで逃げられない。

 ――さあ、後は蜘蛛退治だけだ。

 ようやく俺の乱入に気がついたレインボースパイダーは、俺に向かって糸を吐き出す。
 俺はそれをキャッチして引っ張る。
 ピンクスパイダーは8本の足で踏ん張るが――綱引きは俺の勝ちだ。
 こっちに向かって飛んでくるピンクスパイダーに向かって――。

「ヒーローカウンターアタァァァァァクッッッ!!!」

 拳が顔にめり込み。
 プツンと糸が切れ。
 巨体が吹っ飛ぶ。

 ごおぉん――と音を立て、壁に衝突したピンクスパイダーは絶命した。

 糸まみれの男たちは必死にもがいているが、糸から脱出できずにいる。
 それを確認してから、倒れている女性の元へ歩み寄る。

「大丈夫か?」

 声をかけるが返事はない。
 呼吸は問題ないので、そのうち目を覚ますだろう。
 糸の切れ端がいくつも付いていて、顔はよく分からないが、俺と同じくらいの若い女性だ。
 勝手に顔に触れるのもどうかと思い、下半身の糸だけを切断する。
 目立った怪我はないようだ。

 女性の無事に安心した俺は、男たちに近づく。
 だいたいの事情は察した。
 男たちは俺を見上げて、怯えた顔をする。

「ちっ、違うんだ」
「なあ、助けてくれよ」

 なにが違うんだ。

 コイツらは探索者だが――悪だ。
 ダンジョンヒーローは悪を見逃さない。

 手刀を二発。
 男たちの意識を刈り取った。

「ふう」

 俺は変身を解除し、ひでおに戻る。
 それから通信機を取り出し、ある番号にかける。
 呼び出し音がなってすぐ、相手が出る。

「こちらダンジョン救援課です。どうなさいましたか?」
「実は――」
「分かりました。すぐに向かいます」

 これで探索者協会の人間がやってくる。
 後の処理は彼らに任せよう。

 しばらくして、女性が目を覚ました。

「大丈夫ですか?」
「はい。ありがとうございます」

 声もしっかりしている。
 後遺症もなさそうだ。

 女性は顔に張りついた糸を剥がしていく。
 そこに現れた顔は僕がよく知っている相手だった。

「カコさん!」
「ひでお君!」
【後書き】
次回――『上野毛ダンジョン(3)』
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