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023 上野毛ダンジョン(1)
しおりを挟む――キンコンカンコーン。
授業終わりのチャイムが鳴る。
「ひでお、昼飯はどうする? 学食行くか?」
「ううん。落ち着かないから、家で食べるよ」
こうやって佑と会話しながらも、帰り支度をしているクラスメートのチラチラ視線を感じる。
佑のおかげか、霧島さんの一件があったからか、直接話しかけられたりはしないが、どうも落ち着かない。
教室でこれなのだから、学食はとても耐えられない。
学食のコロッケカレーが好きなんだけど、しばらく食べられないのは少し残念。
佑と一緒に教室を後にし、話しながら駅へ向かう。
改札を抜けたところで、佑とはお別れだ。
「じゃあ、6時な」
「うん」
「遅れんなよ?」
「え?」
「どうせ、この後ダンジョンに潜るんだろ?」
「なんで分かったの?」
「ひでおのことはお見通しだからな」
「説明になってないよ」
「これ以上、必要か?」
「ううん」
いつもの笑顔を向けられ、僕も自然と笑みがこぼれる。
「それより、佑の方は間に合うの?」
「おう、この後、急ピッチで仕上げるからな。楽しみにしてろよ」
「うん。じゃあね」
「じゃあな」
佑に背を向けて歩き出したところで「ひでお」と呼び止められる。
「なに? うわっ」
振り向いた僕は飛んできた物をキャッチする。
「バナナ?」
「ソワソワし過ぎだよ。どうせ、昼飯は適当に済ますつもりだろ。それ食っとけ」
「うん」
「探索者は身体が資本だからな。忙しいときはバナナかゆで卵を食べとけ」
佑の言う通りだった。
本当に佑はなんでもお見通しだ。
自宅に戻りバナナを食べてダンジョンに向かう。
夜には告知配信が控えているので、今日は近場のダンジョンだ。
最近はずっとヒーロー配信ばっかりだったので、久しぶりにひでおとして気ままにダンジョン探索ができる。
配信ではまともな戦闘はクアッドスケルトンくらいで、格下相手ばかりだったから、強いモンスターと戦って勘を取り戻しておきたい。
それと――もうひとつ目的がある。
自宅を出て、多摩川を背に坂を登っていく。
環状八号線を越えてしばらく進むと、上野毛《かみのげ》ダンジョンがある。
自宅から最寄りのダンジョンで、探索者に成り立ての頃にお世話になったダンジョンだ。
久々だったので、懐かしさを感じながらダンジョンに入る。
上野毛ダンジョンは初級向けダンジョンだ。
同時出現モンスターが少ないので、モンスターに囲まれることなく危険性が低い。
安全マージンを確保して無理しなければ、事故が起こることはまずない。
土曜日ということもあって、上層は混み合っているが、誰も僕のことには気づかないようだ。
自分がモブであることを喜ぶべきか、悲しむべきか……。
ともかく、誰にもジャマされることなく下層までダッシュで駆け抜ける。
ここまでモンスターは全スルーしてきた。
僕の速さについてこられないし、戦うまでもない相手だから。
「ウォームアップがてら、戦っていこうかな」
ダッシュするのに変わりはないが、目についたモンスターは片っ端から倒していく。
オーク。
オーガ。
ミノタウロス。
ケンタウロス。
リザードマン。
複数のモンスターを撫で斬りにしながら、深層へと突っ走る。
――午後2時。
「6時に配信スタートだから、余裕をもって4時頃には引き上げないとね」
2時間で目的が果たせるかどうか――まあ、やってみよう。
「おっ、さっそくだね」
モンスターの気配を感じる。
下層までとは違って、深層のモンスターはヒリつくような空気を纏っている。
僕がダンジョンに潜った目的は――。
昨日ゲットしたクアッドスケルトンのドロップ品――四本の死骨剣。
これを使った戦い方を思いついたので、実際に使えるか試してみたいから。
現れたのはギガタートル。
全長5メートルの巨大な亀型モンスターだ。
「硬いコイツなら、ちょうど良いかな」
僕は収納袋から死骨剣を取り出し――。
――午後四時。
「そろそろ帰ろう」
死骨剣を使った新しい技。
慣れるまでは時間がかかったが、2時間たっぷり試し斬りをしたおかげで、実戦も文句ないレベルまで使いこなせるようになった。
「これなら、次回の配信でみんなにも楽しんでもらえるかな」
新技は強力な攻撃であるだけでなく、見栄えの良い技だ。
きっと喜んでもらえると思う。
満足しながら帰ろうとした、そのとき――。
「…………」
遠くから聞こえるかすかな声。
ちゃんとは聞き取れなかったが、どこか切迫したような女性の声だ。
「念のために、行ってみよう」
僕は声のもとに向かって走り出した。
【後書き】
次回――『上野毛ダンジョン(2)』
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