変身ダンジョンヒーロー! 正体不明の特撮ヒーローとして活躍するはずが、配信切り忘れで有名女配信者を助けてしまい、初回から身バレしてしまう

まさキチ

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004 咲花リリス(2)

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 絶体絶命のピンチ――。

 だけど、不思議と怖くなかった。
 諦めた命が――つながった気がした。

「危ないッ!」

 ふわりと浮く感覚――すっと柔らかく着地する。

「大丈夫か?」
「はっ、はい!」

 彼に抱えられたのだ。
 私の身体をそっと下ろしながら、私を気遣う声――優しく、強く、頼もしい声だ。

 私はもう、なんの心配もしていない。
 恐怖心はどっかに消え去り、安心感だけが全身を駆け巡る。

 彼はオーガに向かって立つ。
 その背中は大きく、揺るぎない。

「悪しきモンスターから探索者を救うダンジョンヒーロー、ここに見参ッ!」

 テレビで聞いたようなセリフ。
 特撮ヒーローみたいなポーズ。

 あまりにも場違いすぎる。

”ヒーローキター”
”ダンジョンヒーローw”
”なに、コイツwww”
”でも、強そうだぞ”
”リリちゃん、危なかった”
”誰でもいいから、オーガやっつけてくれー”
”ここで倒せば、マジモンの英雄”
”つーか、同接ヤバくね”
”12万超えてる!”
”頑張れー”
”頑張れー”
”信じてるぞ”
”リリちゃんを助けてくれー”

 でも、ふざけてるんじゃない。
 彼は真剣だ。
 本物のヒーローみたいに。

 私は彼の姿から目を離せなかった。

「ええい、成敗ッ!」

 彼はオーガに駆け寄り――。

「ヒーローパアアアアンチィィィ!!!」

 ――ズドォオォオン。

 彼の拳がオーガの土手っ腹を貫き、オーガが倒れる。
 たった一撃で、変異種オーガを倒しちゃった。

”うおおおおおお”
”おおおお”
”ぽおおおおお”
”わあああああ”

 配信端末をチラリと見ると、もの凄い勢いでコメントがつけられていく――。
 お祭りになるようなイベントがあったときには、滝のようにコメントが流れる。
 今回はそれ以上だ。私の配信で一番のコメント量。バズ間違いなしだ。

”かっけえええ”
”強ええ”
”強すぎだろ”
”変異種オーガをワンパンとか”
”意味不明の強さじゃん”
”どっかのSランク冒険者だろ”
”覆面キャラか”
”リリちゃんを助けてくれてありがとー”
”最初は変人かと思ってたけど、マジで感謝”
”リリちゃんの命の恩人”
”感謝感謝”
”多謝”
”サンキュー”
”テンキュー”

「ふぅ」

 彼はひとつ息を吐く。
 それに合わせて、私の緊張も和らいだ。

「あっ、ありがとうございます!」

 座ったままの体勢で、私はお礼の言葉を述べる。
 声が上ずってしまった。
 心臓の音が聞こえそうなほどドキドキしている。
 死の淵から生還した喜びか。
 それとも――。

「怪我はないか?」
「足をくじいちゃいましたけど、回復薬があるので」
「そうか」

 若いような、貫禄のあるような。
 不思議な声だった。
 柔らかく、穏やかな口調。
 心が温かくなる。

 私は回復薬で怪我を癒やして立ち上がる。

「あなたに助けてもらわなかったら、私、死んでました」

 頭を下げると、目から涙がこぼれた。

「このお礼は必ず返しますので」
「不要だ」
「困っている人がいれば助ける、それがダンジョンヒーロー。見返りはいらない」
「せめて、お名前だけでも」
「俺はダンジョンヒーロー。他の名は持たぬ」
「ダンジョンヒーロー様……また、お会いできますか?」

 彼――ダンジョンヒーロー様は首を横に振る。
 心がギュッとわしづかみにされ、切なさがひと筋こぼれる。
 目元を拭う私に、ダンジョンヒーロー様は心配そうな声をかけてくれる。

「後は一人で大丈夫か?」
「はっ、はい」
「では、失礼」

 現れたときも突然だったが、去るときも突然だった。

 恩に着せることもなく。
 自慢げに振る舞うこともなく。
 必要以上にベタベタすることもなく。

「かっこいい……」

 きびすを返して、彼は立ち去る。
 その背中は名乗った通り、ヒーローの背中だった。
 私はいつまでも、見えなくなっても、しばらくの間、彼の後ろ姿を見つめていた。

「はっ!」

 しばらくたって我に返る。
 見蕩れてぼうっとしてしまったが、今は配信中だった。

「ごめんね。みんな」

”無事で良かった”
”ふぅ。ひと安心”
”リリちゃんが生きてて良かった”
”今回はヤバいかと思った”
”生還おめでとう!”
”りりたーん!!”
”お姉様ー”

 私の無事を喜んでくれるコメントが流れる。

「ちょっと、今日はもう配信できる状態じゃないから、ここで終わりにします。また、見てくださいね」

”おつおつ~”
”乙”
”またねー”
”バイバーイ”
”ノシノシ”

 配信端末を操作し、配信を終了する。
 配信終了後はふわふわとした高揚感がある。
 だけど、今日はいつもと違う感覚だ。

 普段なら配信終わりに、「高評価、チャンネル登録お願いします」と言うのだが、それすらも忘れていた。
 なぜなら、私の頭の中には、視聴者のみんなではなく、彼だけしかいなかったから。

「ダンジョンヒーロー様…………」

【後書き】
次回――『掲示板回(1):咲花リリス総合スレ』
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