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002 ヒーロー登場!
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「こっちだ」
俺は魔力探知で声の方向を探る。
「近いな。けど……」
直線距離なら20メートル程度。
だが、俺と彼女との間にはダンジョンの壁がいくつか挟まれている。
グルッと迂回している余裕はない。
ならば――。
「ヒーローキィィィィィクッッ!!」
――ドゴォン
――ドゴォン
――ドゴォン
跳び蹴りが三枚のダンジョン壁を蹴破り、俺はクルッと綺麗に着地ポーズを決める。
何百回、何千回と練習したポーズだ。
イメージ通りの格好いい態勢で、ちらりと状況を確認する。
怪我をして倒れている女性探索者。
そして、黒くひと回り大きなオーガ――変異種だ。
「えっ!?」
「グルゥ」
女性と変異種オーガは突然の俺の乱入に、一瞬、動きを止める。
先に動いたのはオーガだった。
俺には目もくれず、女性に襲いかかる。
「危ないッ!」
俺は女性に駆け寄り、抱え上げ、ジャンプしてオーガの一撃を回避する。
ふぅ。ギリギリ間に合ったか。
「大丈夫か?」
「はっ、はい!」
女性は動揺しているようだが、怪我はそれほどではなさそうだ。
俺は彼女をそっと下ろす。
そして、オーガに向かって立つ。
「悪しきモンスターから探索者を救うダンジョンヒーロー、ここに見参ッ!」
長年温めていた決めゼリフで、俺のテンションが最高潮までアガる。
どうだ。今の俺は憧れていた正義の味方だ。
オーガごとき、カッコ良く倒してみせる。
そんな俺の思いとは別に、冷たい空気が場に流れる。
俺を凝視する彼女の視線が痛い。
スベったか? まあいい。
「ええい、成敗ッ!」
冷や汗が流れるのを誤魔化すように、俺はオーガに駆け寄り――。
「ヒーローパアアアアンチィィィ!!!」
――ズドォオォオン。
俺の拳がオーガの土手っ腹を貫く。
拳を抜くと、オーガは倒れ、しばらくして煙のように消える。
「ふぅ」
上手くいった。
やりきったことに俺は満足していた。
感傷に浸っていると、女性から声をかけられる。
「あっ、ありがとうございます!」
振り向いたら、倒れたままの女性から感謝の言葉をかけられる。
ちゃんとお礼を言える人で良かった。
戦いに乱入した場合、下手すると「ジャマするな」「横殴りするな」って怒られることもあるらしいからな。
ずっと人目を避けてきた俺はよく知らないけど。
「怪我はないか?」
「足をくじいちゃいましたけど、回復薬があるので」
「そうか」
女性は回復薬で怪我を癒やし、立ち上がる。
年齢は二十歳前後。
よく見たら凄い美人だ。
どこかで見たことがあるような気が……有名配信者かもしれない。
「あなたに助けてもらわなかったら、私、死んでました」
女性の目に涙が浮かぶ。
よっぽど、怖かったのだろう。
「このお礼は必ず返しますので」
「不要だ」
「困っている人がいれば助ける、それがダンジョンヒーロー。見返りはいらない」
「せめて、お名前だけでも」
「俺はダンジョンヒーロー。他の名は持たぬ」
「ダンジョンヒーロー様……また、お会いできますか?」
俺が首を横に振ると、彼女は悲しそうな表情を浮かべる。
だが、ヒーローはカッコ良く去らねばならない。
「後は一人で大丈夫か?」
「はっ、はい」
「では、失礼」
俺は彼女を残して走り去る。
彼女の視界から外れたところで、ヒーローモードを解除して、僕は田中ひでおに戻る。
その後は、こっそりとダンジョンを脱出し、人知れず自宅へと帰った。
【後書き】
次回――『咲花リリス(1)』
俺は魔力探知で声の方向を探る。
「近いな。けど……」
直線距離なら20メートル程度。
だが、俺と彼女との間にはダンジョンの壁がいくつか挟まれている。
グルッと迂回している余裕はない。
ならば――。
「ヒーローキィィィィィクッッ!!」
――ドゴォン
――ドゴォン
――ドゴォン
跳び蹴りが三枚のダンジョン壁を蹴破り、俺はクルッと綺麗に着地ポーズを決める。
何百回、何千回と練習したポーズだ。
イメージ通りの格好いい態勢で、ちらりと状況を確認する。
怪我をして倒れている女性探索者。
そして、黒くひと回り大きなオーガ――変異種だ。
「えっ!?」
「グルゥ」
女性と変異種オーガは突然の俺の乱入に、一瞬、動きを止める。
先に動いたのはオーガだった。
俺には目もくれず、女性に襲いかかる。
「危ないッ!」
俺は女性に駆け寄り、抱え上げ、ジャンプしてオーガの一撃を回避する。
ふぅ。ギリギリ間に合ったか。
「大丈夫か?」
「はっ、はい!」
女性は動揺しているようだが、怪我はそれほどではなさそうだ。
俺は彼女をそっと下ろす。
そして、オーガに向かって立つ。
「悪しきモンスターから探索者を救うダンジョンヒーロー、ここに見参ッ!」
長年温めていた決めゼリフで、俺のテンションが最高潮までアガる。
どうだ。今の俺は憧れていた正義の味方だ。
オーガごとき、カッコ良く倒してみせる。
そんな俺の思いとは別に、冷たい空気が場に流れる。
俺を凝視する彼女の視線が痛い。
スベったか? まあいい。
「ええい、成敗ッ!」
冷や汗が流れるのを誤魔化すように、俺はオーガに駆け寄り――。
「ヒーローパアアアアンチィィィ!!!」
――ズドォオォオン。
俺の拳がオーガの土手っ腹を貫く。
拳を抜くと、オーガは倒れ、しばらくして煙のように消える。
「ふぅ」
上手くいった。
やりきったことに俺は満足していた。
感傷に浸っていると、女性から声をかけられる。
「あっ、ありがとうございます!」
振り向いたら、倒れたままの女性から感謝の言葉をかけられる。
ちゃんとお礼を言える人で良かった。
戦いに乱入した場合、下手すると「ジャマするな」「横殴りするな」って怒られることもあるらしいからな。
ずっと人目を避けてきた俺はよく知らないけど。
「怪我はないか?」
「足をくじいちゃいましたけど、回復薬があるので」
「そうか」
女性は回復薬で怪我を癒やし、立ち上がる。
年齢は二十歳前後。
よく見たら凄い美人だ。
どこかで見たことがあるような気が……有名配信者かもしれない。
「あなたに助けてもらわなかったら、私、死んでました」
女性の目に涙が浮かぶ。
よっぽど、怖かったのだろう。
「このお礼は必ず返しますので」
「不要だ」
「困っている人がいれば助ける、それがダンジョンヒーロー。見返りはいらない」
「せめて、お名前だけでも」
「俺はダンジョンヒーロー。他の名は持たぬ」
「ダンジョンヒーロー様……また、お会いできますか?」
俺が首を横に振ると、彼女は悲しそうな表情を浮かべる。
だが、ヒーローはカッコ良く去らねばならない。
「後は一人で大丈夫か?」
「はっ、はい」
「では、失礼」
俺は彼女を残して走り去る。
彼女の視界から外れたところで、ヒーローモードを解除して、僕は田中ひでおに戻る。
その後は、こっそりとダンジョンを脱出し、人知れず自宅へと帰った。
【後書き】
次回――『咲花リリス(1)』
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