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057 明日からどうしよ
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見慣れた天井だ。
「……帰ってきたのか」
住み慣れたアパートの薄汚れたベッドに寝っ転がって放心したまま、オレはしばらくの間動けなかった。
ベッド脇のデジタル時計に目をやる。
午後8時。日付も替わっていない。
バイト先でうたた寝したのが午後2時頃だった記憶。
だいたい6時間経過してるから、計算は合う。
ほんとに異世界に行ったんだろうか?
それとも夢を見ていただけなんだろうか?
そればかり気になって、「バイト先がどうなったか?」という問題はすごくどうでもよかった。
あらためて自分の格好を確認する。
昼間のバイト時と同じ格好――Tシャツ&デニムパンツ――そのままだ。
持ち物は――――やっぱりない。
異世界で預けたはずのスマホ、財布、家の鍵、みんなない。
バイト中はポケットに入れてたはずなんだけど…………。
なにか、異世界に行ったと証明できる品はないかと、ポケットをひっくり返すが、ポケットの中は見事に空っぽだった。
「うおおおおおおおお、めんどくせええええええええ」
なくした貴重品の数々。
それにかかる手続きのことを考えると、とたんに面倒くさくなって、俺はベッドに倒れ込んだ。
「世界を救った勇者様に、この仕打ちはあんまりだぜ…………」
打ちひしがれ、本気で凹む俺。
「はあ、ほんとにやったんだよな?」
未だに現実感がない。
俺が世界を救ったのか?
たった半日じゃ勇者やってたって実感がまったくない。
ほとんど後ろついて歩いてただけだもんな。
でも――最後はちゃんと俺がトドメを刺したんだよな。
魔核に剣を突き刺した感触はちゃんと両手に残っている。
「明日からどうしよ」
疲れたから、今日はもうこのまま寝ちゃえ、とそう思った時――。
ピンポーン。
間の抜けたチャイムの音が狭い部屋に響いた。
誰だよこんな時間に。
通販は頼んでいないし、某国営放送か?
いずれにせよ、今はそんな気分じゃない。
ベッドに寝転びシカトだシカト。
ピンポーン。
しつこいヤツだな。
こっちは異世界救ってきて疲れてんだよ。
オレは枕で遮音し、居留守を続けた。
ピンポーン。
ピンポーン。
ピンポーン。
ピンポーン。
ピンポーン。
ええーい、うるさいなあ。
でも、出ないでシカト続けてたら、あっちもそのうち飽きるだろ。
そう思い、オレは居留守を続行。
ドンドンドンドンドンドン。
今度はドアを叩き始めた。
なんだよ、おい。
オレがなんか悪いことしたのかよ。
「お届け物です~」
女の声だ。
若い女の声だ。
普段だったら、喜んで飛んで行くところだけど、今は失恋したてで傷心中。
とても、そんな気分にならなかった。
つーか、なんか聞き覚えがある声だな……。
「あれ~、いますよね~? 出ないんですか~?」
じっと息を潜め、居留守を継続。
「じゃあ、開けちゃいますね~」
ガチャガチャガチャ。
「おい、こらっ――」
鍵をガチャガチャする音に、さすがにオレは飛び起きて、玄関に向かう。
しかし、オレが触れる前に、ドアは開かれた。
「こんばんは~お届け物です~」
「なっ!? はっ!?」
目の前に立っている人物を見て――オレは固まった。
「あれ、どうしたんですか? わたしの顔になにかついてます?」
「……………………リスティア!?」
「はい、そうですよ。リスティアちゃんがお届け物に参りました~」
そう、ドアの外に立っていたのは大きな鞄を手に下げたリスティアだった。
完全無欠のドレス姿、まごうことなきキングダム王国第一王女がそこにいた。
【後書き】
次回――『オレに見せられないお説教(婉曲表現)』
「……帰ってきたのか」
住み慣れたアパートの薄汚れたベッドに寝っ転がって放心したまま、オレはしばらくの間動けなかった。
ベッド脇のデジタル時計に目をやる。
午後8時。日付も替わっていない。
バイト先でうたた寝したのが午後2時頃だった記憶。
だいたい6時間経過してるから、計算は合う。
ほんとに異世界に行ったんだろうか?
それとも夢を見ていただけなんだろうか?
そればかり気になって、「バイト先がどうなったか?」という問題はすごくどうでもよかった。
あらためて自分の格好を確認する。
昼間のバイト時と同じ格好――Tシャツ&デニムパンツ――そのままだ。
持ち物は――――やっぱりない。
異世界で預けたはずのスマホ、財布、家の鍵、みんなない。
バイト中はポケットに入れてたはずなんだけど…………。
なにか、異世界に行ったと証明できる品はないかと、ポケットをひっくり返すが、ポケットの中は見事に空っぽだった。
「うおおおおおおおお、めんどくせええええええええ」
なくした貴重品の数々。
それにかかる手続きのことを考えると、とたんに面倒くさくなって、俺はベッドに倒れ込んだ。
「世界を救った勇者様に、この仕打ちはあんまりだぜ…………」
打ちひしがれ、本気で凹む俺。
「はあ、ほんとにやったんだよな?」
未だに現実感がない。
俺が世界を救ったのか?
たった半日じゃ勇者やってたって実感がまったくない。
ほとんど後ろついて歩いてただけだもんな。
でも――最後はちゃんと俺がトドメを刺したんだよな。
魔核に剣を突き刺した感触はちゃんと両手に残っている。
「明日からどうしよ」
疲れたから、今日はもうこのまま寝ちゃえ、とそう思った時――。
ピンポーン。
間の抜けたチャイムの音が狭い部屋に響いた。
誰だよこんな時間に。
通販は頼んでいないし、某国営放送か?
いずれにせよ、今はそんな気分じゃない。
ベッドに寝転びシカトだシカト。
ピンポーン。
しつこいヤツだな。
こっちは異世界救ってきて疲れてんだよ。
オレは枕で遮音し、居留守を続けた。
ピンポーン。
ピンポーン。
ピンポーン。
ピンポーン。
ピンポーン。
ええーい、うるさいなあ。
でも、出ないでシカト続けてたら、あっちもそのうち飽きるだろ。
そう思い、オレは居留守を続行。
ドンドンドンドンドンドン。
今度はドアを叩き始めた。
なんだよ、おい。
オレがなんか悪いことしたのかよ。
「お届け物です~」
女の声だ。
若い女の声だ。
普段だったら、喜んで飛んで行くところだけど、今は失恋したてで傷心中。
とても、そんな気分にならなかった。
つーか、なんか聞き覚えがある声だな……。
「あれ~、いますよね~? 出ないんですか~?」
じっと息を潜め、居留守を継続。
「じゃあ、開けちゃいますね~」
ガチャガチャガチャ。
「おい、こらっ――」
鍵をガチャガチャする音に、さすがにオレは飛び起きて、玄関に向かう。
しかし、オレが触れる前に、ドアは開かれた。
「こんばんは~お届け物です~」
「なっ!? はっ!?」
目の前に立っている人物を見て――オレは固まった。
「あれ、どうしたんですか? わたしの顔になにかついてます?」
「……………………リスティア!?」
「はい、そうですよ。リスティアちゃんがお届け物に参りました~」
そう、ドアの外に立っていたのは大きな鞄を手に下げたリスティアだった。
完全無欠のドレス姿、まごうことなきキングダム王国第一王女がそこにいた。
【後書き】
次回――『オレに見せられないお説教(婉曲表現)』
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