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056 「特大つづら」かもしれない
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「なあ、リスティア、オレと一緒にあっちの世界に来ないか? 王族だった今までみたいに贅沢はさせられないけど、オレとあっちで楽しく暮らそうぜ」
言ってしまった。
無茶苦茶なのは自分でも分かっている。
でも、もし、リスティアがオレのことを好きでいてくれて、この世界に未練がないなら、是非とも彼女を連れて帰りたい。
それが本心だ。
オレはこの短い旅を通じて、リスティアに惹かれていった。
奔放なお姫さまなようでいて、それ以外にも様々な一面を持っているリスティア。
コロコロと変わる彼女を見ているうちに、もっと彼女のことを知りたい、もっといろんな一面を見てみたい。
そう思うようになっていた。
だからこそ、契約で縛られた関係でいたいとは思わない。
自由であるがままの彼女と一緒にいたいと思ったんだ。
だから、この世界ではなく、あっちの世界で彼女と一緒に過ごしたかったんだ。
オレが選んだのは「大きいつづら」よりも、もっと大きい「特大つづら」かもしれない。
異世界人を連れて地球に帰るなんて、正気の沙汰じゃないかもしれない。
だけど、オレはそうするのが正解な気がした。
リスティアと過ごしているうちに、そうしたいと思うようになった。
いや、召喚された最初からそう思っていたのかもしれない。
オレだって勇者に憧れる男の子だ。
困っている女の子がいたら、助けたくなるじゃないか。
幸せそうじゃない女の子がいたら、幸せにしてあげたくなるじゃないか。
「さあ、リスティア。君の気持ちを聞かせてくれ」
「さっきも言ったけど……途中で気持ちが変わったの」
目をそらさず、ゆっくりと語り出すリスティア。
今度こそ、彼女の気持ち――その核心にせまれるのか。
「最初はこんな世界滅んじゃえって思ってた。それで、わたしが死んじゃっても構わないって。でも――」
オレはゴクリと唾を飲み込む。
その先を聞きたいような、聞きたくないよな――そんな葛藤が胸を締めつける。
「――でも、途中で気持ちが変わったの。好きな人ができたから……」
ドキンと心臓が大きく跳ねる。
そうか。そうだったのか。
だったら、オレはまったくのおじゃま虫だ。
ははははは。
契約を盾にして、リスティアに迫ったりしなくてよかった。
それに、「リスティアがダメだから他の子で」ってわけにもいかない。
どっちも三下のやられ役向けの選択肢だ。
オレはそこまで厚顔無恥じゃない。
オレは勇者なんだ。
たいして活躍しなかったけど、勇者なんだ。
だったら、勇者らしく格好良く退場したいじゃないか。
できれば、リスティアともっと一緒に過ごしたかった。
だけど、まあ、しゃあない。
良い思い出ができたと思って忘れよう。
自分で選んだ道(イージーモード)なんだから、しょうがない。
どっかのテーマパークで半日遊んだと思えば、十分に得るものはあった。
可愛い女の子と仲良く旅ができた。
本物のドラゴンとの戦闘を見れたし。
群衆相手にハッたり演説ぶっこいて、大受けして気持ちよかったし。
フェニックスに乗って、空の旅も楽しめたし。
『シティー』でのかけっこも楽しかったし。
他にも『研究所』やラゴスさん家行ったし。
悪魔城も魔王城ももぬけの殻だったけど、散歩道としては中々のもんだったし。
最後に一番美味しい、魔王へのトドメもさせたし。
文句なしのアトラクションだった。
貴重な体験ができて良かったよ。
でも、もし、もう一度機会があるなら、今度はノーマルモード選ぶよ。
「んじゃ、オレは帰る。姫様も幸せにな」
「へっ!? ちょっ!?」
オレはさっさと別れを告げ、魔法陣に乗る。
いきなりだったからか、リスティアが驚いた声をあげる。
でも、これ以上は蛇足だ。
「ちょっと待って、勇者さま」
「ばいばい」
一方的に別れを告げる。
これで、いいんだ。
これで、よかったんだ。
魔法陣が発動したようだ。
オレの身体を白い光が包み込む。
そのとき、オレの頭にはひとつのことが浮かび上がった。
「やべ、貴重品預けっぱなしだ」
スマホも財布も家の鍵も最初に着替えたときに預けたままだった。
今さら悔やむけど、後の祭り。
オレはそのまま意識を失った――。
【後書き】
次回――『明日からどうしよ』
言ってしまった。
無茶苦茶なのは自分でも分かっている。
でも、もし、リスティアがオレのことを好きでいてくれて、この世界に未練がないなら、是非とも彼女を連れて帰りたい。
それが本心だ。
オレはこの短い旅を通じて、リスティアに惹かれていった。
奔放なお姫さまなようでいて、それ以外にも様々な一面を持っているリスティア。
コロコロと変わる彼女を見ているうちに、もっと彼女のことを知りたい、もっといろんな一面を見てみたい。
そう思うようになっていた。
だからこそ、契約で縛られた関係でいたいとは思わない。
自由であるがままの彼女と一緒にいたいと思ったんだ。
だから、この世界ではなく、あっちの世界で彼女と一緒に過ごしたかったんだ。
オレが選んだのは「大きいつづら」よりも、もっと大きい「特大つづら」かもしれない。
異世界人を連れて地球に帰るなんて、正気の沙汰じゃないかもしれない。
だけど、オレはそうするのが正解な気がした。
リスティアと過ごしているうちに、そうしたいと思うようになった。
いや、召喚された最初からそう思っていたのかもしれない。
オレだって勇者に憧れる男の子だ。
困っている女の子がいたら、助けたくなるじゃないか。
幸せそうじゃない女の子がいたら、幸せにしてあげたくなるじゃないか。
「さあ、リスティア。君の気持ちを聞かせてくれ」
「さっきも言ったけど……途中で気持ちが変わったの」
目をそらさず、ゆっくりと語り出すリスティア。
今度こそ、彼女の気持ち――その核心にせまれるのか。
「最初はこんな世界滅んじゃえって思ってた。それで、わたしが死んじゃっても構わないって。でも――」
オレはゴクリと唾を飲み込む。
その先を聞きたいような、聞きたくないよな――そんな葛藤が胸を締めつける。
「――でも、途中で気持ちが変わったの。好きな人ができたから……」
ドキンと心臓が大きく跳ねる。
そうか。そうだったのか。
だったら、オレはまったくのおじゃま虫だ。
ははははは。
契約を盾にして、リスティアに迫ったりしなくてよかった。
それに、「リスティアがダメだから他の子で」ってわけにもいかない。
どっちも三下のやられ役向けの選択肢だ。
オレはそこまで厚顔無恥じゃない。
オレは勇者なんだ。
たいして活躍しなかったけど、勇者なんだ。
だったら、勇者らしく格好良く退場したいじゃないか。
できれば、リスティアともっと一緒に過ごしたかった。
だけど、まあ、しゃあない。
良い思い出ができたと思って忘れよう。
自分で選んだ道(イージーモード)なんだから、しょうがない。
どっかのテーマパークで半日遊んだと思えば、十分に得るものはあった。
可愛い女の子と仲良く旅ができた。
本物のドラゴンとの戦闘を見れたし。
群衆相手にハッたり演説ぶっこいて、大受けして気持ちよかったし。
フェニックスに乗って、空の旅も楽しめたし。
『シティー』でのかけっこも楽しかったし。
他にも『研究所』やラゴスさん家行ったし。
悪魔城も魔王城ももぬけの殻だったけど、散歩道としては中々のもんだったし。
最後に一番美味しい、魔王へのトドメもさせたし。
文句なしのアトラクションだった。
貴重な体験ができて良かったよ。
でも、もし、もう一度機会があるなら、今度はノーマルモード選ぶよ。
「んじゃ、オレは帰る。姫様も幸せにな」
「へっ!? ちょっ!?」
オレはさっさと別れを告げ、魔法陣に乗る。
いきなりだったからか、リスティアが驚いた声をあげる。
でも、これ以上は蛇足だ。
「ちょっと待って、勇者さま」
「ばいばい」
一方的に別れを告げる。
これで、いいんだ。
これで、よかったんだ。
魔法陣が発動したようだ。
オレの身体を白い光が包み込む。
そのとき、オレの頭にはひとつのことが浮かび上がった。
「やべ、貴重品預けっぱなしだ」
スマホも財布も家の鍵も最初に着替えたときに預けたままだった。
今さら悔やむけど、後の祭り。
オレはそのまま意識を失った――。
【後書き】
次回――『明日からどうしよ』
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