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042 あなたが話してるのは、隣国のお姫様で、しかも、人類最強さんですよ
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――残り時間2:18
殺風景な部屋だった。
外見通りの狭い部屋で、家具も最小限。
『王立モンスター研究所』の女教師さんがいた部屋みたいだが、しかし、この部屋は中年男の一人暮らし感にあふれる小汚い部屋だ。
こんな誰もいない森の中で、ひとり薄汚れた生活を送るこの男。
伝説の鍵師とまで呼ばれるほどの技能を持ちながら、それを活かすこともなく、くすぶっている。
いったい、どんな男なんだろうか?
リスティアとゴラスは小さなテーブルに向かい合って座る。
椅子は2つしかなく、汚れたベッドに腰を下ろすのもためらわれたので、オレはリスティアの後ろにつっ立って話を聞くことにした。
「あいにくと客に茶を出せるような生活はしてないのでな」
「そんなもの必要ないわ」
二人とも睨み合うように厳しい視線をぶつける。
しょっぱなから険悪な滑り出しだった。
リスティア相手にこんな強気にでれるとは、さすがは一流の職人というべきか。
きっと、自分の気に入った仕事しか頑固職人タイプなんだろう。
「望みはなんだ?」
「アナタの最高傑作、すべてを開けると言われた『究極のカギ』。それをちょうだい」
「…………」
「もってるんでしょ?」
「……ああ、確かにワシが持っておる。なにがあっても、あれだけは肌身離すことはなかった」
「じゃあ、ちょうだい」
「…………」
リスティアのゴラスへの態度はぞんざいだった。
出会いざまに、いきなりビンタかましてたし、そもそも、着陸方法からして強引なものだった。
とても、伝説の職人に依頼に来た態度とは思えない。
王族ゆえの傲慢さだとは思えない。
『シティー』の宝石商(ジェントルさん)への態度も十分に偉そうだったけど、このゴラス相手の場合はちょっと違う。
うまく説明できないけど、なにか攻撃的なトゲトゲしさみたいなものが伝わってくる。
嫌悪か? 軽蔑か? 怒りか? 怨恨か?
いずれにしろ、凄腕職人に向けるものとしては適切とは思えない。
なにか個人的な因縁でもあるのだろうか……。
さっきまであんなにゴキゲンだったのに…………。
「もちろん、タダでとは言わないわ」
「ヌシに儂の欲しいものが支払えるのかな?」
ゴラスは「どうせ、できやしないだろう」とリスティアを小馬鹿にした態度だ。
可愛い女の子だと思って舐めきってるんだろうか?
つい「あなたが話してるのは、隣国のお姫様で、しかも、人類最強さんですよ」って教えたい衝動に駆られるが、じっとガマン。
この後、間違いなく、「ずっと姫さまのターン」だろうからね。
そのとき、偉ぶっているこのオッサンがどんな顔するのか、今から楽しみだ。
「さっきも言ったでしょ。アナタがなにを望んでいるのか、ワタシは知っているって」
「ほう、ずいぶんと偉そうな口を利くようだが、どこまで本当なのやら。まあ、この場所まで辿り着けたことを評価して、話だけは聞いてやろう」
「ザクヤ商会」
「…………………………………………そっ、それくらいで儂が動じるとでも?」
いやいやいやいや、メッチャ動揺してますやん。
顔も真っ青になっちゃってるし。
なんか、プルプル震えてるし。
冷や汗もダラダラっすよ?
虚勢を張ってるだけだって、オレにもバレバレなくらいの乱れっぷりだった。
さっきまでのエラそうな態度はどこにいったんだよ、ってツッコミたくなるくらい、情けないまでの狼狽えっぷりだった。
「儂の仕出かしたコトの大きさを考えれば、噂くらいは『シティー』中に広まっておろう。市井の者でも知っているであろうザクヤ商会の名をヌシが挙げたところで、なんら不思議はない。それくらい誰でもできるわ。その程度であるなら、これ以上話す必要はないな。とっとと帰るがよい」
なんか急に饒舌になっちゃったよ。
それに、いきなり「帰れ」とか言い出したけど、自分に都合が悪くなったから話を終わらせようとしてるだけだよな?
分かりやすすぎるだろ、このオッサン。
伝説の職人って呼ばれるくらいだし、リスティアとも張り合おうとしていたし、最初は少し敬う気持ちもあったけど、一気に小物感が全開だ。ショボすぎる。
「ミリアちゃん」
「なっ!?」
リスティアが挙げた名前に、オッサンの顔が驚愕に染まった。
「彼女、今でもものすごく怒ってたわよ?」
「……………………」
オッサンは怯えた目でリスティアを見る。
まるで、救いを求めるように。
「ワタシなら、なんとかしてあげられるわ」
リスティアはひと抱えもある重そうな袋をドンと机に叩きつける。
口の空いている袋からは何枚もの白金貨がこぼれ落ちる。
おっさんの目がいやらしく輝いた。
おっさんはゴクリと生唾を飲み込んだ。
「ミッ、ミリアちゃんはっ、ゆっ、許してくれるだろうか」
「ええ。商会にも話を通してアンタの一件を白紙に戻してあげるし、ミリアにも言い聞かせておくわ」
その言葉を聞いたおっさんはハッとした様子で椅子から飛び降り、
床に膝をついて見事な土下座をぶちかました。
「なにとぞ、なにとぞ」
「契約成立ね」
リスティアはゴミ虫を見る目でそう告げた――。
【後書き】
次回――『作品は素晴らしいんだけど、ツイッター炎上させたりと、本人がアレな人だったり』
殺風景な部屋だった。
外見通りの狭い部屋で、家具も最小限。
『王立モンスター研究所』の女教師さんがいた部屋みたいだが、しかし、この部屋は中年男の一人暮らし感にあふれる小汚い部屋だ。
こんな誰もいない森の中で、ひとり薄汚れた生活を送るこの男。
伝説の鍵師とまで呼ばれるほどの技能を持ちながら、それを活かすこともなく、くすぶっている。
いったい、どんな男なんだろうか?
リスティアとゴラスは小さなテーブルに向かい合って座る。
椅子は2つしかなく、汚れたベッドに腰を下ろすのもためらわれたので、オレはリスティアの後ろにつっ立って話を聞くことにした。
「あいにくと客に茶を出せるような生活はしてないのでな」
「そんなもの必要ないわ」
二人とも睨み合うように厳しい視線をぶつける。
しょっぱなから険悪な滑り出しだった。
リスティア相手にこんな強気にでれるとは、さすがは一流の職人というべきか。
きっと、自分の気に入った仕事しか頑固職人タイプなんだろう。
「望みはなんだ?」
「アナタの最高傑作、すべてを開けると言われた『究極のカギ』。それをちょうだい」
「…………」
「もってるんでしょ?」
「……ああ、確かにワシが持っておる。なにがあっても、あれだけは肌身離すことはなかった」
「じゃあ、ちょうだい」
「…………」
リスティアのゴラスへの態度はぞんざいだった。
出会いざまに、いきなりビンタかましてたし、そもそも、着陸方法からして強引なものだった。
とても、伝説の職人に依頼に来た態度とは思えない。
王族ゆえの傲慢さだとは思えない。
『シティー』の宝石商(ジェントルさん)への態度も十分に偉そうだったけど、このゴラス相手の場合はちょっと違う。
うまく説明できないけど、なにか攻撃的なトゲトゲしさみたいなものが伝わってくる。
嫌悪か? 軽蔑か? 怒りか? 怨恨か?
いずれにしろ、凄腕職人に向けるものとしては適切とは思えない。
なにか個人的な因縁でもあるのだろうか……。
さっきまであんなにゴキゲンだったのに…………。
「もちろん、タダでとは言わないわ」
「ヌシに儂の欲しいものが支払えるのかな?」
ゴラスは「どうせ、できやしないだろう」とリスティアを小馬鹿にした態度だ。
可愛い女の子だと思って舐めきってるんだろうか?
つい「あなたが話してるのは、隣国のお姫様で、しかも、人類最強さんですよ」って教えたい衝動に駆られるが、じっとガマン。
この後、間違いなく、「ずっと姫さまのターン」だろうからね。
そのとき、偉ぶっているこのオッサンがどんな顔するのか、今から楽しみだ。
「さっきも言ったでしょ。アナタがなにを望んでいるのか、ワタシは知っているって」
「ほう、ずいぶんと偉そうな口を利くようだが、どこまで本当なのやら。まあ、この場所まで辿り着けたことを評価して、話だけは聞いてやろう」
「ザクヤ商会」
「…………………………………………そっ、それくらいで儂が動じるとでも?」
いやいやいやいや、メッチャ動揺してますやん。
顔も真っ青になっちゃってるし。
なんか、プルプル震えてるし。
冷や汗もダラダラっすよ?
虚勢を張ってるだけだって、オレにもバレバレなくらいの乱れっぷりだった。
さっきまでのエラそうな態度はどこにいったんだよ、ってツッコミたくなるくらい、情けないまでの狼狽えっぷりだった。
「儂の仕出かしたコトの大きさを考えれば、噂くらいは『シティー』中に広まっておろう。市井の者でも知っているであろうザクヤ商会の名をヌシが挙げたところで、なんら不思議はない。それくらい誰でもできるわ。その程度であるなら、これ以上話す必要はないな。とっとと帰るがよい」
なんか急に饒舌になっちゃったよ。
それに、いきなり「帰れ」とか言い出したけど、自分に都合が悪くなったから話を終わらせようとしてるだけだよな?
分かりやすすぎるだろ、このオッサン。
伝説の職人って呼ばれるくらいだし、リスティアとも張り合おうとしていたし、最初は少し敬う気持ちもあったけど、一気に小物感が全開だ。ショボすぎる。
「ミリアちゃん」
「なっ!?」
リスティアが挙げた名前に、オッサンの顔が驚愕に染まった。
「彼女、今でもものすごく怒ってたわよ?」
「……………………」
オッサンは怯えた目でリスティアを見る。
まるで、救いを求めるように。
「ワタシなら、なんとかしてあげられるわ」
リスティアはひと抱えもある重そうな袋をドンと机に叩きつける。
口の空いている袋からは何枚もの白金貨がこぼれ落ちる。
おっさんの目がいやらしく輝いた。
おっさんはゴクリと生唾を飲み込んだ。
「ミッ、ミリアちゃんはっ、ゆっ、許してくれるだろうか」
「ええ。商会にも話を通してアンタの一件を白紙に戻してあげるし、ミリアにも言い聞かせておくわ」
その言葉を聞いたおっさんはハッとした様子で椅子から飛び降り、
床に膝をついて見事な土下座をぶちかました。
「なにとぞ、なにとぞ」
「契約成立ね」
リスティアはゴミ虫を見る目でそう告げた――。
【後書き】
次回――『作品は素晴らしいんだけど、ツイッター炎上させたりと、本人がアレな人だったり』
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