39 / 61
039 このノリだったら、ふざけたフリで1モミや2モミくらいは許されるのではないか?
しおりを挟む
思い返してみても、ジェントルさんから『トルマリン・リング』を購入した際のリスティアの行動は不自然極まりなかった。
向こうが提示した金額より高い金額で購入したし(逆なら分かるのだが)。
「ひとつお願いがある」と耳打ちしてたし。
オレが尋ねても、はぐらかしたし。
『トルマリン・リング』の他にも、小箱を受け取っていたし。
「あん時、なに話してたの?」
「えへへ~、わるだくみだよ~」
ふわぽよな表情でリスティアは黒いことを言う。
状況から推測するに、差額で自分用のアクセをゲットってところかな?
アクセサリーを欲しがるところは普通の女の子っぽくて可愛いとも思えるが、やってることは横領だ。
立派な犯罪なんだろうけど、そんなカワイイ顔して見つめられたら、許したくなっちゃうじゃないか。
――よし、許すッ!
だって、オレの金じゃないしな。
それに魔王討伐っていう大仕事に比べれば、ちょっとした横領なんて誤差だ、誤差。
細かいことキニスンナ!
「リスティアは悪い子だなあ~」
「えへへへへ~」
「そんな悪い子はオシオキしちゃうぞ~」
「ええ、オシオキされちゃうの~~。してして~~~」
若干セクハラ気味なオレの発言だったが、リスティアは嬉しそうに目を潤ませてきた。ノリいいな、この子。
さっきのフェニックス調教風景を見て、リスティアはオシオキする側だと思っていたけど、意外と逆もイケそうだ。
このノリだったら、ふざけたフリで1モミや2モミくらいは許されるのではないか?
――想像したら、理性が一本プチっと切れた。
いかんいかん。それはマズい。
色即是空、空即是色。
煩悩退散、煩悩退散。
真面目な話を再開しよう。
「そうだ、リスティア」
桃色になりかけた空気を払拭するため、ワザと大きめの声で話しかける。
「な~に、勇者さま~」
「研究所で女教師さ……研究員の女性が言ってたけど――」
「うんうん」
あぶね。危うくオレの脳内呼称で呼んじゃうところだった。
だって、理想の女教師さんにしか見えなかったし。
それに、名前も聞いてなかったし。
「勇者に関する昔の文献をあさったんだって?」
「ん~、まあね~」
「勇者ってそんなに何回も召喚されているのか?」
女教師さんが言うには、リスティアは文献から勇者の経験値テーブルを解析したそうだ。
ということは、つまり、それだけのデータが取れるほど多くの勇者がいたってことだ。
「そだよ~」
軽い口調でリスティアが肯定する。
別に、隠す気もないようだ。
今まで一度も「魔王を倒せ」とは言われていない。
だから、オレも薄々は感づいていた。
いきなりリスティアが真剣な表情になり、オレから身体を離した。
そして、聖獣覚醒の儀を執り行ったときみたいに、厳かな声で語りだした――。
「魔王を殺すことは不可能なのです。魔王はこの世界と不可分な存在であり、魔王が死す時、この世界もまた終焉を迎える。我々にできるのは『封印』して、一時的にそのチカラを抑えこむことだけです」
「…………」
「魔王は世界と表裏一体。故に、この世界の住人である我らは、いくら強大な力を持ったとしても、魔王を封ずることは出来ません。そこで、魔王の封印が弱まり世界が危機に瀕するたび、我々は勇者召喚を行って参りました」
「…………」
「それが可能であるのは、この世界の理(ことわり)の外にある者だけ。異世界より召喚されし勇者のみが魔王を封印できる唯一にして無二の存在なのです」
「…………」
「そして――」
リスティアの語る姿はまさに、召喚の巫女と呼べるものだった。
彼女の神聖さに圧倒されたオレは、思わずゴクリとツバを飲み込んだ。
「――今回、勇者として選ばれたのが、勇者さま、貴方なのです」
あらためて、大役を押し付けられたものだと実感する。
いや、オレなんかただのフツーの大学生だぞ…………。
「どうか、この世界をお救い下さいませ、勇者さま」
リスティアは胸の前で両手を組み、祈るように頭(こうべ)を垂れる。
敬虔な聖女以外のなにものでもなかった。
気圧されたオレは、「ああ」と漏らし、コクコクと頷くことしかできなかった――。
【後書き】
次回――『ワシは今回で4回目じゃよ』
向こうが提示した金額より高い金額で購入したし(逆なら分かるのだが)。
「ひとつお願いがある」と耳打ちしてたし。
オレが尋ねても、はぐらかしたし。
『トルマリン・リング』の他にも、小箱を受け取っていたし。
「あん時、なに話してたの?」
「えへへ~、わるだくみだよ~」
ふわぽよな表情でリスティアは黒いことを言う。
状況から推測するに、差額で自分用のアクセをゲットってところかな?
アクセサリーを欲しがるところは普通の女の子っぽくて可愛いとも思えるが、やってることは横領だ。
立派な犯罪なんだろうけど、そんなカワイイ顔して見つめられたら、許したくなっちゃうじゃないか。
――よし、許すッ!
だって、オレの金じゃないしな。
それに魔王討伐っていう大仕事に比べれば、ちょっとした横領なんて誤差だ、誤差。
細かいことキニスンナ!
「リスティアは悪い子だなあ~」
「えへへへへ~」
「そんな悪い子はオシオキしちゃうぞ~」
「ええ、オシオキされちゃうの~~。してして~~~」
若干セクハラ気味なオレの発言だったが、リスティアは嬉しそうに目を潤ませてきた。ノリいいな、この子。
さっきのフェニックス調教風景を見て、リスティアはオシオキする側だと思っていたけど、意外と逆もイケそうだ。
このノリだったら、ふざけたフリで1モミや2モミくらいは許されるのではないか?
――想像したら、理性が一本プチっと切れた。
いかんいかん。それはマズい。
色即是空、空即是色。
煩悩退散、煩悩退散。
真面目な話を再開しよう。
「そうだ、リスティア」
桃色になりかけた空気を払拭するため、ワザと大きめの声で話しかける。
「な~に、勇者さま~」
「研究所で女教師さ……研究員の女性が言ってたけど――」
「うんうん」
あぶね。危うくオレの脳内呼称で呼んじゃうところだった。
だって、理想の女教師さんにしか見えなかったし。
それに、名前も聞いてなかったし。
「勇者に関する昔の文献をあさったんだって?」
「ん~、まあね~」
「勇者ってそんなに何回も召喚されているのか?」
女教師さんが言うには、リスティアは文献から勇者の経験値テーブルを解析したそうだ。
ということは、つまり、それだけのデータが取れるほど多くの勇者がいたってことだ。
「そだよ~」
軽い口調でリスティアが肯定する。
別に、隠す気もないようだ。
今まで一度も「魔王を倒せ」とは言われていない。
だから、オレも薄々は感づいていた。
いきなりリスティアが真剣な表情になり、オレから身体を離した。
そして、聖獣覚醒の儀を執り行ったときみたいに、厳かな声で語りだした――。
「魔王を殺すことは不可能なのです。魔王はこの世界と不可分な存在であり、魔王が死す時、この世界もまた終焉を迎える。我々にできるのは『封印』して、一時的にそのチカラを抑えこむことだけです」
「…………」
「魔王は世界と表裏一体。故に、この世界の住人である我らは、いくら強大な力を持ったとしても、魔王を封ずることは出来ません。そこで、魔王の封印が弱まり世界が危機に瀕するたび、我々は勇者召喚を行って参りました」
「…………」
「それが可能であるのは、この世界の理(ことわり)の外にある者だけ。異世界より召喚されし勇者のみが魔王を封印できる唯一にして無二の存在なのです」
「…………」
「そして――」
リスティアの語る姿はまさに、召喚の巫女と呼べるものだった。
彼女の神聖さに圧倒されたオレは、思わずゴクリとツバを飲み込んだ。
「――今回、勇者として選ばれたのが、勇者さま、貴方なのです」
あらためて、大役を押し付けられたものだと実感する。
いや、オレなんかただのフツーの大学生だぞ…………。
「どうか、この世界をお救い下さいませ、勇者さま」
リスティアは胸の前で両手を組み、祈るように頭(こうべ)を垂れる。
敬虔な聖女以外のなにものでもなかった。
気圧されたオレは、「ああ」と漏らし、コクコクと頷くことしかできなかった――。
【後書き】
次回――『ワシは今回で4回目じゃよ』
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる