38 / 61
038 会話が途切れた瞬間、オレはビーストに変身する自信がある
しおりを挟む
――残り時間2:35
『古代遺跡』を後にしたオレたちは、次の目的地へ向けて北西へ飛んでいく。
【ミッション7】 伝説の鍵師から『究極のカギ』を入手せよ(所要時間30分)。
どうやら、次のミッションはアイテム入手のようだ。
よくあるゲームだと、この伝説の鍵師やらはワガママで、「カギが欲しかったら〇〇してこい」みたいなオツカイやらされるんだよな。
途中で中ボスを倒さなきゃいけなかったり、あちこちを走り回されたり。
単純なミッションだけど、場合によっては結構面倒くさかったりする。
『攻略ガイド』の地図を見ると、伝説の鍵師さんは『古代遺跡』からかなり離れた場所に住んでいるようだ。
『王都』や『シティー』との位置関係から判断するに、5分や10分では着かなそうなんだけど、オツカイこなしてる時間あるのかな……。
「なあ、次の場所まで結構時間かかりそうだけど、大丈夫なんか?」
「うん。だいじょうぶだよ~。へいきへいき~。わたしに考えがあるから~、まかせといて~」
リスティアは自信満々に胸を叩いて、任せてアピールしてくるから、オレは余計なことを考えるのは早々に諦めた。
大丈夫だ。だって、イージーモードだし。
ここまでのことを思い出しても……うん、考えるだけムダだな。
そういえば、さっきの頭ナデナデの一件から、リスティアとの距離がかなり縮まった。
精神的にも、そして――物理的にも。
リスティアは今、もたれかかるようにしてオレの胸にその身体を預けている状態だ。
柔かくって。温かくって。いい匂いがして。
オレの理性が悲鳴を上げている。
平然とした顔で普通の会話をつづけているが、実際のところ、心臓はバクバクだし、手汗もヌルヌルだし、下半身もスゴいことになってる。
上目遣いでこっちを見つめるリスティアにはオレの内心なんかモロバレなのかもしれないが、彼女がなにも言わない以上はオレもこの仮面をかぶり続けるしかない。
この幸せな時間がいつまでも続いて欲しい反面、早く開放してくれないとヤバいと焦る気持ちも大きい。
気を紛らわすためにも、ここは会話が必要だ。是非とも必要だ。
会話が途切れた瞬間、オレはビーストに変身する自信がある。いや、自信しかない。
なんでもいいから急いで、話のネタを探さないと……。
回らない頭を必死で回して、なんとかオレは会話の糸口を見つけ出した――。
「なあ、ちょっと気になったんだけど、訊いてもいいか?」
「うん、なんでもきいて~。勇者さまだったら、ワタシの恥ずかしいヒミツだって教えちゃうから~」
リスティアは蠱惑的な微笑みを向けてくる。
だから、そういうの、たとえ冗談でも、今のオレにはキツイからやめて欲しい。
「こほん。さっきのメタスラの話だけどさ」
「うんうん」
「アレもっと増やせなかったのか?」
「ん?」
「いやさ、あんな簡単にメタスラ増殖できる薬あるんだったら、わざわざ『トルマリン・リング』を取りに行かなくても良かったんじゃないか? その方が時間短縮できたんじゃない?」
たしかに『トルマリン・リング』は取得経験値が10倍になるっていうぶっ壊れアイテムだ。
でも、モンスター自体を増殖可能な上、一網打尽にできる毒薬があるんなら、単にメタスラをさっきの10倍に増やせば、それでいいんじゃね?
などと素人ながらに考えたわけだ。といっても、真剣に考えたわけじゃない。
薬の性能上不可能なのかもしれないし、それだけ大きな設備を作れない等の困難があるだけなのかもしれない。
パッとした思いつきにすぎない。今のこの状況で、気を紛らわせればいいだけだ。
案の定、オレの浅はかな考えは、すぐにリスティアに否定された。
「ああ、それムリムリ~」
「そうなのか。理由は?」
よし、会話が広がりそう。いい流れだ。
「ひと言で言うとね~、個体上限数だよ」
「個体上限数? なにそれ?」
「んーとねえ、モンスターってのは魔王の魔力によって生み出されるんだよ。それでね、時間が経つにつれてドンドン増えていくんだけど、種族ごとに割り当てられている魔力が定まっているんだよ。だから、最大でもその魔力の範囲内までしか増えないんだよ。それが個体上限数だよ~」
「ああ、なるほど。理解した」
まさに、ゲームみたいなシステムだな。
「じゃあ、そこまでメタスラを増やすのは不可能ってことか」
「そだね~。あの量も結構ギリギリだったし。魔王の封印が限界まで弱まっている今だから可能な方法だったんだよ~」
「魔王の封印が関係あるのか?」
「うんうん。封印が弱ると魔王が使える魔力が増えるから、個体上限数が上がるんだよね。だから、世界中にモンスターが溢れちゃうんだよ」
「じゃあ、とっとと倒しちゃわないとなっ」
「うん、勇者さま、がんばってね~」
あら、なんか、綺麗なかたちで話がまとまってしまった。
次の話題をなにか探さないと……。
「あっ、でもさ、なんでわざわざあの街に寄ったんだ? 貴重なアイテムなのかもしれないけど、リスティアだったら取り寄せるなり、国内で入手したりできたんじゃないか?」
「古代遺跡に近い『シティー』じゃないと、高品質なヤツは急ぎで手に入らなかったんだよね~。それに、自分の国じゃちょっとマズい理由もあって……」
「マズい理由?」
「へへへ~」
露骨に誤魔化された……。
【後書き】
次回――『このノリだったら、ふざけたフリで1モミや2モミくらいは許されるのではないか?
』
『古代遺跡』を後にしたオレたちは、次の目的地へ向けて北西へ飛んでいく。
【ミッション7】 伝説の鍵師から『究極のカギ』を入手せよ(所要時間30分)。
どうやら、次のミッションはアイテム入手のようだ。
よくあるゲームだと、この伝説の鍵師やらはワガママで、「カギが欲しかったら〇〇してこい」みたいなオツカイやらされるんだよな。
途中で中ボスを倒さなきゃいけなかったり、あちこちを走り回されたり。
単純なミッションだけど、場合によっては結構面倒くさかったりする。
『攻略ガイド』の地図を見ると、伝説の鍵師さんは『古代遺跡』からかなり離れた場所に住んでいるようだ。
『王都』や『シティー』との位置関係から判断するに、5分や10分では着かなそうなんだけど、オツカイこなしてる時間あるのかな……。
「なあ、次の場所まで結構時間かかりそうだけど、大丈夫なんか?」
「うん。だいじょうぶだよ~。へいきへいき~。わたしに考えがあるから~、まかせといて~」
リスティアは自信満々に胸を叩いて、任せてアピールしてくるから、オレは余計なことを考えるのは早々に諦めた。
大丈夫だ。だって、イージーモードだし。
ここまでのことを思い出しても……うん、考えるだけムダだな。
そういえば、さっきの頭ナデナデの一件から、リスティアとの距離がかなり縮まった。
精神的にも、そして――物理的にも。
リスティアは今、もたれかかるようにしてオレの胸にその身体を預けている状態だ。
柔かくって。温かくって。いい匂いがして。
オレの理性が悲鳴を上げている。
平然とした顔で普通の会話をつづけているが、実際のところ、心臓はバクバクだし、手汗もヌルヌルだし、下半身もスゴいことになってる。
上目遣いでこっちを見つめるリスティアにはオレの内心なんかモロバレなのかもしれないが、彼女がなにも言わない以上はオレもこの仮面をかぶり続けるしかない。
この幸せな時間がいつまでも続いて欲しい反面、早く開放してくれないとヤバいと焦る気持ちも大きい。
気を紛らわすためにも、ここは会話が必要だ。是非とも必要だ。
会話が途切れた瞬間、オレはビーストに変身する自信がある。いや、自信しかない。
なんでもいいから急いで、話のネタを探さないと……。
回らない頭を必死で回して、なんとかオレは会話の糸口を見つけ出した――。
「なあ、ちょっと気になったんだけど、訊いてもいいか?」
「うん、なんでもきいて~。勇者さまだったら、ワタシの恥ずかしいヒミツだって教えちゃうから~」
リスティアは蠱惑的な微笑みを向けてくる。
だから、そういうの、たとえ冗談でも、今のオレにはキツイからやめて欲しい。
「こほん。さっきのメタスラの話だけどさ」
「うんうん」
「アレもっと増やせなかったのか?」
「ん?」
「いやさ、あんな簡単にメタスラ増殖できる薬あるんだったら、わざわざ『トルマリン・リング』を取りに行かなくても良かったんじゃないか? その方が時間短縮できたんじゃない?」
たしかに『トルマリン・リング』は取得経験値が10倍になるっていうぶっ壊れアイテムだ。
でも、モンスター自体を増殖可能な上、一網打尽にできる毒薬があるんなら、単にメタスラをさっきの10倍に増やせば、それでいいんじゃね?
などと素人ながらに考えたわけだ。といっても、真剣に考えたわけじゃない。
薬の性能上不可能なのかもしれないし、それだけ大きな設備を作れない等の困難があるだけなのかもしれない。
パッとした思いつきにすぎない。今のこの状況で、気を紛らわせればいいだけだ。
案の定、オレの浅はかな考えは、すぐにリスティアに否定された。
「ああ、それムリムリ~」
「そうなのか。理由は?」
よし、会話が広がりそう。いい流れだ。
「ひと言で言うとね~、個体上限数だよ」
「個体上限数? なにそれ?」
「んーとねえ、モンスターってのは魔王の魔力によって生み出されるんだよ。それでね、時間が経つにつれてドンドン増えていくんだけど、種族ごとに割り当てられている魔力が定まっているんだよ。だから、最大でもその魔力の範囲内までしか増えないんだよ。それが個体上限数だよ~」
「ああ、なるほど。理解した」
まさに、ゲームみたいなシステムだな。
「じゃあ、そこまでメタスラを増やすのは不可能ってことか」
「そだね~。あの量も結構ギリギリだったし。魔王の封印が限界まで弱まっている今だから可能な方法だったんだよ~」
「魔王の封印が関係あるのか?」
「うんうん。封印が弱ると魔王が使える魔力が増えるから、個体上限数が上がるんだよね。だから、世界中にモンスターが溢れちゃうんだよ」
「じゃあ、とっとと倒しちゃわないとなっ」
「うん、勇者さま、がんばってね~」
あら、なんか、綺麗なかたちで話がまとまってしまった。
次の話題をなにか探さないと……。
「あっ、でもさ、なんでわざわざあの街に寄ったんだ? 貴重なアイテムなのかもしれないけど、リスティアだったら取り寄せるなり、国内で入手したりできたんじゃないか?」
「古代遺跡に近い『シティー』じゃないと、高品質なヤツは急ぎで手に入らなかったんだよね~。それに、自分の国じゃちょっとマズい理由もあって……」
「マズい理由?」
「へへへ~」
露骨に誤魔化された……。
【後書き】
次回――『このノリだったら、ふざけたフリで1モミや2モミくらいは許されるのではないか?
』
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる