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019 俺の演説、どやぁ!

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 お立ち台にオレが昇ると、リスティアとイーヴァは両脇に寄ってスペースを空けてくれた。
 二人の間に並び、あらためて見下ろす。

 めっちゃ、いるんすけど……。
 しかも、みんなこっちガン見……。

 心臓バクバクっすよ。

 いや、大丈夫。
 今のオレはフツーの大学生の佐久間雫じゃあない。
 見た目装備肩書きステータスだけなら、立派な勇者様だ。
 中身が伴っていないかもしれないが問題ない。
 「人間、見た目と肩書きが9割だ」って、ばっちゃが言ってた。
 ちなみに、残りの1割は運だ。努力とかそんなん、誤差だ誤差。

 そんなふうに心を落ち着かせようとしていると、リスティアが「勇者さま、大丈夫だよ~」と小さく声をかけてくれた。
 その凛々しく整った横顔を見ていると、不思議と気持ちが落ち着いてくるな。

 そのリスティアが高らかに宣言する――。

「我々には異世界より来たりし勇者様がついている。我らはこれより勇者様とともに魔王の下へ向かう。心配する必要など寸毫(すんごう)もない。勇者様であれば、魔王を封印することなど、いとも容易きこと。我ら三人、数刻後には揃って凱旋を果たすであろう。安心して待っているがよかろう」
「出発に際して、勇者シズク様より、一言賜る。静聴せよ」

 イーヴァに振られたオレは一歩前に進みでて、『勇者の剣』を抜き、高らかに掲げる。
 日光を反射した剣身がキラリと輝いた。

「我は異世界より召喚されし、勇者シズクなり――」

 名乗りを上げたオレは、ゆっくりと剣を下ろす――。

 大勢の群衆の視線がオレに集まっているのが分かる。
 少し緊張するけど、大丈夫だ。
 オレには作戦がある。
 この局面を無事に乗り切ってみせる。

 確かにオレは成りたてホヤホヤのなんちゃって勇者だ。
 幾多の修羅場を乗り越えてきた経験によって滲み出る強者の凄味もない。
 何者にも絶対に負けないという確固たる自信もない。
 多くの人々を惹きつけるカリスマ性もない。
 多くの人を救い、仲間に救われ、そうやって培われてきた人間的な深みもない。

 だけど、オレにはひとつだけ負けないところがある。
 この世界の誰にも、絶対に負けないと自信を持って言えることがある。
 どんな勇者であっても、この世界の人間である限りは、その点でオレに勝つことは不可能だ。

 オレのアドバンテージ。それは――。

 オレが地球、しかも、現代日本出身の若者だということ。

 こっちの世界の人間にとって、勇者は初めて見る、とても珍しい存在だろう。

 だけど――現代日本のオタク文化ナメんな。

 ゲーム、マンガ、アニメ、そして、ネット小説。
 これまでに一体どれだけの勇者が生み出されてきたことか。
 異世界に召喚されて魔王と戦う勇者なんて「はいはい、テンプレテンプレ」と軽く扱われるありふれた存在にすぎない。珍しくもなんともない。
 「かわいくて心がきれいな三次元の女の子」の方がよっぽどレアキャラだ。

 オレだってそんな日本で育ち、人並み、いやそれ以上にそういう文化に触れてきた。
 こういう演説のシーンでカッコよくキメるシーンを何度も見てきたし、その度に胸をアツくしてきた。
 少佐やク◯トロ・バ◯ーナやギ◯ン・◯ビの魂が、ちゃんとオレには受け継がれているんだ。

 だから――なんの問題もない。
 偉大な先人の叡智を借り、オレの全力を開放すればいいだけだっ!

 ――爆ぜろっっっ!!!! 中二魂(ソウル・オブ・フォー ティーン)!!!!!!!!!!!!

 オレは自信を持って民衆を見据え、堂々と力強く低い口調でゆっくりと語り始めた。

「KKdaobieh bvkoeb bkexoskeo!
 dbeoc gteocjg Kaorbi dkec JOrbieoguLJ!
 Ireoid ugeobe Dxir BBlsxib Qosi!!!
 fFdoxube bleXtg lslirG l iGex Txitpxttlwo!!!!!

 Ugex geS dogg Gxorc Gx geeS Ojge j dddS!!!
 
 I Gxiggs Druqxof LExitux!
 Geicc Gexo Fxo kee Dthsx!!

 Gxt so GoX DD!!!!!
 Gsg PO Cdcs!!!!!!!!!!!」

 語り終えたオレは、再度剣を高く掲げた――。

【後書き】
次回――『ドイツ語カッコいいもんな』
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