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王太子の好きなタイプ
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「そんなことが」
とロザリンがつぶやき、ベシーが「まさか」、アンは「嘘でしょ」と一言。
私は、思わず机の方に顔を向けた。
ルーカスが机に着いたまま、ガマの油売りのガマガエルのようにあぶら汗をだらりあだらりと流している。
声をかけようとも思ったが、目の前に座るエスタは、
「だからもう私、大丈夫なんです」
と言い切った。
「え? ああ、そうね。ランドルフ様、その少女のことを」
と言うと、
「ええ、それもそうなんですけど。何というか」
上を見上げたエスタは、
「ああいうタイプがお好きなのかなって。前はエマ様っていうかわいらしいお方でしたし。今はなぜか毛嫌いされているようですけど。昨日の美少女もエマ様も、王太子様は守ってあげたくなるようなか弱い方がお好きなのかな、って思ったら、何だかどうでもよくなってきて」
と口の端を曲げる。
エマは私だとは気づいてないのだろう、もちろん、昨夜のイケメン美少女カップルが目の前にいることも。
エスタは「でも」と言うとこちらを見てにこりとした。
「私、あれから新聞部に入ろうかと思いついたんです」
「新聞部?」
「はい。ランドルフ様を観察しなさいって言われて、まるで記者のように見てて、何だか本当の記者になったような感じがして、何だかとても楽しかったんです」
胸の前で両手を組んだエスタは、
「私、将来、本当の記者になりたいって思うんです」
「それは素敵ね」
「本当ですか? まだ父や母にはとても言えないんですけど。でもなれたらいいなあって思ってて」
貴族の娘が職業婦人にってことよね。この世界でも時代はどんどん進むべきだし、とてもいいことに思える。
私は大きくうなづくと、
「応援してますからね」
「ありがとうございます!」
嬉しそうに破願したエスタは、
「じゃあ、私、失礼します。ありがとうございました」
とベシー達にも頭を下げると意気揚々ドアから出ていこうとした。
「あっ! すみません!」
「……いえ、いいのよ」
出ていこうとするエスタにぶつかったのか、誰かが返事をしている。
じゃあ、失礼しますと、言う声とともに、ドアからカロリーナが顔を出した。
「あ、カロリーヌ様」
「すみません、ちょっと、後輩の相手を」
私やベシー達の言葉に、カロリーナは眉を下げ「いいのよ、気にしないで」と返してきた。
が。
眉を下げ?
何だか、少しつらそうな表情を一瞬見せたカロリーナに、私は、
「あの、どうかされましたか」
つけていたマスクを取りつつ聞いた。
だが、カロリーナは、やはりいつものきりりとした顔が保てていない。
「もしかして、具合が?」
「いえ、大丈夫」
とすっと手を出したものの、
「ちょっと用事がありますの。今日は先に帰ってもいいかしら。片付けももう大丈夫なようですし」
なんて言い出した。
そして、そのままカロリーナは家に帰ってしまったのだ。
残された私と、ベシー、ロザリン、アン、それにルーカス。
「カロリーナ様、大丈夫でしょうか」
心配してついついドアを見つめてしまう。だが、他の3人は互いに視線をチラチラ。
「もしかしたら、先ほどの話を聞いてらしたんじゃないかしら」
先ほど?
もしかしてエスタの話?
「ランドルフ様の好みのタイプですわよね」
とアンがこちらを申し訳なさそうに見てくる。
守りたくなるか弱い娘。それは以前のエマのことだ。今は私だが、以前のエマもそんなか弱いとも思えないのだが。
「それを聞かれたのかしら」
「ドアの前にいらしたみたいだから」
もしかしなくてもショックを受けたってこと?
来ていたマントを脱ぎ棄てた私は、ドアに手をかけた。
「姉さん、どこ行くんです」
立ち上がったルーカスは、
「余計なことはしない方が」
なんて言う。
「だって」
「カロリーナ様は王太子妃になる方ですよ。ランドルフ様とカロリーナ様、ゆくゆくは王と王妃になるお二人です」
「だから?」
「結婚するのは決まってるんです。変に何かしてかき混ぜるようなことはしないほうがいいと思いますが」
それはわかるけど。
「でもでも、結婚するのに、そんな気持ちのままじゃあよくないわよ。ねえ、そうじゃありません?」
そんな仮面夫婦じゃないんだから。
ベシーやロザリン、アンの顔を見まわした。
うつむいていたロザリンがいきなり顔をあげると、
「そうですわね」
「え? ロザリン様?」
ベシーとアンが言う側でロザリンは、
「お二人は、きっといい王と王妃になられると思いますけど、私、カロリーナ様には幸せになってほしいんです」
アンもベシーも顔がぱあっと輝く。
「お互いの考えていることもわからないままになんてよくないことですわ」
「そうですわね」
私もうんうんと思わずうなづいた。
「エマ様、どうします?」
「そうですわよ、何か考えあるんじゃありません?」
私はうーんと唸ると、4人、いやルーカスも巻き込んで5人で頭を寄せた。
とロザリンがつぶやき、ベシーが「まさか」、アンは「嘘でしょ」と一言。
私は、思わず机の方に顔を向けた。
ルーカスが机に着いたまま、ガマの油売りのガマガエルのようにあぶら汗をだらりあだらりと流している。
声をかけようとも思ったが、目の前に座るエスタは、
「だからもう私、大丈夫なんです」
と言い切った。
「え? ああ、そうね。ランドルフ様、その少女のことを」
と言うと、
「ええ、それもそうなんですけど。何というか」
上を見上げたエスタは、
「ああいうタイプがお好きなのかなって。前はエマ様っていうかわいらしいお方でしたし。今はなぜか毛嫌いされているようですけど。昨日の美少女もエマ様も、王太子様は守ってあげたくなるようなか弱い方がお好きなのかな、って思ったら、何だかどうでもよくなってきて」
と口の端を曲げる。
エマは私だとは気づいてないのだろう、もちろん、昨夜のイケメン美少女カップルが目の前にいることも。
エスタは「でも」と言うとこちらを見てにこりとした。
「私、あれから新聞部に入ろうかと思いついたんです」
「新聞部?」
「はい。ランドルフ様を観察しなさいって言われて、まるで記者のように見てて、何だか本当の記者になったような感じがして、何だかとても楽しかったんです」
胸の前で両手を組んだエスタは、
「私、将来、本当の記者になりたいって思うんです」
「それは素敵ね」
「本当ですか? まだ父や母にはとても言えないんですけど。でもなれたらいいなあって思ってて」
貴族の娘が職業婦人にってことよね。この世界でも時代はどんどん進むべきだし、とてもいいことに思える。
私は大きくうなづくと、
「応援してますからね」
「ありがとうございます!」
嬉しそうに破願したエスタは、
「じゃあ、私、失礼します。ありがとうございました」
とベシー達にも頭を下げると意気揚々ドアから出ていこうとした。
「あっ! すみません!」
「……いえ、いいのよ」
出ていこうとするエスタにぶつかったのか、誰かが返事をしている。
じゃあ、失礼しますと、言う声とともに、ドアからカロリーナが顔を出した。
「あ、カロリーヌ様」
「すみません、ちょっと、後輩の相手を」
私やベシー達の言葉に、カロリーナは眉を下げ「いいのよ、気にしないで」と返してきた。
が。
眉を下げ?
何だか、少しつらそうな表情を一瞬見せたカロリーナに、私は、
「あの、どうかされましたか」
つけていたマスクを取りつつ聞いた。
だが、カロリーナは、やはりいつものきりりとした顔が保てていない。
「もしかして、具合が?」
「いえ、大丈夫」
とすっと手を出したものの、
「ちょっと用事がありますの。今日は先に帰ってもいいかしら。片付けももう大丈夫なようですし」
なんて言い出した。
そして、そのままカロリーナは家に帰ってしまったのだ。
残された私と、ベシー、ロザリン、アン、それにルーカス。
「カロリーナ様、大丈夫でしょうか」
心配してついついドアを見つめてしまう。だが、他の3人は互いに視線をチラチラ。
「もしかしたら、先ほどの話を聞いてらしたんじゃないかしら」
先ほど?
もしかしてエスタの話?
「ランドルフ様の好みのタイプですわよね」
とアンがこちらを申し訳なさそうに見てくる。
守りたくなるか弱い娘。それは以前のエマのことだ。今は私だが、以前のエマもそんなか弱いとも思えないのだが。
「それを聞かれたのかしら」
「ドアの前にいらしたみたいだから」
もしかしなくてもショックを受けたってこと?
来ていたマントを脱ぎ棄てた私は、ドアに手をかけた。
「姉さん、どこ行くんです」
立ち上がったルーカスは、
「余計なことはしない方が」
なんて言う。
「だって」
「カロリーナ様は王太子妃になる方ですよ。ランドルフ様とカロリーナ様、ゆくゆくは王と王妃になるお二人です」
「だから?」
「結婚するのは決まってるんです。変に何かしてかき混ぜるようなことはしないほうがいいと思いますが」
それはわかるけど。
「でもでも、結婚するのに、そんな気持ちのままじゃあよくないわよ。ねえ、そうじゃありません?」
そんな仮面夫婦じゃないんだから。
ベシーやロザリン、アンの顔を見まわした。
うつむいていたロザリンがいきなり顔をあげると、
「そうですわね」
「え? ロザリン様?」
ベシーとアンが言う側でロザリンは、
「お二人は、きっといい王と王妃になられると思いますけど、私、カロリーナ様には幸せになってほしいんです」
アンもベシーも顔がぱあっと輝く。
「お互いの考えていることもわからないままになんてよくないことですわ」
「そうですわね」
私もうんうんと思わずうなづいた。
「エマ様、どうします?」
「そうですわよ、何か考えあるんじゃありません?」
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