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記者魂のエスタ
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「すみません」
と後ろから声をかけられた。
やばい、嫌な気分にさせてしまう。あわてて近くにいたアンの後ろに姿を隠す。
「あ、あのお、生徒会の方々ですよね」
「ふふふ。ごめんなさいね、ちょっと人見知りが激しい方ですの」
なんて言うアン。声をかけてきた令嬢は「はあ」と言いつつもアンの後ろ、私が気になるみたいだ。
「どうかされまして?」
ロザリンとベシーが書類の山を手に現れた。
「1年生の方よね。どうしたんですの?」
ベシーが小首をかしげる。
「すみません。私、エスタ・リースと申します。一昨日、学園祭で癒しの魔法でみてもらったんですけど。何かあったら生徒会に来てって言っていただけて」
エスタ! あの子だ、ランドルフ推しの。
目を見開いたベシーとロザリンは、
「わかりました、あの方ね」
「ちょっと待っていてくださる?」
にこりとした二人はエスタを生徒会室のソファに誘導した。
私はと言うと、アンに資料室に引っ張り込まれていた。
「ほら、エマ様、すぐに着替えて」
資料室に置いたままの箱の中からマントやらマスクを取り出した。癒しの魔法のブースで使った変装一式だ。
ここに置いといてよかった。家に持ち帰ると見つかった時の言い訳ができそうになくて、置いておいたのだ。あとから処分すべきか、それとも街中で商売、いや修行すべきか悩んでいたのよね。
すぐさま、着替えた私は、資料室から出ると、エスタの座るソファの前に座った。
「よく来てくださいましたね」
これ着ると何だか怪しい占い師になった気分なのよね。
「あ、先日はありがとうございました!」
「いいえ」
と答えたが、今日はあの時と違って元気いっぱいだ。占い、じゃなくて、私の癒しパワーが少しは役に立ったのかな、と嬉しくなる。
「そうですか、あれからどうですか」
と聞くと、エスタは苦笑顔で、
「私、もうランドルフ様のことは大丈夫になりました」
とはっきりと言った。
初耳のベシー達の目が丸くなる。
ここって生徒会室なのよね、いいのかな。ランドルフが来ることはそうそうないけど、カロリーヌは来るだろうし。今は私と、ベシー達三人と、ルーカスは机で書記の仕事中だ。
「ここで話されても大丈夫?」
「え? あ、そうですよね、でも私、もう大丈夫です。ランドルフ様のこと、よくわかったというか」
「ん?」
「よく見なさいって言われたでしょう?」
「ええ」
距離を置いて見つめなおす、熱くなりすぎてわからなくなってるかもと思ったのよね。それに手から熱を平熱に戻すようにパワーを与えた。
「だから、私、あれからあと、キャーキャー言ってみるんじゃなくて、観察していたんです」
「それで?」
「ダンスでカロリーヌ様と踊られて、本当に素敵で。ああ、こんなお二人に入る余地なんてあるはずがないなあっていう思いと、なんて素敵なんだろうっていう純粋な気持ちといろんな気持ちが起こりましたの。ですけど」
指を顎に手をあてたエスタは、
「あの方、カロリーヌ様が最初の踊った方、かっこよくて素敵な先輩がいましたよね」
どこの誰かはわからないんですけど、本当にかっこよくて、と頬を赤くするエスタ。
ベシー達がクスクスと笑いをこらえてるのがわかる。ありがたいような何とも言えない気分だ。
「その方がどうしたんです?」
と聞くと、ハッとしたエスタは、
「ええ、その方とカロリーヌ様が踊っているのを見ていたランドルフ様のお顔が」
「お顔が?」
「何というか、見たことないような、苦いものを食べたようなお顔を一瞬ですけどされたんです」
苦いもの、か。それって嫉妬?
「私、ああ、この方も普通のお方なんだって。もちろん、王太子様ですから普通の方と一緒にしてはダメですよね、すみません」
「いいのよいいのよ」
とロザリンが口を挟んだ。
「ここだけの話にしましょう、それで?」
つづきを促すロザリンに、エスタは「それが」と少し言いにくそうに部屋を見回した。
私たち以外はいないと確認でもするように。
「私、ダンスが終わってから、すぐに帰るつもりだったんですけど、お手洗いに行ってて」
暗くなった廊下に月明かりが差し込んで、幻想的にすら見えた。ほうっと息を吐きだして廊下を見つめ、歩を進めたエスタは、窓辺に人影があるのに気が付いた。
ゆるくウェーブのかかったミルキーブロンドの髪が月明かりに照らされ輝いている。
水色系のドレスで月明かりの廊下にいる姿はまるで海みいる人魚のようだ。
「綺麗」
女の私でもぼーっと見つめてしまうぐらい。
あんな綺麗な子、学園にいたっけ? と考えていると、廊下の反対側に人影が見え、それが王太子だと気が付いた。
ランドルフ様だ。
隠れて見ていると、ランドルフも自分と同じように窓辺に立つ女性を見つめているようだ。
じっと見つめるランドルフ。
窓辺に立つ美少女はほうっとおおきな息をつく。
ランドルフが歩を進め、美少女に近づいていく。
「君……、カロリーヌと踊っていた男の」
あ、そうか、あの令嬢だ。イケメンと踊っていた。みんな、あの人にあんな綺麗な相手がいるなんて、とショックを受けてる子がいっぱいいたけど。
なんで、ひとりでこんなとこに?
と思ってみていると、ランドルフに呼ばれた美少女がびくりとして振り返る。
「ああ、やっぱり、あの時の、こんなとこでどうしたんだい?」
振り返った美少女は、ふるふると首を振る。
「ひとり? あの彼は?」
またもや、首を振り、くるりと背中を向ける。
そしてそのまま、廊下を走り去っていった。
「君……」
手を伸ばしたランドルフは「待って」と言うと、後を追って走りっていった。
と後ろから声をかけられた。
やばい、嫌な気分にさせてしまう。あわてて近くにいたアンの後ろに姿を隠す。
「あ、あのお、生徒会の方々ですよね」
「ふふふ。ごめんなさいね、ちょっと人見知りが激しい方ですの」
なんて言うアン。声をかけてきた令嬢は「はあ」と言いつつもアンの後ろ、私が気になるみたいだ。
「どうかされまして?」
ロザリンとベシーが書類の山を手に現れた。
「1年生の方よね。どうしたんですの?」
ベシーが小首をかしげる。
「すみません。私、エスタ・リースと申します。一昨日、学園祭で癒しの魔法でみてもらったんですけど。何かあったら生徒会に来てって言っていただけて」
エスタ! あの子だ、ランドルフ推しの。
目を見開いたベシーとロザリンは、
「わかりました、あの方ね」
「ちょっと待っていてくださる?」
にこりとした二人はエスタを生徒会室のソファに誘導した。
私はと言うと、アンに資料室に引っ張り込まれていた。
「ほら、エマ様、すぐに着替えて」
資料室に置いたままの箱の中からマントやらマスクを取り出した。癒しの魔法のブースで使った変装一式だ。
ここに置いといてよかった。家に持ち帰ると見つかった時の言い訳ができそうになくて、置いておいたのだ。あとから処分すべきか、それとも街中で商売、いや修行すべきか悩んでいたのよね。
すぐさま、着替えた私は、資料室から出ると、エスタの座るソファの前に座った。
「よく来てくださいましたね」
これ着ると何だか怪しい占い師になった気分なのよね。
「あ、先日はありがとうございました!」
「いいえ」
と答えたが、今日はあの時と違って元気いっぱいだ。占い、じゃなくて、私の癒しパワーが少しは役に立ったのかな、と嬉しくなる。
「そうですか、あれからどうですか」
と聞くと、エスタは苦笑顔で、
「私、もうランドルフ様のことは大丈夫になりました」
とはっきりと言った。
初耳のベシー達の目が丸くなる。
ここって生徒会室なのよね、いいのかな。ランドルフが来ることはそうそうないけど、カロリーヌは来るだろうし。今は私と、ベシー達三人と、ルーカスは机で書記の仕事中だ。
「ここで話されても大丈夫?」
「え? あ、そうですよね、でも私、もう大丈夫です。ランドルフ様のこと、よくわかったというか」
「ん?」
「よく見なさいって言われたでしょう?」
「ええ」
距離を置いて見つめなおす、熱くなりすぎてわからなくなってるかもと思ったのよね。それに手から熱を平熱に戻すようにパワーを与えた。
「だから、私、あれからあと、キャーキャー言ってみるんじゃなくて、観察していたんです」
「それで?」
「ダンスでカロリーヌ様と踊られて、本当に素敵で。ああ、こんなお二人に入る余地なんてあるはずがないなあっていう思いと、なんて素敵なんだろうっていう純粋な気持ちといろんな気持ちが起こりましたの。ですけど」
指を顎に手をあてたエスタは、
「あの方、カロリーヌ様が最初の踊った方、かっこよくて素敵な先輩がいましたよね」
どこの誰かはわからないんですけど、本当にかっこよくて、と頬を赤くするエスタ。
ベシー達がクスクスと笑いをこらえてるのがわかる。ありがたいような何とも言えない気分だ。
「その方がどうしたんです?」
と聞くと、ハッとしたエスタは、
「ええ、その方とカロリーヌ様が踊っているのを見ていたランドルフ様のお顔が」
「お顔が?」
「何というか、見たことないような、苦いものを食べたようなお顔を一瞬ですけどされたんです」
苦いもの、か。それって嫉妬?
「私、ああ、この方も普通のお方なんだって。もちろん、王太子様ですから普通の方と一緒にしてはダメですよね、すみません」
「いいのよいいのよ」
とロザリンが口を挟んだ。
「ここだけの話にしましょう、それで?」
つづきを促すロザリンに、エスタは「それが」と少し言いにくそうに部屋を見回した。
私たち以外はいないと確認でもするように。
「私、ダンスが終わってから、すぐに帰るつもりだったんですけど、お手洗いに行ってて」
暗くなった廊下に月明かりが差し込んで、幻想的にすら見えた。ほうっと息を吐きだして廊下を見つめ、歩を進めたエスタは、窓辺に人影があるのに気が付いた。
ゆるくウェーブのかかったミルキーブロンドの髪が月明かりに照らされ輝いている。
水色系のドレスで月明かりの廊下にいる姿はまるで海みいる人魚のようだ。
「綺麗」
女の私でもぼーっと見つめてしまうぐらい。
あんな綺麗な子、学園にいたっけ? と考えていると、廊下の反対側に人影が見え、それが王太子だと気が付いた。
ランドルフ様だ。
隠れて見ていると、ランドルフも自分と同じように窓辺に立つ女性を見つめているようだ。
じっと見つめるランドルフ。
窓辺に立つ美少女はほうっとおおきな息をつく。
ランドルフが歩を進め、美少女に近づいていく。
「君……、カロリーヌと踊っていた男の」
あ、そうか、あの令嬢だ。イケメンと踊っていた。みんな、あの人にあんな綺麗な相手がいるなんて、とショックを受けてる子がいっぱいいたけど。
なんで、ひとりでこんなとこに?
と思ってみていると、ランドルフに呼ばれた美少女がびくりとして振り返る。
「ああ、やっぱり、あの時の、こんなとこでどうしたんだい?」
振り返った美少女は、ふるふると首を振る。
「ひとり? あの彼は?」
またもや、首を振り、くるりと背中を向ける。
そしてそのまま、廊下を走り去っていった。
「君……」
手を伸ばしたランドルフは「待って」と言うと、後を追って走りっていった。
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