嫌われヒロインの日常

とわ

文字の大きさ
上 下
34 / 41

恋する乙女にアドバイス

しおりを挟む
「あの、エスタさん」
「はいっ」

 目がらんらんとしはじめてるエスタに、
「私から言えるのは、あきらめなさいともあきらめるなとも言えない」
 私はどっちつかずな返事をしたが。

「あのね、あなたは好きなお相手のどこが好きなの?」
 真面目な声で聞いてみた。
 だいたい、王太子に恋する学生は多い。なんせイケメン王子様なんだもの。だけど、カロリーナという婚約者を目の前にしたら早々にあきらめるものだ。
 だから以前のエマってすごいのよねえ。

 エスタは、もじもじすると、
「えっと、それは素敵な方で」
「お話したことはあるの?」
「それは、その」

「ランドルフ王太子様は素敵な方だと思います」
 私はそう言い切ると、真剣な顔を向けた。って言っても顔のほとんどは隠れているが。
「だけどね、本当のその人のことは表面だけではわからない」

「それはそうですけど。素敵な人には間違いない、はずです」
「うんうん、私もそう思います、だけど、あなたは今、熱に浮かされてるの」
 私はエスタの手をそっととった。
 両手で手のひらを包む。
 とても熱く感じる手から熱を取るイメージ。手から手に熱が伝わってくるそんなイメージを持つ。

「1歩後ろに下がって、冷静な目で王太子を観察してみて」
「観察?」
「そうよ、あなたはこれから、ランドルフ王太子を対象とした記者になるんです!」
「きしゃ?」
「そうです。新聞はわかるでしょう? 新聞を作っている人と同じように王太子を見つめなおすんです」
「それをすればどうなるんでしょう? 私にもチャンスが? それとも」
「そうね、チャンスがわかるか、すっぱりあきらめるか、どちらがくるかはわからないけど、もっと別の進む道が見つかるかもしれないし。どうですか? 今は来た時より冷静になってはいませんか」

 はっとした表情を浮かべたエスタは、
「すごい、私、何だか、すっとしています。言われたように王太子様を記者してみます」
 うーん、通じているかはわからないけど、少しは冷静になれたかな。
 私は「また何かあったら生徒会に伝えてくださいね」と伝えた。
 ぺこぺことお辞儀をして帰っていったけど。大丈夫よね、たぶん。

 もう終わりでいいかな。
 すっかり日も傾いている。

「お疲れ様」
 テントを出て驚いた。
「デリク様?」
 デリクがテントの前にいた。
 外を見ると、ほとんどのブースから人がいなくなっていて、帰っていく生徒たちの姿があちこちに見える。

「後輩たちを連れてきすぎて疲れたんじゃないかと、何か運ぶものがあれば手伝うよ」
 私はあわてて首を横に振った。
「大丈夫です。明日も午前中までするつもりだし、身一つですから」
 来ていたマントをほらと広げた。
 くすっと笑ったデリクの笑顔はなんだかかわいい。いとこだけあってカロリーナに似ていて綺麗な顔立ちなんだ、とあらためてみつめてしまう。

「あの、今日は本当にありがとうございました」
 何考えてんの、私、と焦って頭を下げた。
「たくさんの人を連れてきてくださって、とても勉強になったし。あ、みなさん、具合は大丈夫でしたか?」
「ああ、それは、みんな感謝してたよ。こちらこそありがとう」
 笑顔のデリクは、
「エマ嬢はみんなを元気にする力があるんだなあ」
 なんて言い出した。

「そんな、まさか。まだまだ癒し魔法の力は弱いし、何の役にも立てないし」
 だいたい魔法の基本すらなってない。
 デリクは「そうかなあ」と言うと、
「さっきの女の子」
「ああ、エスタ様のことですか?」
「彼女、最初は暗い顔してテントに入っていったけど、出るときは明るく元気になってでてきてたよ」

 魔法と言うより話を聞いただけみたいなもんだが。
「あんなふうに元気にさせるなんてすごいと思うけどなあ」
 デリクはにこりとすると、
「明日も頑張って。片付けは手伝うよ」
 と言ってくれた。

 いい人なんだなあ、きっと。
 マントにマスクという変な出で立ちの女と肩を並べて生徒会室に戻るデリクの横顔を見上げつつ、男なら絶対騎士団に入って親友の座をもらうのにと思っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。

あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!? ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。 ※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

処理中です...