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そして学園祭が始まった
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「あの~」と手を上げた私は、
「もうここに現れなければみんな存在を忘れますよ」
途端にキッとした顔を向けられる。嫌われ薬が今頃効き始めたのかしらと思ったが、全員声をそろえて、
「駄目です。またあの姿を見せてくれないと」
「はい?」
「私の創作力にも影響があるんです!」
とアン。
「それは大変ですわ」
「未来の大作家先生なんですから」
とベシーとロザリン。
すっかり、アンの書く話に魅了されている。みんなして本を作り、バザーでも売り出そうと画策しているところだ。
当のアンは、赤くなりつつも「あ、そうですわ」と小さく手を上げた。
「エマ様、男装されたエマ様ですけど、お相手がいるってわかれば、みなさんも諦められるのではありません?」
「お相手?」
「ええ、綺麗な方がいいですわね。勝てないって思うぐらいの」
全員でお互いを見やってる。というか、あなたがた、お相手がいるでしょう?
「この中でフリーは私ぐらいかしら」
なんてロザリンが言いだして、他の2人に「ずるいですわよ!」「フレディ様はあきらめてないと思いますわ」なんてやいやい言っている。
「フレディ様とはどうなんですか?」
あれ以来、進展は聞いていない。なんだか申し訳ない気がしているのだが。
「いいんです、いいんです」
ロザリンは手をひらひらと振る。
「でも毎日お花が届くんでしょう?」
「週末にはお菓子やかわいらしい雑貨なんかも届くとか」
アンたちの言葉に目が丸くなる。
「そうなんですか? べたぼれじゃないですか」
真っ赤になったロザリンは「そんなことはありません!」と頬に手をやった。
何やかや言って気になってはいるんだろう。
「そんなことより、どなたに頼むんです? 学園にいるかたではあとあともめたりしませんか?」
「そうですね、学園外の方といっても、メイドたちに頼むわけにいきませんしね」
笑いつつロザリンのやり取りを見ていたカロリーヌが首をひねった。
「メイドさんでもいいんですが、所作でばれてしまうかも」
「貴族で学園以外で、というと、先輩たちのどなたか?」
みんながうーんと唸っているとこに生徒会室のドアが開き、ルーカスが顔を出した。
「すみません。学園祭のバザーの配置なんですけど」
みんなの顔が一斉にルーカスに降り注がれた。
「これは」
「いいですわね」
「本当に」
「うーん、腕が鳴りますわ」
目をしばしばとさせたルーカスと私はお互いの顔を見合わせていた。
学園祭の準備は、生徒会が中心になりつつも、生徒全員の仕事が多く、これも前世の文化祭を思い出させた。
私はなるべく生徒から離れた場所の整備を中心に、人に近寄らないようにしていたが。
「姉さん、場所はここでいいんですか?」
一番離れたブース。
ここで癒し魔法をするわけだが、中庭の一番端の場所にしてもらった。
「何かあったらよくないしね~」
「嫌悪感とかですか?」
「そうそう。みんなが薬の影響に強いわけじゃないしね」
生徒会の友達は理由を知って、といってもルーカスがした適当な理由だけど、私を理解しようとしてくれてるが、他の同級生や後輩は知らない人がほとんどだ。ランドルフ王太子はカロリーヌから理由を聞いて一応納得したらしいが。あれ以来、近くにくることはない。
王太子とは親しくはしたくないので、このままあまり近寄らずにすめばありがたいのよね。
そして、明日は学園祭。
ブースでたくさんの人を治療で来たらいいなあ、と希望に胸を膨らませていた。
が。
「暇ねえええええ」
私はテーブルに突っ伏した。
だいたい、貴族女性がそうそう傷やら打ち身やら縁がない話だ。
朝からまだかまだかと待ってはいるがテントの布が揺れることすらない。
「癒しの治療魔法」
って看板、三角テントのようなブースには小さな机と椅子、これっていわゆる占いのテントみたいだ。
私の恰好も、濃い青のマントにフェイスベールで口を覆い、目元も仮面舞踏会みたいなアイマスク、手にはダンスでも活躍した手袋、今回は黒色に染まっている。
なるべく肌を見せない方がいいのかな、とこんな格好をしたが怪しさ満点だ。
うーん、怪しい占い師みたい。水晶玉でも用意しようかな。
なんて思っていると、がばっとテントの入り口の布が上げられ、
「いいですか?」
見ると、デリクがこちらを凝視して、少しだけ吹き出した。
「エマ様ですよね」
「デリク様。はい、でもそれは」
デリクは指を口元にやると「わかってます」と小声で答えた。
「さあ、入って入って」
と後ろを振り返ると、ひとりの騎士を中に促した。
「もうここに現れなければみんな存在を忘れますよ」
途端にキッとした顔を向けられる。嫌われ薬が今頃効き始めたのかしらと思ったが、全員声をそろえて、
「駄目です。またあの姿を見せてくれないと」
「はい?」
「私の創作力にも影響があるんです!」
とアン。
「それは大変ですわ」
「未来の大作家先生なんですから」
とベシーとロザリン。
すっかり、アンの書く話に魅了されている。みんなして本を作り、バザーでも売り出そうと画策しているところだ。
当のアンは、赤くなりつつも「あ、そうですわ」と小さく手を上げた。
「エマ様、男装されたエマ様ですけど、お相手がいるってわかれば、みなさんも諦められるのではありません?」
「お相手?」
「ええ、綺麗な方がいいですわね。勝てないって思うぐらいの」
全員でお互いを見やってる。というか、あなたがた、お相手がいるでしょう?
「この中でフリーは私ぐらいかしら」
なんてロザリンが言いだして、他の2人に「ずるいですわよ!」「フレディ様はあきらめてないと思いますわ」なんてやいやい言っている。
「フレディ様とはどうなんですか?」
あれ以来、進展は聞いていない。なんだか申し訳ない気がしているのだが。
「いいんです、いいんです」
ロザリンは手をひらひらと振る。
「でも毎日お花が届くんでしょう?」
「週末にはお菓子やかわいらしい雑貨なんかも届くとか」
アンたちの言葉に目が丸くなる。
「そうなんですか? べたぼれじゃないですか」
真っ赤になったロザリンは「そんなことはありません!」と頬に手をやった。
何やかや言って気になってはいるんだろう。
「そんなことより、どなたに頼むんです? 学園にいるかたではあとあともめたりしませんか?」
「そうですね、学園外の方といっても、メイドたちに頼むわけにいきませんしね」
笑いつつロザリンのやり取りを見ていたカロリーヌが首をひねった。
「メイドさんでもいいんですが、所作でばれてしまうかも」
「貴族で学園以外で、というと、先輩たちのどなたか?」
みんながうーんと唸っているとこに生徒会室のドアが開き、ルーカスが顔を出した。
「すみません。学園祭のバザーの配置なんですけど」
みんなの顔が一斉にルーカスに降り注がれた。
「これは」
「いいですわね」
「本当に」
「うーん、腕が鳴りますわ」
目をしばしばとさせたルーカスと私はお互いの顔を見合わせていた。
学園祭の準備は、生徒会が中心になりつつも、生徒全員の仕事が多く、これも前世の文化祭を思い出させた。
私はなるべく生徒から離れた場所の整備を中心に、人に近寄らないようにしていたが。
「姉さん、場所はここでいいんですか?」
一番離れたブース。
ここで癒し魔法をするわけだが、中庭の一番端の場所にしてもらった。
「何かあったらよくないしね~」
「嫌悪感とかですか?」
「そうそう。みんなが薬の影響に強いわけじゃないしね」
生徒会の友達は理由を知って、といってもルーカスがした適当な理由だけど、私を理解しようとしてくれてるが、他の同級生や後輩は知らない人がほとんどだ。ランドルフ王太子はカロリーヌから理由を聞いて一応納得したらしいが。あれ以来、近くにくることはない。
王太子とは親しくはしたくないので、このままあまり近寄らずにすめばありがたいのよね。
そして、明日は学園祭。
ブースでたくさんの人を治療で来たらいいなあ、と希望に胸を膨らませていた。
が。
「暇ねえええええ」
私はテーブルに突っ伏した。
だいたい、貴族女性がそうそう傷やら打ち身やら縁がない話だ。
朝からまだかまだかと待ってはいるがテントの布が揺れることすらない。
「癒しの治療魔法」
って看板、三角テントのようなブースには小さな机と椅子、これっていわゆる占いのテントみたいだ。
私の恰好も、濃い青のマントにフェイスベールで口を覆い、目元も仮面舞踏会みたいなアイマスク、手にはダンスでも活躍した手袋、今回は黒色に染まっている。
なるべく肌を見せない方がいいのかな、とこんな格好をしたが怪しさ満点だ。
うーん、怪しい占い師みたい。水晶玉でも用意しようかな。
なんて思っていると、がばっとテントの入り口の布が上げられ、
「いいですか?」
見ると、デリクがこちらを凝視して、少しだけ吹き出した。
「エマ様ですよね」
「デリク様。はい、でもそれは」
デリクは指を口元にやると「わかってます」と小声で答えた。
「さあ、入って入って」
と後ろを振り返ると、ひとりの騎士を中に促した。
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