嫌われヒロインの日常

とわ

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みんなでドレスショップへ

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「みなさん、こちらですわ」
 カロリーナが街中の大きなドレスショップを指し示す。

 ダンスパーティはもう直前、学園の帰りにカロリーナ、ベシー、ロザリン、そしてアンに私も一緒にドレスを見に来た。
 私はといえば、遠くから4人の姿を目で追いつつメイドらしくついていっていた。
 そう、私の姿は今日はメイドである。
 というのも、いつも通り、いつもの姿でドレスショップに入ったら、店員さんに嫌悪感を感じさせることになるからだ。

 だからって変装すれば大丈夫ってわけではないが、ここに来る前にシャンダのところによって特殊メイクを施してもらった。
 男装の時より厳重に、肌は厚みをもたせ、年を取らせ、どこから見てもメイドさんと言うより、乳母かベテランナニーだ。
 身体も一回り大きくて全くの別人。
 なんだか癖になりそう。
 4人からはなぜ男装じゃないんだ、と怒られたが。そんなに男装がいいのかなあ。

「エマさん、入りますよ」
「はいはい、すぐ参ります」
 カロリーナは面白そうな顔で、ロザリンやベシーは苦笑してる。アンはといえば、興味津々のていだ。さすが小説書きは視点が違うみたい。
 店の中は色とりどりの布で占められている。

「すてき」
「あ、あれ、かわいい」
 いくつものドレスを着たトルソーが飾られている。
 マーメイドのようにスッキリしたものから、いかにも貴族令嬢っぽいフリルがふんだんにつかわれスカートが広がっているもの。レースや刺繍が細やかでお高いんだろうなあ、ともともと庶民な私は思ってしまう。

「それではアン様のドレスを選びましょうか」
 カロリーナの言葉に、アンが目を白黒。
「私は、私はあとで、それより、皆さんのを」
 と焦った顔でベシーやロザリンに顔を向ける。
 ベシーもロザリンも頭を横に振る。
「私たちのはもう決めてあるから」
「そうそう、今はサイズ直しをしてもらってるんです」

 ニコニコしてる2人にカロリーナも「私もですのよ」と言うと、
「エマ様からアン様のドレスを考えてほしいって頼まれましたのよ」
 驚いた顔でこっちを見るアン。私はてへへと苦笑いすると、
「私の趣味では不安なので。それにカロリーナ様なら心配ないし、みんなで考えるのも楽しいでしょう? ね、アン様、すっごいお綺麗なんですよ。かわいくてお綺麗で」
「そんなことないです!」
 アンが真っ赤な顔で慌てて否定する。
 カロリーナが、
「ふふふ、アン様、参加されるって聞いてとても嬉しいんですよ」
「え? まあ」
 ますます赤くなるアン。

「カロリーナ様、アン様にはどんな感じがいいと思います?」
「そうですわねえ」
 飾ってあるドレスをぐるりと見ると、
「この緑のドレス、ちょっとお待ちになってね」
 そう言うと、ジゼル夫人を呼んで何やら相談を始めた。
 ジゼル夫人はアンを上から下まで見つめる。
「こんな感じでどうです」
 奥から同じ緑色のドレス、少しデザインが違うが。

「うわ、すごい綺麗、ねえ、アン様」
 じっとドレスを見つめていたアンは、はっと気づくと、
「こんな、私無理です。ドレスに負けちゃいます」
「そんなことないですよ」
 ねえ、と振り返ると、じっとドレスとアンを見ていたベシーとロザリンが、
「赤い髪に深い緑色がとても映えますわね、髪はどうしましょう」
「そうですわね。おろしてもいいけど、肩が出るから髪はこういう感じであげてはどうかしら。レースの髪飾りでまとめて、首にはチョーカーで幅広がいいわ」
「真ん中に緑の宝石が下がってるのがいいですわよ」
 二人そろって真剣モードだ。
 もう誰も止められそうにない。

「ごめんなさい、アン様。私、アン様にダンスパーティで楽しんでほしくて、みなさんに相談したんです」
 アンがこちらの言葉に目を瞬く。
「みなさんもアン様にパーティを楽しんでほしかったみたいで、すごく喜んでくださって」
 3人とも、いつもパーティに参加しないアンを気にしていたようだ。参加は自由だし、無理に出ることはないのだが、綺麗なドレスでダンスをしたりおしゃべりしたり、学生の時にしかできない楽しみを共有したかったらしい。
 アンは「そんな、私」と言いつつもどこか嬉しそうだ。

「メイクも髪のセットも任せてくださいね」
 とロザリンが言い、ベシーも「みんなで用意しましょう」と楽しげだ。
 カロリーヌは、
「部屋は用意しますからね」
 と言うと、こちらを向いた。
「さあ、エマ様の服は既に用意してありますのよ。何着かあるので、ここは民主主義、多数決で決めましょう」
 そう言うと、店の奥からいくつかのトルソーが運ばれてきた。
 どれも貴族男性の服を着ていて、きらびやかなコート、ウエストコート、ブリーチズの3点セット。色も赤、青、緑、黒……
 どこかで見たようなアイドル衣装みたいなんですけど。しかも担当の色ほど出てくるし。

「あの~、これ、着るんですか」
 カロリーヌは当たり前だ、と言わんばかりににこりと微笑んで返してきた。
 こんな人だったっけ? 悪役令嬢カロリーヌって。
 ベシー達3人は、言うまでもなくキラキラとした目でアイドル衣装に釘付けだ。
 やっぱり、男装の麗人に変身しないといけないみたいだけど。
 ひとつだけ、気がかりなことがあるのよね。
 家に帰って練習しないと。ダンスパーティまであまり時間がない。
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