嫌われヒロインの日常

とわ

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嫉妬させる作戦

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 腹が立った私は、すっくと立ちあがった。

「エマ様?」
「何とかしましょう!」
「え? 何とかって?」
 ふたりしてこちらを見ているのが背中越しにわかる。

 私は声を大にすると、
「見せつけてやるんです。大事にしないと後悔することになるって」
「え? え?」
「どうやって?」
 わたわたするふたりに、私はそっと近づくと、
「向こうを向いていてください」と言うと、背中に向かって小声でささやいた。

「側にいてくれることにあぐらをかいているなんてあり得ませんよ。大事にしないと他の男に取られるんだって思い知らせてやるんです」
「ほかの」
「おとこ!?」
 目を白黒させているのが顔を見なくともわかるが。ここは本当にきちんとわからせてやんないと。
 ロザリンは真剣に、きっとずっと想っていたんだろう。私が邪魔してもなお。ここはなんとしても一肌脱がなきゃあ。
「きっとうまくいきます。いや、いかせます!」

 力説した私は、家に帰るとさっそくルーカスを捕まえた。
 横取りする男の役はルーカスぐらいしか思い浮かばないと言うか、身近の男性はルーカスぐらいしか知らないのよね。

「お断りします」
「え、嘘ぉ! 何で?」
「何でって」
 食堂にいるルーカスを捕まえた。ありがたいような寂しいような、父様も母様もさっさと夕飯を済ませて居間に移動していた。

「だって、同じ学校の女子生徒が、同級生が困ってるのよ。それを助けてあげても」
「姉さんの方法が嫌なんです」
「何でよ」
 ルーカスは咳払いすると椅子から立ち上がる。

「僕は、姉さんや生徒会の皆さんよりは年下ですが、同級生です」
「そうね」
「ロザリン様ともフレディ様とも同級生です」
「知ってる」
「ですから、僕がロザリンさんに手を出したってわかったら、僕のクラス、いや、学校での立場はどうなると思うんですか」
「えー、でも、フレディ様を騙すためのお芝居だし」
 確かに他の男子生徒からも女生徒からも嫌な目で見られるかもしれないが。

「これは嘘でーすってわかれば大丈夫……」
 ルーカスはあきれたように息を吐きだす。
「大丈夫じゃないでしょう? もともとの事情を知っている人なら、が点も行くでしょうが、大半は僕がお相手のいる女性に手を出したっていう噂が消えることはないと思いますよ」
 うーん、と思わずうなってしまった。
 そういわれるとそうかもしれない。大半は噂を好きに広めるだけの無責任な状態にあるわけで。ルーカスに被害が及ぶかもだ。

「それは、あんたがいつか結婚するときに困るわよね」
 立ったままのルーカスは口に含んでいた飲み残しの紅茶を吹きだした。
「な、なに言ってんです」
「それは困るわ。私が発端ってわかったら、小姑として嫌われるし、そうなると同居させてもらえないかもだし」
 ますます呆れ顔のルーカスは、
「何をぶつぶつ言ってんです。とにかく僕はその役目は遠慮しますからね」
 それだけ言うと、自室に戻ってしまった。

 これは困った。
 ロザリンに言い寄るイケメンの男。ロザリンも嫌そうな顔はしておらず、フレディの目の前で仲がよさげな様子を見せる。そしたらフレディの嫉妬心をおあることになり、ロザリンがいかに大事かわかるだろうと、思ったのだ。

 ルーカス一択で考えた作戦だったんだけど。
 他に知り合いの男性と言うと、王太子様に、ベシー様の婚約者、いわゆる私が絶賛嫌われ中の4人ぐらいなものだ。これは端から無理だし。

 他にイケメンで協力してくれそうな人いないかな。
 悩みに悩んだ私は、ふと鏡に映る自分を見た。
 薄い金色の髪は長くさらさらで空色の瞳で。さすがにヒロインだけあって、エマが男子ならアイドルにでもなれそうなんだけど。
「あっ、そうだ」
 私はそそくさとクローゼットの奥に隠したままのメイドの服を引っ張り出した。
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