嫌われヒロインの日常

とわ

文字の大きさ
上 下
4 / 41

嫌われ薬の効果

しおりを挟む
 どういえばいいものか。目をしばしばとさせる私に、
「誰かを虜にしたいのかい」
 と聞いてきた。

「え? ああ、いえ」
 これ以上、虜にしたい相手なんていない。
「おや、違うの。じゃあ、あれだろう、もっともっときれいになって王子様に見初められたい、そうだろ」
「いや、それはもう」
 すでにそういう状態だし。

「んん? 違うか。わかった、テストで満点が取りたい、そうだろ」
「あー、それもいいと言えばいいけど、違います」
 おばあさんは、はあ? と眉を上げた。
「じゃあ、何だい。あんた、どこかの貴族の娘だろ。お金の心配はない。結婚だってそれ相応の相手がいるだろうし。何か問題でもあるのかい」
 おばあさんをじっと見つめた私は大きくうなづいた。

 そして。

「私、嫌いになる薬が欲しいんです」
「はい?」
「嫌われたいんです」
「はあ?」
「だーかーら、私を嫌いになってほしいんです!」
 何だか、私、モテてモテて困ってるんです! と自慢しているようにも聞こえることを大声で叫んでいた。

「嫌いにねえ」
 不審そうな顔つきで見られてる。
 おばあさんは納得いかない様子で家の奥へと入っていった。
 普通は好かれるための秘薬とか、それこそ媚薬とか、買いに来る人がほとんどなんだろう。
「なかなかないんだけどねえ、そういう要望は」
 と言いつつ、小さな瓶を手に戻ってきたおばあさん。

 私の前に置かれた深い緑色の瓶。
「これですか?」
 恐る恐る聞くと、おばあさんは小さくうなづいた。
「いいかい、これは相手ではなく、自分で飲むんだよ。あんた、何人かから嫌われたいと言っていたから、全員に飲ませるのも大変だろうし、自分で飲むだけですむなら簡単だろう」
 つらつらと説明を始めたが私の目は緑色の小瓶に釘付けだ。

 これを飲んで、王太子や取り巻きの男子連中に嫌われれば、婚約破棄もないし、男子を想っている令嬢から嫌われることもない、はずだ。
 これですべて問題解決!

「あと、これは一度にたくさん飲むとよく……あんた! 何してんだい!」
 おばあさんの顔が真っ青になっていくのが横目で確認できたけど。
「ごくんっ……意外にまずくないですね」
 小さな小瓶に入った薬は、小さな栄養剤ぐらいの分量しかなく、あっという間に飲み干せた。

「あ、あんた」
 口をわなわなさせたおばあさんが指をふるふるとさせる目の前で、私は空になった瓶を「ごちそうさまです」とカウンターに置いた。
「あんた! これは一度に飲むもんじゃないよ! 一滴でいいんだ、一滴で」
「へ? そうなんですか?」
「ああ、そうさ、嫌われたい相手の前で一滴飲めば効果はすぐに出る、そういうものなんだよ。まさか、一度に全部飲むなんて」

 あきれ顔で瓶と私を交互に見ていたおばあさんだが、
「身体は大丈夫かい、どこか変とか」
「あ、それは大丈夫です。ほら」
 と手を上下に動かしてにっこりとしたが、なぜかこちらを最初は心配げに見ていたおばあさんの顔が変容していく。
 口はへの字に曲がり、眉根は寄り……

「あんた! 何してんだい!」
「は、はい?」
「ここにいるんじゃないよ!」
「え?」
「さっさと出ておいき!」
 ものすごい剣幕でカウンターから出てくると、私の腕をつかんで外に連れていく。

「あ、あのお金は?」
「もういい! そんなものはいいから出て行ってくれ!」
 外に追い出された私の目の前でドアがバタン! と音を立てて閉まった。
「えー……」
 閉まったドアを見つめたまま目をしばしば。
「何をそんなに怒って」
 と言いかけて、これが薬の効果だと気が付いた。

「すごい! こんなに嫌われるんだ。これなら王太子様もバーナードもフレディもノアもみーんな私を嫌いになる!」
 浮かれた私は、やったやった、とスキップで家へと帰っていった。

「メイベリン、メイベリン、いる?」
 屋敷の裏に回り、メイドの部屋の窓から声をかけた。
「お嬢様?」
 窓が小さく開く。

「よかった。メイベリン、服ありがとう」
 屋敷の裏小屋で着替えた私は、服をメイベリンに差し出した。
「洗ってないけどごめんね。お土産もないんだけど、今度買ってくるわ、何がいい?」
 見上げると、窓からこちらを見ていたメイベリンが渋い顔で一言。
「いりません! 服も捨ててください!」
 ばんっと窓を閉められた。

 え? 何で?
 洗濯もせずに返したから怒った?

 首をかしげつつ、メイベリンの服を持ったまま、私は自分の部屋に戻った。
 これから以後、私はあやしい薬の効果を嫌と言うほど味わうことになるとは思ってもみなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。

あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!? ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。 ※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

処理中です...