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嫌われ薬の効果
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どういえばいいものか。目をしばしばとさせる私に、
「誰かを虜にしたいのかい」
と聞いてきた。
「え? ああ、いえ」
これ以上、虜にしたい相手なんていない。
「おや、違うの。じゃあ、あれだろう、もっともっときれいになって王子様に見初められたい、そうだろ」
「いや、それはもう」
すでにそういう状態だし。
「んん? 違うか。わかった、テストで満点が取りたい、そうだろ」
「あー、それもいいと言えばいいけど、違います」
おばあさんは、はあ? と眉を上げた。
「じゃあ、何だい。あんた、どこかの貴族の娘だろ。お金の心配はない。結婚だってそれ相応の相手がいるだろうし。何か問題でもあるのかい」
おばあさんをじっと見つめた私は大きくうなづいた。
そして。
「私、嫌いになる薬が欲しいんです」
「はい?」
「嫌われたいんです」
「はあ?」
「だーかーら、私を嫌いになってほしいんです!」
何だか、私、モテてモテて困ってるんです! と自慢しているようにも聞こえることを大声で叫んでいた。
「嫌いにねえ」
不審そうな顔つきで見られてる。
おばあさんは納得いかない様子で家の奥へと入っていった。
普通は好かれるための秘薬とか、それこそ媚薬とか、買いに来る人がほとんどなんだろう。
「なかなかないんだけどねえ、そういう要望は」
と言いつつ、小さな瓶を手に戻ってきたおばあさん。
私の前に置かれた深い緑色の瓶。
「これですか?」
恐る恐る聞くと、おばあさんは小さくうなづいた。
「いいかい、これは相手ではなく、自分で飲むんだよ。あんた、何人かから嫌われたいと言っていたから、全員に飲ませるのも大変だろうし、自分で飲むだけですむなら簡単だろう」
つらつらと説明を始めたが私の目は緑色の小瓶に釘付けだ。
これを飲んで、王太子や取り巻きの男子連中に嫌われれば、婚約破棄もないし、男子を想っている令嬢から嫌われることもない、はずだ。
これですべて問題解決!
「あと、これは一度にたくさん飲むとよく……あんた! 何してんだい!」
おばあさんの顔が真っ青になっていくのが横目で確認できたけど。
「ごくんっ……意外にまずくないですね」
小さな小瓶に入った薬は、小さな栄養剤ぐらいの分量しかなく、あっという間に飲み干せた。
「あ、あんた」
口をわなわなさせたおばあさんが指をふるふるとさせる目の前で、私は空になった瓶を「ごちそうさまです」とカウンターに置いた。
「あんた! これは一度に飲むもんじゃないよ! 一滴でいいんだ、一滴で」
「へ? そうなんですか?」
「ああ、そうさ、嫌われたい相手の前で一滴飲めば効果はすぐに出る、そういうものなんだよ。まさか、一度に全部飲むなんて」
あきれ顔で瓶と私を交互に見ていたおばあさんだが、
「身体は大丈夫かい、どこか変とか」
「あ、それは大丈夫です。ほら」
と手を上下に動かしてにっこりとしたが、なぜかこちらを最初は心配げに見ていたおばあさんの顔が変容していく。
口はへの字に曲がり、眉根は寄り……
「あんた! 何してんだい!」
「は、はい?」
「ここにいるんじゃないよ!」
「え?」
「さっさと出ておいき!」
ものすごい剣幕でカウンターから出てくると、私の腕をつかんで外に連れていく。
「あ、あのお金は?」
「もういい! そんなものはいいから出て行ってくれ!」
外に追い出された私の目の前でドアがバタン! と音を立てて閉まった。
「えー……」
閉まったドアを見つめたまま目をしばしば。
「何をそんなに怒って」
と言いかけて、これが薬の効果だと気が付いた。
「すごい! こんなに嫌われるんだ。これなら王太子様もバーナードもフレディもノアもみーんな私を嫌いになる!」
浮かれた私は、やったやった、とスキップで家へと帰っていった。
「メイベリン、メイベリン、いる?」
屋敷の裏に回り、メイドの部屋の窓から声をかけた。
「お嬢様?」
窓が小さく開く。
「よかった。メイベリン、服ありがとう」
屋敷の裏小屋で着替えた私は、服をメイベリンに差し出した。
「洗ってないけどごめんね。お土産もないんだけど、今度買ってくるわ、何がいい?」
見上げると、窓からこちらを見ていたメイベリンが渋い顔で一言。
「いりません! 服も捨ててください!」
ばんっと窓を閉められた。
え? 何で?
洗濯もせずに返したから怒った?
首をかしげつつ、メイベリンの服を持ったまま、私は自分の部屋に戻った。
これから以後、私はあやしい薬の効果を嫌と言うほど味わうことになるとは思ってもみなかった。
「誰かを虜にしたいのかい」
と聞いてきた。
「え? ああ、いえ」
これ以上、虜にしたい相手なんていない。
「おや、違うの。じゃあ、あれだろう、もっともっときれいになって王子様に見初められたい、そうだろ」
「いや、それはもう」
すでにそういう状態だし。
「んん? 違うか。わかった、テストで満点が取りたい、そうだろ」
「あー、それもいいと言えばいいけど、違います」
おばあさんは、はあ? と眉を上げた。
「じゃあ、何だい。あんた、どこかの貴族の娘だろ。お金の心配はない。結婚だってそれ相応の相手がいるだろうし。何か問題でもあるのかい」
おばあさんをじっと見つめた私は大きくうなづいた。
そして。
「私、嫌いになる薬が欲しいんです」
「はい?」
「嫌われたいんです」
「はあ?」
「だーかーら、私を嫌いになってほしいんです!」
何だか、私、モテてモテて困ってるんです! と自慢しているようにも聞こえることを大声で叫んでいた。
「嫌いにねえ」
不審そうな顔つきで見られてる。
おばあさんは納得いかない様子で家の奥へと入っていった。
普通は好かれるための秘薬とか、それこそ媚薬とか、買いに来る人がほとんどなんだろう。
「なかなかないんだけどねえ、そういう要望は」
と言いつつ、小さな瓶を手に戻ってきたおばあさん。
私の前に置かれた深い緑色の瓶。
「これですか?」
恐る恐る聞くと、おばあさんは小さくうなづいた。
「いいかい、これは相手ではなく、自分で飲むんだよ。あんた、何人かから嫌われたいと言っていたから、全員に飲ませるのも大変だろうし、自分で飲むだけですむなら簡単だろう」
つらつらと説明を始めたが私の目は緑色の小瓶に釘付けだ。
これを飲んで、王太子や取り巻きの男子連中に嫌われれば、婚約破棄もないし、男子を想っている令嬢から嫌われることもない、はずだ。
これですべて問題解決!
「あと、これは一度にたくさん飲むとよく……あんた! 何してんだい!」
おばあさんの顔が真っ青になっていくのが横目で確認できたけど。
「ごくんっ……意外にまずくないですね」
小さな小瓶に入った薬は、小さな栄養剤ぐらいの分量しかなく、あっという間に飲み干せた。
「あ、あんた」
口をわなわなさせたおばあさんが指をふるふるとさせる目の前で、私は空になった瓶を「ごちそうさまです」とカウンターに置いた。
「あんた! これは一度に飲むもんじゃないよ! 一滴でいいんだ、一滴で」
「へ? そうなんですか?」
「ああ、そうさ、嫌われたい相手の前で一滴飲めば効果はすぐに出る、そういうものなんだよ。まさか、一度に全部飲むなんて」
あきれ顔で瓶と私を交互に見ていたおばあさんだが、
「身体は大丈夫かい、どこか変とか」
「あ、それは大丈夫です。ほら」
と手を上下に動かしてにっこりとしたが、なぜかこちらを最初は心配げに見ていたおばあさんの顔が変容していく。
口はへの字に曲がり、眉根は寄り……
「あんた! 何してんだい!」
「は、はい?」
「ここにいるんじゃないよ!」
「え?」
「さっさと出ておいき!」
ものすごい剣幕でカウンターから出てくると、私の腕をつかんで外に連れていく。
「あ、あのお金は?」
「もういい! そんなものはいいから出て行ってくれ!」
外に追い出された私の目の前でドアがバタン! と音を立てて閉まった。
「えー……」
閉まったドアを見つめたまま目をしばしば。
「何をそんなに怒って」
と言いかけて、これが薬の効果だと気が付いた。
「すごい! こんなに嫌われるんだ。これなら王太子様もバーナードもフレディもノアもみーんな私を嫌いになる!」
浮かれた私は、やったやった、とスキップで家へと帰っていった。
「メイベリン、メイベリン、いる?」
屋敷の裏に回り、メイドの部屋の窓から声をかけた。
「お嬢様?」
窓が小さく開く。
「よかった。メイベリン、服ありがとう」
屋敷の裏小屋で着替えた私は、服をメイベリンに差し出した。
「洗ってないけどごめんね。お土産もないんだけど、今度買ってくるわ、何がいい?」
見上げると、窓からこちらを見ていたメイベリンが渋い顔で一言。
「いりません! 服も捨ててください!」
ばんっと窓を閉められた。
え? 何で?
洗濯もせずに返したから怒った?
首をかしげつつ、メイベリンの服を持ったまま、私は自分の部屋に戻った。
これから以後、私はあやしい薬の効果を嫌と言うほど味わうことになるとは思ってもみなかった。
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