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ミーガンの結婚行進曲

婚約者を略奪した友人ー2

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「はい?」

「貴族でもないし。だいたい、あなた」
 口を端をいじわるそうに歪める。

「罪人でしょう?」

 そうだった。ドリアーヌ相手にも暴言吐いたんだった。こちらの顔に出ていたのか、ますますにやりとすると、
「不敬罪でしたっけ? 町を追放になったのよね。それで森になんて住んでるのね。こんな掘っ立て小屋みたいなとこに。そんな人と王子が、まさかねと思ったわ」

 どこまで知っているのか。
 助けたという事実のみ知られているはずだけど。

「色々手を尽くして情報を得たのよ」
 ハーブティーのカップをガチャンと音を立てて置いた。
「王太子様を助けてあげたとか、それは立派なことをしたと思いますよ。でもね、だからって王太子様に良くしてもらえるなんて思い上がらないほうがいいんじゃなくて?」

「え?」
 きょとんとする私にドリアーヌは話は終わりとばかりに立ち上がった。
「私、王太子妃候補の一人なのよ」

 驚いた。
 でも貴族の令嬢ならそれは確かにありそうなことだが。目を見開いて見つめてしまっていたようだ。

 ドリアーヌは、
「まあ、他のご令嬢に負けるつもりはないですけどね」
 ふふんと鼻を鳴らした。

 自分が一番だと鼻高々な様子だが、こんな子だったのか。
 どうにもドリアーヌ情報がなさすぎて、どんな子なのかがつかみにくい。

 だけど。
 貴族のご令嬢にはない狡猾さを感じるというか何というか。

「あの」
 もう用はないとばかりにフードをかぶるドリアーヌの声をかけた。

「なんですの?」
「本当にあのドリアーヌ様なのよね?」
「え?」

 少しばかり目をしばしばさせたが、突然向き直ると「あたりまえてしょう!」と鼻の穴を膨らませた。

「あなたねえ、私に負けてるからって」
 指をふるふるさせたご令嬢は、
「そうよ、身分にしろ何にしろ私に勝てはしないんだから早々に諦めなさい!」
 ぴしりと私の顔面に指を突き付けた。

 その腕をそっと降ろすと私の腕をさする。
「自分のいる場所をよく考えて行動しなさい。派手なことをしなければ、私も悪いようにはしないわ。馬鹿じゃないんだからそのぐらいわかるでしょう?」

 にこりとした笑みを浮かべるドリアーヌに、今まで寝ていたと思っていたごましおが「シャーっ!!!!」と牙をむきだして飛び掛かった。

「きゃあああああ!」
「ごましお!」
 ドリアーヌと私の声が重なる。ドリアーヌの髪飾りに噛みついて離れないごましおを何とか引き離す。

「な、なんなの、このクソ猫!」
 すごい形相のドリアーヌは、サラサラの金髪も乱れまくってる。
 腕をぼりぼりと搔きむしりつつ、はーはー言いながらこちらを睨みつけてきたが。

「ドリアーヌ様、大丈夫ですか」
 外からの声にはっとした顔をする。

「失礼します」と顔をのぞかせたのは、真っ黒い上下の服に身を包んだかなりのイケメンで驚いた。

 こっちが驚いているのに気をよくしたのか、ドリアーヌは、
「私の言ったことをよく考えなさい」
 と振り返りつつ言うと意気揚々帰っていった。

「ごましお、ありがとうね。でも危ないから手を出してはダメよ」
 手でつかまれてたら何をされたかわからない。
 私の言葉を理解したのか「みゃっ」とだけ鳴くと、すたすたと寝床に戻っていった。

 それにしても。いったい何だったんだろう。
 婚約者を奪った令嬢のいきなりの登場だなんて。

 しかも婚約破棄をして、今度は王太子妃になろうとしているだなんて。

 ドリアーヌの情報は私の中では微々たるものだ。すべてはミーガン自身の記憶に頼るしかない。

 ドリアーヌはミーガンの数少ない友人の一人。
 そして、ミーガンの婚約者と関係を持って、ミーガンを婚約破棄に追いやった人物の一人。

 私の中のミーガンの記憶はあまりはっきりとはしていないが、ドリアーヌはどちらかといえばおとなしめで、後ろに隠れてるようなイメージなお嬢様。でもユルゲンを横取りしたんだからしたたかだったのかもしれない。

 あれが本当の姿だったってことなのかも。

 まったく、私の前世で同じように婚約者と一緒になった英莉ちゃんみたいだわ。
 私の後輩で、私の前では先輩、先輩となついてきた可愛い後輩だった。ちょいちょい、仕事ができずに私に仕事が回ってきたのも仕方ないと手伝っていたが、あとから考えるとうまい具合に使われてたんだと思う。あの子も表と裏がかなりあったってことだもんなあ。

 つくづくそういう女性に縁があるようだ。
 溜息ついて椅子に座り込むといきなりノックの音に飛び上がる。

「大丈夫でしたか!」
 顔を出したのは衛兵のテレンスさんだ。

 あいかわらず森に住む私を心配してくれたディーンは兵士を置いておくようにしてくれたが。
 申し訳ないし、そんなことしなくとも危ないことなんてないからと帰ってもらうようにたのんだはずなのに。

 ハッとしたテレンスさんは、
「いつもではないんですよ、時々見回り程度に寄らせてもらっているだけです」
 うーん、完全に気をつかわれてるわ。

「私にわからないように隠れて警護してくださってたんですね。すみません、テレンスさん」
 やたら気にして警護をおいてくれるのはありがたいがマジに申し訳ない。
 ぺこりと頭を下げる私に、テレンスさんは恐縮しつつ、
「あの、今の方、エドゥ伯のご令嬢ですよね」
「ええ、よくご存知で」

「馬車を待たせておいでたったので御者にこっそり聞いたんです」
 ちょっとうつむいたテレンスさんは言いにくそうに口をへの字にする。
「あの、何かおっしゃってたようですが……」

 喧騒が聞こえていたのか、眉を下げるテレンスさんに、私はハーブを買いにいらしただけですよと笑みを見せた。

 まさか、王太子から手を引けなんて言われたとは言えない。

 苦笑いの私にテレンスさんは納得したのかしないのか同じように苦笑して返した。
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