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あなたが悪役令嬢?

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 顔を見上げる私に、メイドさんはそそくさと去っていく。よくよく見ると、他のメイドさんたちも顔を伏せがちだがどこかで会ったような。

 頭の中で記憶を探っているとお嬢様のひとりが眉を下げるようにしてほほ笑んできた。
「ミーガン様のお召し物、とても素敵ですね」
 他のお嬢たちが「本当に」「ねえ」と口々に言ってくれる。

 メリ嬢もにこりとすると、
「いつもそのようなドレスを着てらしたらいいのに。黒っぽい麻袋みたいなお洋服じゃなくて」
 ねえ、と悪そうに微笑む令嬢に合点がいった。

 そういうことか。もうばれていたのね。
 
 さらに、メリ嬢は、
「嘘をつくと針で痛い目にあいますのよ」
 なんてクスクスと笑う。
 
 ハッとして庭の隅に立つメイドさんに目をやった。
 立て続けに表れたお客の女性とメイドさんが一致した。だから見たことあると思ったのか。
「あのネズミも?」
 すっかりクロときなこの遊び道具になってしまったネズミのおもちゃ。水浸しの靴や靴の中にあった山のような針。
 メイドさんを送り込んで色々仕掛けてきたってことか。
 いわゆる、悪役令嬢が主人公をいじめるようなもの? それにしては。

「村の子たちのいたずらじゃなかったのね」
 てっきり村の男の子たちがしたのか、妖精でもいるのかと思っていたのよね。まさかのご令嬢のいじめとは。

 吹き出す私に、メリ嬢はハッとすると顔を真っ赤にした。
「な、な、な、何がおかしいんですか!」
「あ、ごめんなさい。なんでもないんです。ちょっとかわいいなって思って」

 足の先まで真っ赤なんじゃなかろうか。
「かかかかかかわいい!?」
「あ、ごめんなさい」
 素直に謝る私にメリ嬢は大きく息を吐きだすと、
「と、ともかくお茶にいたしましょう」
 と椅子に座りなおした。
 
 はらはらと私たちを見ていた他の令嬢たちもほっと息をつくと椅子に座った。
 手を挙げたメリ嬢に合わせるようにメイドが寄ってくると各自のカップにお茶をついでいく。私の前に置かれたカップにもルビー色のお茶が注がれる。
 身元もばれたし、いたずらの犯人もわかったし、もう帰りたいんだけどなあ。
 そう思いつつ、カップを持ち上げた。
 
 メリ嬢がカップを手にしたままこちらを凝視している。
 目が妙に血走っているような。さっきの興奮が冷めていないのか、私のことを悪役令嬢の如く怒っているせいなのか。
「いいお茶を用意しましたのよ。お飲みくださいな」
 と言うメリ嬢に、他のお嬢様方は目をぱちくり。
 
 何その反応。
 もしかしていいお茶とかいいつつ、ものすごいまずいとかじゃないわよね。

「さあ、ミーガン様」
「はあ」
 ちらりと視線を上げると、食いつきそうな目をしてる。仕方ないとカップに口をつけようとしたその時、
「ニャー!!!」
 とクロの鳴き声が響いた。


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