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脛に傷持つ身の私……

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 馬車に詰め込まれ、リチャードとユルゲンに挟まれるように座らされた私が降ろされた先は、レンガが積み重なった壁の重厚感あるお屋敷。

「え? ここ? ここがマークとかいう人の?」
「裁判所だ」
「え? 裁判? するの?」

 まさか私? 悪いのはユルゲンじゃないの?

 きょろきょろと裁判所の中を見回す私に、リチャードがユルゲンにこそこそ耳打ちしつつ頭を指でとんとんとしてる。
「あの、ミーガン様もしかしてちょっと」
 ユルゲンもこちらを見て眉をひそめつつも、重そうなドアをノックした。

 中には、ユルゲンと同じぐらいの年齢の男性が一人。ひらひらとしたひだのついたネクタイのような飾りをつけ群青色したベルベットのジャケットを着ている。
 この人がマークって人?

「ユルゲン、今日はいったい? ミーガン様まで連れて。あれ? 確かミーガン様とは」
「マーク、それはいいんだ」
 とユルゲンはマークが座る机に両手を置いた。

 何やらこそこそと言い合うとマークは何かを書き始めた。時々ペンを持つ手を止めてはユルゲンに顔をあげ、また何かしらひそひそと話しあっている。

 いったい何をしているのか。ここが裁判所ってことはマークは裁判官なのか。それとも判事? 弁護士? どれかはわからないが、マークは部屋の隅で待たされている私に時折ちらりと視線を向けてはまたペンを走らせていた。

「これでいいだろう」
 と部屋の主、マークが一枚の紙を広げ、私に向かい、
「ミーガン・ボナート殿、あなたは不敬罪に問われていますが、今ある状況とユルゲンの厚情を鑑み、以下の罰を与えるものとします」

 ば、罰!?
 不敬罪って。

 聞いたことある。よく読む漫画の中で目にする罪。位の高い人の名誉や尊厳を害することだ。
 あの思いっきりな悪態のことを言ってるの?

「ミーガン殿、あなたにはルドク市からの追放を言い渡します」

 ルドク市とは今いるこの場所で、ここから追放される罰ってことらしい。おばあちゃんが見ていた時代劇で江戸追放なんて聞いたことあるがあれと同じようなもんかしら。
 だけど裁判もせずに書類1枚で罰せられるなんて。

 あとからリチャードに聞いてみたが、裁判も警察の介入もなく、判事の判断と書類のみで罪が決まってしまうことはありらしい。軽い罪にはお金をかけない簡単な方法を選択可能なんだとか。

 この世界では普通のことらしいが。
 住んでるとこ追放だなんて軽い罪とは思えないんだけど。

「それでは参りましょうか」
 とリチャードが荷物を持ち直した。

「え? あの今から?」
「そうでございますよ。ではご主人様」
「ああ、頼んだ」
 ユルゲンはちらりとこちらを見ると「隣の市の境までは送らせる」ふいっと顔をそむけると行けとばかりに手を払うようにした。

 あれよあれよと、自分の罪が決まっていったことにパニック状態のまま。
 気付けば私を乗せた馬車は街の中を走り抜けていた。
 この世界の法律も決まり事も身をもって知ることになるなんて。
 
 ため息付きつつ馬車の窓から外を眺めていた。
 レンガ造りの道、流れていく町並み、白を基調にした漆喰の壁がオレンジに染まっていく。

 きれい。
 なんて場違いに感動してるうちに、建物の数も減っていって。レンガからかわって土の道が長く続いていく。

「ミーガン様、本来なら罰金刑でしたはずなのに。それでも追放ですんだのはユルゲン様のご厚情のあらわれですよ。判事様はユルゲン様のご友人、ユルゲン様のお気持ちを汲まれたんですよ」
 と言っても、市街追放のどこが厚情の現れなんだかわからない。

「はあ」とつぶやく私に、感謝の念がたりないと感じたのかリチャードは、
「罰金は相当な額になったと思いますよ。こう申しては失礼ですが、支払うのちょっと。ミーガン様はお家も何もかもなくされたのですから」
 本当においたわしく思います、とよよと泣く素振りなリチャードを思わず凝視した。

「家を、なくした?」
「ええ、ええ。貴族の身分返上するというお父上のサインの入った書面がでてきたとか」

 まじで?

 私、貴族でもなければ、家もない犯罪者ってこと?
 外が暗くなっていくのと同じように視界が別の意味で真っ暗になっていく。
 と、いきなり馬車が止まった。

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