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あの時何が起きたのか。
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…つまり、王を始め国の上層部は皆、主様方に隷属していて、それを解除する事もなく、追っ手を出す気もない、と。
…やらかした色ボケ姫は?
予定通り、イルティアルの王弟に嫁入りっス。
そりゃーもう問答無用っス。
王がマジ切れしたの初めて見たって、その日の護衛担当のヤツが言ってたっスよ。
猫なで声ですり寄ろうが、泣こうがわめこうが吠えようが一切無視して、向こうさんが迎えに来るまで部屋に監禁。
懇意にしてた女官達も、取り巻きの男達も全部面会禁止。当然嫁入り先に連れて行くのも禁止。
死んで逃げるような根性なんかハナっからないから、閉じ込めとくだけでいいって楽っちゃ楽っスね。
ああ、そうそう…取り巻きの男達、これで自由だーーーっ!って、大喜びだったそうっス。
あの姫さん…どんだけだったんスかね…。
主様はアレと出会ってすぐに、アレはダメだ、と分かったらしいぞ。
はー…。さすがはオレらのご主人様っスね。人を見る目が出来ている。
元部下は、どこかうっとりとしている。
本当に、主様方に隷属…と、言うより心酔しきってないか?これ…。
緩みきった顔で彼方を見ている。
と、不意に真面目な顔になり、こちらを向いた。
そうそう、王からお頭へ…っス。
懐から一通の手紙を引っ張り出した元部下は、その手紙の両面をおれに見せてから差し出した。
確かに王の書いた文字で、王の書名がしてある。封筒も、王専用のものだ。
受け取って、開封した。
中には…びっしりと書き込まれた便せんが…。
いまだかつて此処まで書き込みの入った命令書など、受け取ったことなどなかったのだが…。
…………。
………。
…………。
はあ。
ありがたいやら、これが一国の王か、と呆れるやら…。
かしこまった顔で待機している元部下に言った。
命令は受けよう。
ただ、おれは主様に身も心も全て捧げているので、そちらの条件を全て受け入れることは出来ない。それでも構わないと言うのなら、主様方に迷惑の掛からない程度であれば、こちらの情報も少しは流そう。
元部下の顔が、おかしなことになってた。
何スかその身も心も捧げてるって!
たいしたことじゃない。全身全霊を持って、主様にお仕えさせていただいているだけだ。
そうそう、主様より、直々に名を賜ったぞ。
元部下は、ものすごい形相で吠えた。
ずっりーっ!お頭ばっか、ずっりーっ!
ずるいずるいと連呼する元部下。
だが、お前がアレに耐えられたとは思えない。
あの時ーー。
ミヤ様の不可解な拘束に、一瞬で捕らわれたおれは本当に、身動き一つ、指1本はおろかまぶたを動かすことすら出来なかった。
この時点で諜報機関の長としての矜恃にヒビが入っていたが。
おれのちっぽけなプライドを完膚なきまでに叩き壊したのは主様だった。
辛うじて息をしているだけの、動かない肉の塊となって床に転がされ、年若い青年に足蹴にされる、という屈辱。この先、おそらくは尋問と言う名前の拷問が行われると予想し、精神を痛みを喜びとするモノに替えた。痛め付けられてるおっさんが喜びに悶えている、というのは拷問を実行してる側にとってはものすごくやる気を削がれるモノである。そうして油断を誘い、逃亡し、情報を持ち帰るというのは影草にとっては至極当然のことで。今までに幾度となく繰り返されてきたこと、今回もまた同じようにすれば良い、とのおれの思い上がりに主様は。
存在しないはずの禁書“秘色の安息”を手に、おれを壊した。
あの時おれを見ていたミヤ様の冷たい目より、主様の、ああ、そこに石コロが転がってんなー…という無関心な目が恐ろしかった。
少女と見紛うほど美しい顔に何の感慨も見せずに淡々と、おれの精神を、魂魄を、壊した。
あの時のおれは、バラバラに砕けた魂魄の詰まった肉の塊だった。
おれは禁書の恐ろしさを身を持って知った。
それよりも恐ろしかったのは、そんなことを平然と、顔色一つ変えずにやってのけた少年の存在だった。
おれが今まで受けてきた訓練や今までの経験など、塵芥に等しかった。
肉体の苦痛など、苦痛の内にも入らないのだ、と、おれはその時に知った。
かなわないーー。
冷たい微笑みを浮かべて観察している青年にも、禁書を完全に使いこなし、淡々と作業するように人を壊す少年にも。
彼らの外見が、見目麗しいものであればあるほど…。
神の裁きを受けているような気がした。
たかが一介の影草ごときが、神にかなうはずがないのだ。
神を害することなど…出来るはずがないのだ!
…やらかした色ボケ姫は?
予定通り、イルティアルの王弟に嫁入りっス。
そりゃーもう問答無用っス。
王がマジ切れしたの初めて見たって、その日の護衛担当のヤツが言ってたっスよ。
猫なで声ですり寄ろうが、泣こうがわめこうが吠えようが一切無視して、向こうさんが迎えに来るまで部屋に監禁。
懇意にしてた女官達も、取り巻きの男達も全部面会禁止。当然嫁入り先に連れて行くのも禁止。
死んで逃げるような根性なんかハナっからないから、閉じ込めとくだけでいいって楽っちゃ楽っスね。
ああ、そうそう…取り巻きの男達、これで自由だーーーっ!って、大喜びだったそうっス。
あの姫さん…どんだけだったんスかね…。
主様はアレと出会ってすぐに、アレはダメだ、と分かったらしいぞ。
はー…。さすがはオレらのご主人様っスね。人を見る目が出来ている。
元部下は、どこかうっとりとしている。
本当に、主様方に隷属…と、言うより心酔しきってないか?これ…。
緩みきった顔で彼方を見ている。
と、不意に真面目な顔になり、こちらを向いた。
そうそう、王からお頭へ…っス。
懐から一通の手紙を引っ張り出した元部下は、その手紙の両面をおれに見せてから差し出した。
確かに王の書いた文字で、王の書名がしてある。封筒も、王専用のものだ。
受け取って、開封した。
中には…びっしりと書き込まれた便せんが…。
いまだかつて此処まで書き込みの入った命令書など、受け取ったことなどなかったのだが…。
…………。
………。
…………。
はあ。
ありがたいやら、これが一国の王か、と呆れるやら…。
かしこまった顔で待機している元部下に言った。
命令は受けよう。
ただ、おれは主様に身も心も全て捧げているので、そちらの条件を全て受け入れることは出来ない。それでも構わないと言うのなら、主様方に迷惑の掛からない程度であれば、こちらの情報も少しは流そう。
元部下の顔が、おかしなことになってた。
何スかその身も心も捧げてるって!
たいしたことじゃない。全身全霊を持って、主様にお仕えさせていただいているだけだ。
そうそう、主様より、直々に名を賜ったぞ。
元部下は、ものすごい形相で吠えた。
ずっりーっ!お頭ばっか、ずっりーっ!
ずるいずるいと連呼する元部下。
だが、お前がアレに耐えられたとは思えない。
あの時ーー。
ミヤ様の不可解な拘束に、一瞬で捕らわれたおれは本当に、身動き一つ、指1本はおろかまぶたを動かすことすら出来なかった。
この時点で諜報機関の長としての矜恃にヒビが入っていたが。
おれのちっぽけなプライドを完膚なきまでに叩き壊したのは主様だった。
辛うじて息をしているだけの、動かない肉の塊となって床に転がされ、年若い青年に足蹴にされる、という屈辱。この先、おそらくは尋問と言う名前の拷問が行われると予想し、精神を痛みを喜びとするモノに替えた。痛め付けられてるおっさんが喜びに悶えている、というのは拷問を実行してる側にとってはものすごくやる気を削がれるモノである。そうして油断を誘い、逃亡し、情報を持ち帰るというのは影草にとっては至極当然のことで。今までに幾度となく繰り返されてきたこと、今回もまた同じようにすれば良い、とのおれの思い上がりに主様は。
存在しないはずの禁書“秘色の安息”を手に、おれを壊した。
あの時おれを見ていたミヤ様の冷たい目より、主様の、ああ、そこに石コロが転がってんなー…という無関心な目が恐ろしかった。
少女と見紛うほど美しい顔に何の感慨も見せずに淡々と、おれの精神を、魂魄を、壊した。
あの時のおれは、バラバラに砕けた魂魄の詰まった肉の塊だった。
おれは禁書の恐ろしさを身を持って知った。
それよりも恐ろしかったのは、そんなことを平然と、顔色一つ変えずにやってのけた少年の存在だった。
おれが今まで受けてきた訓練や今までの経験など、塵芥に等しかった。
肉体の苦痛など、苦痛の内にも入らないのだ、と、おれはその時に知った。
かなわないーー。
冷たい微笑みを浮かべて観察している青年にも、禁書を完全に使いこなし、淡々と作業するように人を壊す少年にも。
彼らの外見が、見目麗しいものであればあるほど…。
神の裁きを受けているような気がした。
たかが一介の影草ごときが、神にかなうはずがないのだ。
神を害することなど…出来るはずがないのだ!
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