廃世界肝試し

紅凜

文字の大きさ
上 下
2 / 2
禍垂という怪異

遭遇

しおりを挟む
 辺りは真っ暗で明かりが無いとほとんど見えない。俺は桑折が持っていた懐中電灯を借りて桑折の後ろを歩いていく。結構歩いているが桑折は一体どこに向かってるんだ?
「これってどこに向かってるんですか?」
「出口がどこにあるか分からないからとりあえず上ってる」
「え、出口分かってるんじゃないんですか?」
「いや?なんもわかんないよ」
 助けてもらってる側が言うのもあれだが、こっちの方が心配になってきた。本当に大丈夫なのだろうか…。そんな考えを読んでか、桑折は俺の顔を見てドヤ顔で言う。
「私には第六感があるから」
 第六感…?運が良い的なことだろうか。
「ライトも無しに暗闇を歩けるのもそれのお陰なんですか?」
「それは別。私暗闇でも目が効くから」
「目が効く?」
「うん。こんな変な所でも信じるかな」
 そう言うと桑折はポケットから手のひらに収まるサイズの石の鳥居を取り出す。桑折がゆっくりと目を閉じると、鳥居が灰色の薄い光を纏い始めた。すると中から同じ光を纏った狐が出てきた。光が煙のようにゆっくり消えると狐は本当に生きているかのような仕草で桑折の傍に座った。
「私狐憑ききつねつきなんだ。お稲荷様の御加護みたいな感じ?」
 狐憑き。一時期怪談が好きで調べていたから知っているけど本当に存在していたのか。狐憑きは狐、お稲荷様に憑かれた人間で動作が狐っぽくなったりするというものだったはず。というかこの狐は実際に生きているのか?狐憑きと言っても本当に狐を召喚するイメージはないんたが…。そんなことを考えている間に、俺達は拓けた場所に出ていた。
「多分ここらへんにいると思うんだよね………いた。」
 桑折の目線の先を見ると一本の背の高い木があり、この世のものでは無いような雰囲気を纏っていた。
 何この呪われてるみたいな木。近づくのも嫌なんですけど。
「木の一番上、見てみて」
「上…?」
 上を向いて俺はハッとした。木の一番上に人のようなものが立っていてそこから禍々しいオーラを放っている。
「人が立ってる?」
「よく見て、あれは人でもないし立ってもいない。」
 桑折は先程とは明らかに違う険しい顔をして木の上を睨んでいる。表情の変わりやすい人だな、と余計な事を少し考えながら桑折に言われた通りに目を凝らして見てみる。
 じっとあいつを見ていると、俺はあることに気付いた。
「あいつ…木の上に立ってるんじゃなくて、ぶら下がってる?」
「気付いた?あいつ木の幹にぶら下がってて、下半身が無いの。」
 本当だ。しっかり見て初めて気づいた。
 下半身が無い事に気がつくと一気に気味が悪くなってくる。
「ここから帰るにはあいつを追い払わなきゃ。」
「追い払う?でもどうやって…」
「こうするの。」
そう言うと桑折は人の形をした紙を内ポケットから取り出す。初めて見た俺でもすぐ名前が分かった。払いごとの時に使われたりする神霊しんれい依り憑くよりつく依り代の一種、形代かたしろというやつだ。漫画や小説で名前を聞いたことはあったが実物を見たのは初めてだ。
俺が一人で興奮しているのをよそに桑折は形代を手のひらに乗せ、目を閉じる。桑折が祈祷のようなものを口にするとゆっくり形代が浮き始め、今度は神々しいと表現されるような薄い金色の光を纏い始める。
「これ始めるとあいつが何してくるか分からないからちょっと離れてて。あとすぐに走ったり出来るように準備して。」
桑折の言う通りに後ろに離れて様子を見る。俺は正直助かる事よりもこの非現実的な状況を楽しんでいた。
こんな意味のわからない状況二度とないんだから楽しむしかない。
「じゃあ、いくよ。」
桑折は力強く木の上に向かって指を突き出した。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

きらさぎ町

KZ
ホラー
ふと気がつくと知らないところにいて、近くにあった駅の名前は「きさらぎ駅」。 この駅のある「きさらぎ町」という不思議な場所では、繰り返すたびに何か大事なものが失くなっていく。自分が自分であるために必要なものが失われていく。 これは、そんな場所に迷い込んだ彼の物語だ……。

ゴーストバスター幽野怜

蜂峰 文助
ホラー
ゴーストバスターとは、霊を倒す者達を指す言葉である。 山奥の廃校舎に住む、おかしな男子高校生――幽野怜はゴーストバスターだった。 そんな彼の元に今日も依頼が舞い込む。 肝試しにて悪霊に取り憑かれた女性―― 悲しい呪いをかけられている同級生―― 一県全体を恐怖に陥れる、最凶の悪霊―― そして、その先に待ち受けているのは、十体の霊王! ゴーストバスターVS悪霊達 笑いあり、涙あり、怒りありの、壮絶な戦いが幕を開ける! 現代ホラーバトル、いざ開幕!! 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

意味がわかると怖い話

井見虎和
ホラー
意味がわかると怖い話 答えは下の方にあります。 あくまで私が考えた答えで、別の考え方があれば感想でどうぞ。

マーメイド・セレナーデ 暗黒童話

平坂 静音
ホラー
人魚の伝説の残る土地に育ったメリジュス。 母を亡くし父親のいない彼女は周囲から白い目で見られ、しかも醜い痣があり、幼馴染の少年にからかわれていた。 寂しい日々に、かすかな夢をつないでいた彼女もとに、待っていた人があらわれたように思えたが……。

花の檻

蒼琉璃
ホラー
東京で連続して起きる、通称『連続種死殺人事件』は人々を恐怖のどん底に落としていた。 それが明るみになったのは、桜井鳴海の死が白昼堂々渋谷のスクランブル交差点で公開処刑されたからだ。 唯一の身内を、心身とも殺された高階葵(たかしなあおい)による、異能復讐物語。 刑事鬼頭と犯罪心理学者佐伯との攻防の末にある、葵の未来とは………。 Illustrator がんそん様 Suico様 ※ホラーミステリー大賞作品。 ※グロテスク・スプラッター要素あり。 ※シリアス。 ※ホラーミステリー。 ※犯罪描写などがありますが、それらは悪として書いています。

チェリー・リーリー

如月 幽吏
ホラー
ヨーロッパを300年に渡り彷徨う人形。 それは北アジアの呪具職人により、1000も昔に誕生した。

カタルタッタ

菊池 十五
ホラー
「東の森の奥には人を殺す医者がいる」 人を殺す医者であるNは依頼さえあれば、どんな患者でも自然死に見せかける。 死は救済であり、それこそが正義であると考えているため人助けで人を殺しているつもりだが、 Nに依頼する人はろくでなしばかり。 クズ×クズ。

処理中です...