吸血鬼騎士のディアーボルス(悪魔)

結愛

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第十二章 ~神と人間と吸血鬼~

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睨み合いながら、ライラは思考を巡らす。

情報のピースが次々と繋がっていく。

竜田姫は、元々風神であった竜田山の神霊が秋の女神として神格を得た神だ。その容姿は鮮やかな緋色や黄金の秋の草木の錦を纏った妙齢の女性として描かれている。そして、竜田山は平城京の西に位置したため、五行説にのっとり、西は秋を指し示す。そのことで竜田姫は秋の女神となった。

(人の繋がりを意識した鎖·····なのか?)

鎖の武器が多いのは、至って温厚な性格である、神々を手駒にとっているからだろうか。それにしても、竜田姫は、温厚な性格であれど、上位のほうに入りかねない神だ。しかも、秋にしか姿をみせないという、人界に降りている時間が極めて短い。交渉などできるほどの時間はない。そして、世界を乱すようなことをするような神でもない。あっさり人を信じるとは思えない。

そこまで考えたところで、咲良がフッ、と笑う。

「あなたは意外と頭がきれるのですか。まさかここまでとは」

「へぇ。私の能力を知っているのか」

会話に持ち込まれた。

戦闘中に会話というのはなかなか呑気だが、実は意外とこれも戦術のうちだ。相手が会話可能である場合、相手が動揺するような話を持ちかけ、その隙をつく。手練であれば、なかなか引っかかることはないが、これは情報戦だ。
手練でも秘密をいわれたら、怒りが湧き上がったりして、多くの隙がうまれる。

「ええ。ある方に教えてもらいました」

心に壁をつくる。

「そのある方って?    よければ教えてもらえるかな」

高く、高く、壁をつくる。

「それは秘密です。ですが、あなたも察していると思いますよ」

心中を悟られないように、障壁を高く高くあげる。

(あー、あいつか。あとで覚えてやがれ)

感情を表に出すことなく心の中で呟く。

完全無欠な心理戦。

生憎様、ライラも政治を行っていたため、それなりに相手を誘導することはできる。

だが、今は相手がどういう話をだしてくるかがわからない。

じっと、五感を鋭利にし、すべてのことに対応できるようにする。

「あなたは――」

くる。

ライラは、少し天叢雲剣を握る力を強めた。

「千夜少佐のことが好きですか?」

・・・・・・。

シーン、と辺りのみならず脳内まで静けさが訪れる。

ノルとニルは目をパチクリとし、耳を疑っている。

先程までの熱は急激に冷め、時間だけが変わらず動く。

「はぁ?」

肺の中に詰めた息を吐き捨てると同時に素っ頓狂な声をあげ、ライラは力を抜く。

静かな空間に、再び音が戻る。

呆れたとでもいうように、天叢雲剣を視界から降ろし、咲良をみあげる。

「そんなわけないでしょう。あれ?    勘違いでもしてたんですか?   ざんねん。私はそんな簡単に堕ちませんよ?」

咲良はぎくり、と一歩引き、ライラの意味不明な、且つ、不気味にみえる笑みをまじまじとみる。

感情が戻ったのかと、一瞬思っただろうが、不気味な漢字変換によってその喜ばしい想像は塵の如く彼方へと消えた。

「そもそも。私と千夜が結ばれているのは”敵”としてのこと。それがどうやって恋などというものになる?」

デジャブった感覚をもちながら、ライラは無表情な顔で思ったままをいう。

「いや、それは禁断の恋という、神秘的なものではないのでしょうか」

気のせいなのか、僅かばかりに咲良は目を輝かせている。

その様子に、少し気を緩めそうになるが、踏みとどまる。今が戦闘中であることを忘れてはならない。

天叢雲劍を構えなおし、今もてる力をこめる。今までで一番本気の力で。

会話を終わらせようと、クイッ、と『空間操作』で武器を咲良のほうへと召喚する。

それを咲良は鎖で防ぎ、一気に間合いをつめて刀を振り下ろす。

それを紙一重で躱し、隙だらけのお腹へと、横薙ぎに天叢雲剣を振るう。

けれど、突然動いた鎖に防がれた。

片方の武器を使えば、もう片方は使えなくなるはずだ。

意識で動いているのだろうか。でも、そしたら位置が正確にわからない状態で扱うことになる。

なら、なぜ動けている。

(竜田姫ってとこかな)

自問自答を繰り返した結果。

「神の意思での攻撃とは······恐悦至極なものだな」

冗談を交え、竜田姫を具現化しているであろう鎖をぐっ、と押す。

鎖は押されるが、咲良が態勢をたてなおして、またこちらに剣戟を放ってくる。

鎖から離れ、剣戟を避ける。

鎖は近距離でも厄介なため、念のため距離をとる。

けれど、着地した瞬間に鎖が足をとった。

「なっ······!」

グイッと引っ張られ、バランスを崩す。

頭を打っては困るので、床に一旦手をつき、踏ん張るが、じりじりと引っ張られるままになる。

「蛇腹剣!!」

瞬時に天叢雲剣が蛇腹剣になり、鞭のようにしなる。

それを鎖に向かって放ち、まきつける。

天叢雲剣を引っ張り、自分も立てるようになる。ある程度のバランスがとれた。

「仕方ないかな」

鎖が解けそうにないので、最終手段にでる。

使いたくないが、それは咲良が望んでいたものだ。

「呼び醒めろ。ヴァンパイア」

覇気が溢れんばかりに膨れあがる。

五感も先程より鋭くなる。

さっきまで、一般吸血鬼としていた。それを完全に解放し、上位吸血鬼になっている。

「断ち切れ、天叢雲剣」

天叢雲剣が、鎖に強く巻き付く。

次の瞬間。

盛大な音をたてて、鎖は切れた。

後ろに跳躍し、少し距離をあけてから、間合いをつめる。

「竜田姫っ?!」

まさか断ち切られるとは思わなかったのか、咲良の顔は驚愕に染まる。

神をも断ち切る蛇腹剣は、宙を浮遊しているかのように動きまわる。

それを振りかざし、咲良を狙ってまっすぐに振り下ろす。

「――――······ッ!!」

咲良は、刀でなんとか防ごうとするが、むしろ逆効果だった。

天叢雲剣は刀に巻き付き、音をたてて刀を両断した。
「竜田姫っ!」

咲良がそう叫ぶと、竜田姫は呼応するかのように変化する。

鎖の先が尖り、素早くライラに襲いかかる。

ライラは、蠢く鎖を軽々避け、咲良の鳩尾に掌底をあてる。

それだけで、容易に華奢な咲良は後方に吹っ飛び、壁にあたって、戦闘不能になる。

吸血鬼の力を戻し、またいつもの通りになる。ただ違うというと、周りの視線だろう。

みんな口々に、あの咲良が負けた、など言っている。

とりあえず、勝負は勝った。

ここはまた人いっぱいになるだろう。

それを避けるために、もうでなければならない。

「ノル、ニル。咲良を連れて治療室に行こうか。あばらの二、三本折れてもしょうがない闘いだったから」

「そんなに激しかったんですか?」

ノルは、不思議そうに問いながら、咲良を抱える。

「まあね。一つ一つの攻撃が重かった。私に当たらなくても、ほかのやつらには当たると思うから、咲良は戦場でも問題ないはず」

生き残れる、とライラが太鼓判を押す。

ライラが評価するのは、実力者ばかりだ。しかし、咲良はそこまで地位はない。けれど、実力はもっている。なぜ昇格しないのかわからないが、慕われているようなので、問題ないだろう。

人間というものは力がなくとも、指揮を執る素質があれば大抵カバーできるものだ。

その素質さえあればだが。

「もう訓練所も空かないだろうからぶっつけになるね。明日は用事あるし」

暇な時間を探そうとするが、なかなかない。

ニルは少し考えたあと、ライラに提案する。

「主はもう練習できたようなので、私たちは明日行ってもよろしいですか?」

「二人だけで大丈夫?」

「問題ないので平気ですって。ライラ様は心配しすぎですよー。人間と揉め事はしませんから~」

ノルは咲良に気を配りながら、さっきの戦闘を忘れたかのようにふわふわとした雰囲気をつくる。

(周りに花とか咲いてそうだな)

意味不明なことを考えながら、ライラはわかった、と承諾する。

「私は咲良を運んだら部屋に戻るから、ある程度したら帰ってきてね」

「了解ですっ」

ノルは元気よく答える。

「·········いえ。主はもう戻ってください。咲良さんなら、私たちが医務室に運びますので」

ライラを気遣っているのか、ニルはそういってくれる。

その気遣いに甘えることにして、ライラは部屋に戻った。

「あー。疲れた」

部屋に入るなりベッドに寝転ぶ。

結んでいた髪を解き、深く息を吐く。

そして、戦っていた時のことを思い出す。

あのとき、竜田姫を断ち切った。

神を切ったのだ。あの鎖は竜田姫本人。紛れもなく神。神を殺せば罰せられる。これがこの世界では普通だろう。

「まさか、神からの罰に怯えることになるとはな」

苦笑を浮かべ、天井から視線を外す。

今のライラには、力がない。

むしろそのほうがいいが、今はその力があればいいな、と思ってしまう。元の力があれば、神からの罰を防ぐこともできるかもしれない。僅かばかりの希望をもってしまう。

「竜田姫平気かなぁ。会ったことあるけど治癒できるのかな」

罰がくだるのはごめんだ。

目的を果たすまでは、死ぬことはできない。果たせば、この世界にとって利益になるだろう。それを望んでいる種族はおおい。その願いを掬わねばならない。

「この世界に平和が訪れるまで、私は死ねないんだ」

グッと拳をつくり、身体を丸める。

決意を固め、ライラはこれからのことについて考えた。
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