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第三章

第九話〜不思議な館〜

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   扉を開けると、通路があった。壁際には、定点的に家具が置かれている。不気味にも、床には無数の穴が規則的にあった。

   家具の上を指でなぞると、ほんの少しホコリがつく。これだけなら、まだ人がいる可能性が高い。

   恐る恐る、通路を通ってみる。

   「――っ!」

   一歩進んだところで、後ろに下がる。

   ガシャン、と盛大な音を立てたのは、無数の針がついた石だった。罠なわけだ。穴に吸い込まれるようにはまっている。しばらく待つとその石は元の位置に戻る。かなり凝っているようだ。

   まるでアトラクションのようで、ワクワクする。

   少し距離をとると、クラウチングスタートのような姿勢をとった。

   靴底が床とすれ違い、ジャリっという音を鳴らす。足に力を込め、一気に駆けた。

   少しでもスピードを落とせば潰される。後ろから迫りくる音から逃げるように通路を突っ切り、扉にタックルをする。丁度押して開ける扉だったので、そのまま飛び込んで数回前転をしてから立ち上がり、素早く短刀を抜いた。

   罠の気配はない。人の気配もない。ただの部屋のようだ。

   踵で地面を蹴り、響き具合を聞く。よく響いた。部屋は狭いようだ。扉を探すべく、壁際に移動する。念の為、複数だと認識させるように、小刻みに足音を立てた。

   頭にインプットされている地図を思い浮かべ、扉を探す。

   「見つけた」

   壁を辿っていくと鈍く光るドアノブがその存在を知らせた。

   手に黒の手袋をはめ、ドアノブをまわす。少し開けて覗けば、なにか、キラリと光る糸があった。よく見ようと顔を近づけると、事切れたようにたるみ、奥の方でなにか動く音がする。

   気になることがあったが、扉を開いて、新たな部屋に入る。空気が冷たい。独特の雰囲気だ。

   中央付近に行けば、なにか上で、動くような音がする。二足歩行の、動くものが、気配を潜ませるような音だ。

   なんの前触れもなく、レナは短刀を突き上げた。途端に、天井は崩壊し、崩落する。崩れていく瓦礫のなかで、それに紛れた何かが接近を図った。その動きに合わせ、レナは短刀を振るう。だが斬ったのは空だった。

   また後ろに、気配がする。迷いなく短刀を振るうが、手応えは人間のものではなかった。

   「ダミー?!」

   ショッピングモールにあるような人形だ。周りには、絶えず気配が死角で起こり、その度に得物を振るっても、そこに人の姿はない。

   (全部ダミーか気配か。なら、そろそろ攻撃がくる······!)

   人形と気配とはまた違った気配を探す。差はほとんどないが、目を閉じて肌で気配を感じる。わずかな、二つに当てはまらないもの。

   視覚で捉え、捕らえ、逃さず喰らう。

   ほんの少し、波紋のように伝わった空気に向かって突き刺す。その手応えはあった。そのまま、短刀を深く突き刺すように、背負投げの要領で地面に叩きつける。短刀を、次は心臓に刺し、くるりと鍵を回すかのように捻る。

   「あ、くまめ。いずれ、殺、して、や、る」

   途切れ途切れに呟いた声は、この暗殺者からだ。もう息絶えている。最後の言葉にしてはなかなか物騒だ。けれど、レナはそれに答えるかのように呟いた。

   「悪魔、か。殺されることを願おうか」

   不敵な笑みを浮かべる。踵を返せば、その表情は、冷徹になっていた。
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