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2章 キリコ生活は地獄
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キリコは空気ぐらいの存在だったのに。
気にかけてもらうこともなくて、思い出すのは用事を押しつけるときと、笑い話のネタにしたいとき。
キリコのことなんて誰も見てないはずなのに、なんだか視線を感じるのは気のせいだろうか。
誰かに何かをされるんじゃないかって、一日おびえてた。
もうひとりの日直は夕凪風太だったが、女子の空気の変化に気づいていたのかいないのか、霧島桐子に用事を押しつけるというノリに便乗してこなかった。
音無さんがケガしているから、あたしが手伝うと言ったら、自分一人でも大丈夫だからと、逆に気を遣われた。というより、今はまだ女子のいざこざに関わりたくないってところか。
日誌を職員室に届ける最後の仕事もやるというので、これさいわいと、あたしは誰かにからまれる前にさっさと帰ることにした。
気配を消さなきゃ。誰かと視線が合うのが怖くてうつむいたまま下駄箱へ向かう。
こんなこと初めてだ。いつも誰かと一緒にいないと友達がいないように思われて落ち着かなかったのに。
逃げるように昇降口へやってきた。音無花音の靴箱に手を伸ばしかけて、そうだ違ったと、霧島桐子の靴に手をかけたときだった。
「キリコ」
威圧的な声で呼びかけられた。
視界に人影が入り込んでいた。呼ばれ慣れない名前でも、自分が呼ばれているのだとすぐに気がついた。
振り向くとそこにいたのはうちのクラスの女子ではなかった。
上履きの色を見るとみんな三年生。一つ上の学年だ。あたしは部活もやってないし、他の学年との交流もない。睨まれるほど派手なこともしていないから、三年生のことはほとんど知らなかった。
だがそのうちのひとりの顔は知っていた。全校集会で表彰されたこともあるひと。たしか、陸上部。
そんな三年女子四人がなんの用だ。しかも、キリコと呼び捨てでずいぶんとなれなれしい。
「どうなの。まったく報告に来ないけど」
いきなり話を切り出す。向こうはキリコの中身が入れ替わっていることを知らないものだから、何の前置きもなく詰め寄る。けれどもこちらとしては話がまったく見えない。
キリコと三年生が関わり合ってることも知らなかったが、この雰囲気からすると、こちらとの関係性もどうやら対等ではなさそう。
マジでキリコは学校での居場所なんてないじゃん。
友達もいなくて、助けてくれる人もいなくて、なじられるばかり。いつか誰かが手を差し伸べてくれると期待でもしているのかしら。バカみたい。
腹は立っても、さすがに先輩たちに囲まれるとちょっぴり怖じ気づく。
「それなりに……」
あいまいに答えると「は?」とあきれられた。
「いつまで待たせんだよ」
「さっさとしろよ」
一方的に罵倒されてちぢこまっていると、ひとりがニタリと笑った。
「なんなら、手を貸してやろうか?」
どういう意味だろう。
くすくすと周りから笑いが起こり、親切心でいってるようには聞こえなかった。裏の裏まで考えてみても、その言葉どおりの意味とは思えない。
はい、と言ったらいきなりボコられるとかじゃないよね。
陸上部の先輩が回り込んで、下駄箱に手をつき、行く手をはばんでいる。
「なんとか言えよ」
「だ、大丈夫です」
なんとかそれだけ答える。
とりあえずは納得しているようだった。
「逃げんなよ?」
そう言い捨てると、他の生徒がやってくる前に四人は足早に去って行った。
気にかけてもらうこともなくて、思い出すのは用事を押しつけるときと、笑い話のネタにしたいとき。
キリコのことなんて誰も見てないはずなのに、なんだか視線を感じるのは気のせいだろうか。
誰かに何かをされるんじゃないかって、一日おびえてた。
もうひとりの日直は夕凪風太だったが、女子の空気の変化に気づいていたのかいないのか、霧島桐子に用事を押しつけるというノリに便乗してこなかった。
音無さんがケガしているから、あたしが手伝うと言ったら、自分一人でも大丈夫だからと、逆に気を遣われた。というより、今はまだ女子のいざこざに関わりたくないってところか。
日誌を職員室に届ける最後の仕事もやるというので、これさいわいと、あたしは誰かにからまれる前にさっさと帰ることにした。
気配を消さなきゃ。誰かと視線が合うのが怖くてうつむいたまま下駄箱へ向かう。
こんなこと初めてだ。いつも誰かと一緒にいないと友達がいないように思われて落ち着かなかったのに。
逃げるように昇降口へやってきた。音無花音の靴箱に手を伸ばしかけて、そうだ違ったと、霧島桐子の靴に手をかけたときだった。
「キリコ」
威圧的な声で呼びかけられた。
視界に人影が入り込んでいた。呼ばれ慣れない名前でも、自分が呼ばれているのだとすぐに気がついた。
振り向くとそこにいたのはうちのクラスの女子ではなかった。
上履きの色を見るとみんな三年生。一つ上の学年だ。あたしは部活もやってないし、他の学年との交流もない。睨まれるほど派手なこともしていないから、三年生のことはほとんど知らなかった。
だがそのうちのひとりの顔は知っていた。全校集会で表彰されたこともあるひと。たしか、陸上部。
そんな三年女子四人がなんの用だ。しかも、キリコと呼び捨てでずいぶんとなれなれしい。
「どうなの。まったく報告に来ないけど」
いきなり話を切り出す。向こうはキリコの中身が入れ替わっていることを知らないものだから、何の前置きもなく詰め寄る。けれどもこちらとしては話がまったく見えない。
キリコと三年生が関わり合ってることも知らなかったが、この雰囲気からすると、こちらとの関係性もどうやら対等ではなさそう。
マジでキリコは学校での居場所なんてないじゃん。
友達もいなくて、助けてくれる人もいなくて、なじられるばかり。いつか誰かが手を差し伸べてくれると期待でもしているのかしら。バカみたい。
腹は立っても、さすがに先輩たちに囲まれるとちょっぴり怖じ気づく。
「それなりに……」
あいまいに答えると「は?」とあきれられた。
「いつまで待たせんだよ」
「さっさとしろよ」
一方的に罵倒されてちぢこまっていると、ひとりがニタリと笑った。
「なんなら、手を貸してやろうか?」
どういう意味だろう。
くすくすと周りから笑いが起こり、親切心でいってるようには聞こえなかった。裏の裏まで考えてみても、その言葉どおりの意味とは思えない。
はい、と言ったらいきなりボコられるとかじゃないよね。
陸上部の先輩が回り込んで、下駄箱に手をつき、行く手をはばんでいる。
「なんとか言えよ」
「だ、大丈夫です」
なんとかそれだけ答える。
とりあえずは納得しているようだった。
「逃げんなよ?」
そう言い捨てると、他の生徒がやってくる前に四人は足早に去って行った。
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