6分の1ヒーロー!

水山 郡

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第10話

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「‥‥とりあえず、僕の指示に従ってくれればいいから」
「はあ?何でお前の命令なんか聞かなくちゃいけねえんだよ」
 
納得いかない、と不満顔の黒瀬くん。
 
「じゃあなに?どうすれば切り抜けられるか、君にわかるの?」
「切り抜けるもなにも、あいつ倒せば終わる話だろ」
「何でも猪突猛進すればいいってものじゃないでしょ。もっと頭使ったら?」
「‥‥何でお前はいちいち癪に触る言い方しかできねえんだよ」
 
二人の間に見える、バチバチ火花。
もしやとは思ったけど、これ‥‥。
 
(最悪の組み合わせでは‥‥?)
 
「ま、まあまあ、ちょっとおちつ」
「大体気持ち悪いんだよ。女みたいな顔しやがって」     
 
黒瀬くんがそう言った瞬間。
いきなり、ガクンと周りの温度が下がった。

と同時に、九条くんの足元からピキピキと氷が広がっていく。
 
「‥‥僕が‥‥何だって‥‥?」
 
怒りを含んだ、低い声。
 
(こっ、これは‥‥っ)
 
や、やばい。
黒瀬くん、九条くんの地雷踏んじゃったみたい‥‥!
  
「ちょっ、黒瀬くん!謝って!」
「はあ!?絶対やだ」
「今ケンカしてる場合じゃないでしょ!」
 
ああ、もう!
もっとやばい敵が目の前にいるってのに!
 
(こんなことしてたら、どっか行っちゃう!)
 
覚悟を決めると、私はバッと先生の前に飛び出した。
 
「おい!なにやって‥」
「二人がやらないなら僕がやる!」
 
震える両手を必死に構える。

大丈夫。
シャドウだか何だか知らないけど、相手は同じ人。
ドラゴンでも悪魔でも何でもないんだから‥‥!
 
「はあっ!」

大量の水の粒が、先生目がけ弾丸のように一直線に飛んでいく。
 
(‥‥私のありったけの魔力を、スピードに変換させて水に込める)
 
ただの水だって、加速がかかれば鉄の塊と同じくらいの破壊力を持てるんだから!
 
食らえ!
朔間の連発弾攻げ‥

 
ピチャン、ピチャン‥‥
 
 
ん?
何だかずいぶん可愛い音が‥‥
 

(ってえええええ!?)

私の攻撃、全然効いてない!
まさか今のが当たった音!?
しょ、しょぼすぎるっ
 
 
「‥‥で、誰が何をやるんだっけ?」
 
ぐさっ

「ふっ‥‥ダサすぎんだろ」

ぐさぐさっ
 
穴があったら入りたい‥‥。
 
で、でも元はといえば!
君たちがケンカしてたせいじゃんか!
 
(‥‥なんて、言えませんけど)
 
「結構いいスピードだと思ったんだけどなあ‥‥」
「お前は速度に全振りしすぎなんだよ。だから強度がお粗末になる」
 
「だから」と言いながら、黒瀬くん、なぜか九条くんに目くばせ。
 
「今の、もう一回やって」
「は?」
 
思わず九条くんにそう聞き返してから、あわてて「だって、」とつなげる。
 
「強度がないからダメだって話じゃ‥‥」
「だから『つける』んだよ」
 
つける?
ますます何を言ってるんだか‥‥。
 
「とりあえず、君は打ち続けてくれればいい」
「は、はあ‥‥」
 
言われるがまま、また手を構える。
 
「‥‥はっ!」
 
ビュン、と飛び出す水の粒。
 
(でも、これじゃさっきと同じ‥‥)
 

ガンッ

 
(‥‥へっ?)
 

ガンッ、ガンッ、ガンッ
 
 
『ぐ、ぐああぁっ』
 
 
さっきとは違う鈍い音。
うそ、ちゃんと効いてる!
 
(でもどうして?)
 
自分の手から飛び出す水の玉を、じっと観察してみる。
すると‥‥。
 
(‥‥あっ)
 
当たる直前、その一瞬で、水が氷に変わってるんだ。
 
「だから言ったでしょ。強度を『つける』って」
 
私の隣で、右手のひらを相手に向けた九条くんがそう言う。
 
(そうか、九条くんの力で‥‥)
 
「‥‥でも、おかしい」
「え?」
「こっちが攻撃しても、何も反撃がない。戦う気がないのか‥‥?」


言われてみれば、と思った。
最初、私が近づいた時以来、魔法は一度も打ってこない。
さっき隠れた時も探すそぶりはなかったし。
あっちの目的が私たちを倒すことなら、きっともうとっくにやられてる。
 
(今だって、受けるだけで何もしてこない)
 
「じゃあ何か、別の目的が‥」
 
「え~っ、ユーリの話と違うじゃん」
 
先生の背後から聞こえた、鈴が鳴るような可愛らしい声。
 
「‥‥朔間くん」
 
九条くんに合わせて攻撃を止め、後ろに下がる。
 
「あっ、怖がらなくていいよ?別にキミたちを傷つけるつもりはないから」
 
そう言いながら、姿を見せたのは‥‥。
 

私と同じくらいの背丈の女の子。
黒いワンピースに、片耳に着けた青い月のイヤリングがとってもオシャレ。
 
「私はハルセ。みんなにはハルセって呼ばれてるけど、ハルちゃんって呼んでくれても‥」
 
その時、ガサッという音と共に、一つの影が女の子の背後に飛びかかった。
 
「‥‥やだなあ、自己紹介は最後まで聞くのが礼儀でしょ」
 
女の子がそう言った瞬間、何かが影の動きをピタリと止める。
 

「ぐっ‥‥」
 
(く、黒瀬くん!?)
 
そこにいたのは、手にナイフのようなものを握りしめた黒瀬くんだった。
その手と足は氷でガッチリと固められ、身動きが取れなくなっている。
 
「何が礼儀だ、ふざけた真似しやがって‥‥!」
「‥‥せっかく気、つかってあげたのに。そんなに痛い思いしたいの?」
 
わざとらしく首を傾げ、黒瀬くんの顎をくいっと持ち上げる女の子。
 
(‥‥よくわかんないけど)
 
味方じゃないことは、確かみたいだ。
 
 
「あ、そっちのお2人さんさ、そっから動かない方が身のためだよ」
 
人差し指を黒瀬くんに向けると、にやっと笑う。
 
「この子の、ね?」
 
(ひ、卑怯!)

どっちにしたって、黒瀬くんを助ける気なんてないくせに‥‥!
 
 
「さーて、どうし‥」
 
 

シュルシュルシュルッッ
 
 

その言葉をさえぎって、どこからともなく伸びてきた二本のつるが、女の子の腕に巻きついた。
 
「えっ?」
「水都!氷彗!」
 
(この声は‥‥!)
 
「風音!」
 
それに、千歳くんに如月くんも!
良かった、無事だったんだ!

あれ、じゃあ今のつるって‥‥。
 
「黒瀬から離れろ」
 
じっと険しい目つきで女の子を見据える如月くん。
 
「え~っ。‥‥やだって言ったら?」
「‥‥力づくで離す」
 
如月くんが、バッと右腕を広げた瞬間。
 
 

ブオンッッ
 
 

その動きに合わせるように、つるが女の子ごと右に大きくうねった。
反動で強い風が起こり、ブワッと砂ぼこりが舞う。
 
(す、すごい威力‥‥)
 
これが如月くんのチカラ、『樹』‥‥。
 
 
「‥‥もー、レディ相手なんだから、もっと優しくしてくれなきゃ」
 
パチン、と女の子が指を鳴らすと。
 
 

ボオッッ
 
 

真っ赤な炎が、一気につるを根元から覆い尽くした。
 
「‥‥っ」
 
「流石にさあ、女の子1人に男5人は卑怯じゃない?てことで、あとはその子に遊んでもらって~」
「あっ、おい!」
 
ひらひらと手を振ると、女の子はびゅんと姿を消した。
 
(今、目が合ったような‥‥。気のせいかな)
 
 

『違う‥チガウ‥‥ウアアアアアッ』
 

 
なんて考えを巡らせる暇もなく、それまで大人しかった先生が、突如雄叫びをあげて襲いかかってきた。
 
「止まれ!」
 
とっさに、如月くんが動きを封じる。
 
「雷夢!」
「任せてっ」
 
風音の風で宙に浮かんだ千歳くんが、バッと先生に狙いを定める。
 
 

ピシャーーンッッ
 
 

(よし!当たっ‥)
 
 

『ズルイイ‥‥ズルイイイイ!』
 


そんな!
今のでもダメなんて‥‥!
 
「多分、当たってないんだ」
 
私のとなりで、風音がつぶやいた。
 
「でも、雷はちゃんと落ちて‥‥」
「よく見て、水都」
 
そう言われ、つるから抜け出そうともがく先生をじっと見てみる。
 
(あっ‥‥!)
 
先生の体に、ぼんやりと見える膜のようなもの。
あれってもしかして。
 
「魔法の、バリア?」
「そう。多分、自分の体を魔力で覆ってるんだ。アレを壊すには、体全体に魔力を流さないと‥‥」
 
魔力を、体全体に流す‥‥。
 
(‥‥あっ!)
 
ふと、昨日読んだ参考書の一節が頭に浮かんだ。

成功する保証はない、けど。
 
(どうせ為す術なしなんだ。ちょっとでも可能性があるなら、かけるしかない!)
 

「風音。僕のこと、あの先生の真上まで飛ばして」
「えっ、でも‥‥」
「お願い。試してみたいことがあるんだ」
 
一瞬戸惑いながらも、そんな私に風音はふっと笑みをこぼした。
 
「‥‥わかった、任せて。」
「ありがとう。風音」
 
私は振り返ると、そばに立つもう1人のクラスメイトに声をかける。
 
「千歳くん。僕が合図したら、先生に千歳くんの魔法を打って欲しい。1番強いやつ」
「‥‥失礼だな」
 
そう言って、千歳くんは一歩前へ進み出た。
 
「僕はいつだって1番だよ」
「‥‥ありがとう」
 
(あとは‥‥)
 
私は、以前として先生の動きを封じ続ける如月くんに向かって叫んだ。
 
「如月く‥」
「問題ない」
 
短く言葉を返し、肩越しに微笑む。
 
「お前に任せる、朔間」
 
(ありがとう、如月くん)
 
 
みんな、私を信じてくれてる。
私は先生をまっすぐ見据えると、ぐっと両手を握った。
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