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第5話
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「今から1人1つ、エレメントを作ってもらう。ま、初歩的なことだが基本こそ何ちゃらだ。手を抜かないようにーーってか外暑っ」
(やっぱこの先生適当だ‥‥)
『エレメント』
簡単にいえば、魔法を目に見える形で固体化したもの。
魔力がギュッと濃縮されて出来た、ちょっと大きいビー玉みたいな感じ。
使い道は特にないけど、魔法のコントロールの練習としては基本中の基本。
ということで、大体の魔法使いは小学校低学年で完璧マスターしているわけなのですが‥‥。
何を隠そうこの朔間水都。
12歳で、初・体・験です。
(でも、意外といきなりできちゃったりして)
なんて、ちょっとわくわくしながら教科書通りに両手を構える。
(魔力を一点に集める感じで‥‥)
空中にぽっと水の粒が生まれ、ゆっくり、少しずつ大きくなっていく。
(よし、いい感じ!)
あとはこのまま結晶化すれば‥‥。
いける!
そう思って、つい力を入れた瞬間。
バシャッ
「あっ‥‥!」
「なに、エレメントも作れないの?」
振り向くとそこには、服をぐっしょり濡らし、髪の毛からぽたぽたと水滴を垂らす九条くんが。
起こったことを一瞬で理解し、サーッと背筋が凍る。
「ご、ごめ」
「どうした九条、びしょ濡れだな」
最悪のタイミング。
ちょうど近くを通りがかった先生が、異変に気付いて近づいてきた。
怒られる覚悟で、私は下を向く。
「‥‥大丈夫です。替えがあるので」
「え?」
九条くんはそれだけ言うと、うっすら水色に色づいたエレメントを先生に手渡した。
太陽の光に反射して、水晶みたいにきらきら光ってる。
「じゃ、今日はこの辺にしとくか。全員手洗ってから教室戻れー」
先生の声で、散り散りになっていたみんなが一斉に小屋の中に入っていく。
その光景をぼーっと眺めそうになってから、私は我に返った。
(ダメ、ちゃんと謝らなきゃ)
自分を一喝し、再び九条くんに向き直る。
「あの、九条くん。さっきは」
『ごめん』
そう口にするより先に、九条くんは私の隣をすり抜けて行ってしまった。
でも、そのすれ違い様。
はっきりと、私の耳元で。
「今諦めた方が、傷つかなくて済むんじゃない?」
その瞬間、ピタッと時間が止まったみたいに周りの音が耳に入らなくなった。
多分、今の九条くんの言葉は、
(‥‥図星だ)
此処にいる人はみんな、今まで必死に努力してきた人たち。
それに対して私は、ろくに自分のチカラと向き合うこともしなかった人間。
痛いのも、苦しいのも嫌い。
誰かを守るヒーローになんて、なれっこなくて。
‥‥でも。
(それでも、私はーー)
「‥‥と、水都!」
「え?」
名前を呼ぶ声にハッとすると、風音が心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
「大丈夫?遠目からちょっと見えたんだけど‥‥」
その瞬間、何かがぷつりと途切れ、込み上げていた熱いものがあふれ出した。
「えっ、水都!?」
慌てながらも、風音は背中をさすってくれる。
(泣くような、ことじゃないのに‥‥っ)
勝手に失敗して、勝手に泣いて。
今の私、すごくかっこ悪い。
そう思ったら余計に止まらなくなって、私は思わず風音から顔を背けた。
「‥‥ね、水都。ちょっと両手かして」
「え?」
突然そう言って、「ほら」と両手を差し出す。
訳もわからないまま言われた通りに両手を重ねると、風音は私の手をぎゅっと握り返した。
小さいけど、しっかりとした男の子の手。
思わずドキッと心臓が鳴る。
(いやいやいや、私なに考えて‥‥)
「いい?ちゃんと捕まっててね」
「へ?」
風音がそう言うと同時に、足に触れていた固い感触が消えた。
加えて、ジェットコースターに乗ったときみたいな、お腹の辺りがふわっとする感覚。
下を見ると、どんどん遠ざかっていく地面‥‥。
「えええええっ!?う、うう浮いてる!!」
「あははっ、ナイスリアクショーン」
慌てふためく私を見て、ケラケラと笑い声をあげる風音。
小屋の屋根と同じくらいの高さまで来たところで、上昇はピタリと止まった。
でも、浮いた身体はふわふわと揺れている。
「ごめんね、まだあんまり安定してなくて」
周りを見渡しながら、そう苦笑をこぼす。
「すごい、飛んでるみたい‥‥!」
「でしょ?ネバーランドも夢じゃない!‥‥なんちゃって」
いたずらっぽく笑うと、私の手を引いてくるりと回った。
「風魔法ってさ、火みたいな攻撃力もないし、氷みたいな防御力もないから、戦いには適してないんだって」
実際、風魔法を使うサルヴァートなんてあんまり聞かないしね、と風音は少し寂しそうに笑った。
「‥‥でもね、こういうことができちゃうのは、風魔法だけの特権」
にっと笑うと、「だからさ、水都」と、私の目をじっと見つめたまま手を強く握った。
「みんなと同じことができなくても、それはダメなことなんかじゃない。水都には水都にしかできないことが、きっとあるから」
「‥‥うん。ありがとう」
(かっこいいな。風音は)
なんだか心がじーんとして、また浮かんだ涙をこっそりぬぐう。
風音のおかげで、目が覚めた。
言い訳はもうやめる。
せっかく神様がくれたんだもん。
私もいつか、自分の力に誇りを持てるようになりたい。
だから今までの分も、もっともっと頑張るんだ。
(‥‥待っててね、尚)
(やっぱこの先生適当だ‥‥)
『エレメント』
簡単にいえば、魔法を目に見える形で固体化したもの。
魔力がギュッと濃縮されて出来た、ちょっと大きいビー玉みたいな感じ。
使い道は特にないけど、魔法のコントロールの練習としては基本中の基本。
ということで、大体の魔法使いは小学校低学年で完璧マスターしているわけなのですが‥‥。
何を隠そうこの朔間水都。
12歳で、初・体・験です。
(でも、意外といきなりできちゃったりして)
なんて、ちょっとわくわくしながら教科書通りに両手を構える。
(魔力を一点に集める感じで‥‥)
空中にぽっと水の粒が生まれ、ゆっくり、少しずつ大きくなっていく。
(よし、いい感じ!)
あとはこのまま結晶化すれば‥‥。
いける!
そう思って、つい力を入れた瞬間。
バシャッ
「あっ‥‥!」
「なに、エレメントも作れないの?」
振り向くとそこには、服をぐっしょり濡らし、髪の毛からぽたぽたと水滴を垂らす九条くんが。
起こったことを一瞬で理解し、サーッと背筋が凍る。
「ご、ごめ」
「どうした九条、びしょ濡れだな」
最悪のタイミング。
ちょうど近くを通りがかった先生が、異変に気付いて近づいてきた。
怒られる覚悟で、私は下を向く。
「‥‥大丈夫です。替えがあるので」
「え?」
九条くんはそれだけ言うと、うっすら水色に色づいたエレメントを先生に手渡した。
太陽の光に反射して、水晶みたいにきらきら光ってる。
「じゃ、今日はこの辺にしとくか。全員手洗ってから教室戻れー」
先生の声で、散り散りになっていたみんなが一斉に小屋の中に入っていく。
その光景をぼーっと眺めそうになってから、私は我に返った。
(ダメ、ちゃんと謝らなきゃ)
自分を一喝し、再び九条くんに向き直る。
「あの、九条くん。さっきは」
『ごめん』
そう口にするより先に、九条くんは私の隣をすり抜けて行ってしまった。
でも、そのすれ違い様。
はっきりと、私の耳元で。
「今諦めた方が、傷つかなくて済むんじゃない?」
その瞬間、ピタッと時間が止まったみたいに周りの音が耳に入らなくなった。
多分、今の九条くんの言葉は、
(‥‥図星だ)
此処にいる人はみんな、今まで必死に努力してきた人たち。
それに対して私は、ろくに自分のチカラと向き合うこともしなかった人間。
痛いのも、苦しいのも嫌い。
誰かを守るヒーローになんて、なれっこなくて。
‥‥でも。
(それでも、私はーー)
「‥‥と、水都!」
「え?」
名前を呼ぶ声にハッとすると、風音が心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
「大丈夫?遠目からちょっと見えたんだけど‥‥」
その瞬間、何かがぷつりと途切れ、込み上げていた熱いものがあふれ出した。
「えっ、水都!?」
慌てながらも、風音は背中をさすってくれる。
(泣くような、ことじゃないのに‥‥っ)
勝手に失敗して、勝手に泣いて。
今の私、すごくかっこ悪い。
そう思ったら余計に止まらなくなって、私は思わず風音から顔を背けた。
「‥‥ね、水都。ちょっと両手かして」
「え?」
突然そう言って、「ほら」と両手を差し出す。
訳もわからないまま言われた通りに両手を重ねると、風音は私の手をぎゅっと握り返した。
小さいけど、しっかりとした男の子の手。
思わずドキッと心臓が鳴る。
(いやいやいや、私なに考えて‥‥)
「いい?ちゃんと捕まっててね」
「へ?」
風音がそう言うと同時に、足に触れていた固い感触が消えた。
加えて、ジェットコースターに乗ったときみたいな、お腹の辺りがふわっとする感覚。
下を見ると、どんどん遠ざかっていく地面‥‥。
「えええええっ!?う、うう浮いてる!!」
「あははっ、ナイスリアクショーン」
慌てふためく私を見て、ケラケラと笑い声をあげる風音。
小屋の屋根と同じくらいの高さまで来たところで、上昇はピタリと止まった。
でも、浮いた身体はふわふわと揺れている。
「ごめんね、まだあんまり安定してなくて」
周りを見渡しながら、そう苦笑をこぼす。
「すごい、飛んでるみたい‥‥!」
「でしょ?ネバーランドも夢じゃない!‥‥なんちゃって」
いたずらっぽく笑うと、私の手を引いてくるりと回った。
「風魔法ってさ、火みたいな攻撃力もないし、氷みたいな防御力もないから、戦いには適してないんだって」
実際、風魔法を使うサルヴァートなんてあんまり聞かないしね、と風音は少し寂しそうに笑った。
「‥‥でもね、こういうことができちゃうのは、風魔法だけの特権」
にっと笑うと、「だからさ、水都」と、私の目をじっと見つめたまま手を強く握った。
「みんなと同じことができなくても、それはダメなことなんかじゃない。水都には水都にしかできないことが、きっとあるから」
「‥‥うん。ありがとう」
(かっこいいな。風音は)
なんだか心がじーんとして、また浮かんだ涙をこっそりぬぐう。
風音のおかげで、目が覚めた。
言い訳はもうやめる。
せっかく神様がくれたんだもん。
私もいつか、自分の力に誇りを持てるようになりたい。
だから今までの分も、もっともっと頑張るんだ。
(‥‥待っててね、尚)
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