コーデリア魔法研究所

tiroro

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10.術式開発課への訪問

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 ようやく体が動くようになって、私は久しぶりに研究所に出勤した。
 事務所に入ると、数日来なかっただけなのになんだか懐かしく感じてしまう。

「ミアさん、元気になられたんですね。良かった……」

「ご心配お掛けしました」

 ナターシャさん、今日も水色の髪が綺麗だな。
 さてと、事務仕事やらなきゃ。
 休んでる間に結構溜まってんじゃないの?
 そう思ってレタートレーを見ると、昨日の分しか置いてなかった。
 どういうこと? トレーにギチギチに詰まってるのを想像してたのに。誰かが私の代わりにやっておいてくれたのかな?
 まぁいいか。仕事が溜まっていないのはいいことだ。

「病み上がりなんだから、無理しちゃ駄目よ」

 ナターシャさんが気遣ってくれる。元からだけど優しいよね、ナターシャさん。
 病み上がりっていうか、魔力切れて寝込んでただけなんですけどね。
 休みすぎて、スカートが少しキツくなったような気がするけど、それについては今日からダイエットするから大丈夫。
 そういえば、フィオルさんとオーウェンさんの姿が見あたらない。会議でもしてるのかな?
 とりあえず、昨日の分の事務処理を進めておこう。

 報告書の写しを作成していると、机の上にバームクーヘンを置かれた。

「ミア、オーウェンを助けてくれてありがとうな」

 リカルドさんの差し入れだ。せっかくダイエットの決意したところだったのに……ありがとうございます!

「バームクーヘン好きなのか?」

「この間、依頼者さんにもらって好きになりました」

「うちの娘も大好物なんだよ」

 リカルドさん、お子さんいるんだ。お父さんなんだね。
 孤児院にはアンナさんおかあさんはいたけどお父さんはいなかったからなぁ。
 お父さんっていたらあんな感じなんだ。
 ちょっとだけ、リカルドさんのお子さんが羨ましいな。

「ミア、出てきて大丈夫なのか?」

「フィオルさん、お久しぶりです! オーウェンさんも!」

「おう、久しぶりだな! 体調は大丈夫か?
 今回はミアのおかげで命拾いしたぜ! 感謝してもしきれねえよ!」

 オーウェンさんも元気になってよかった!
 呪いの件からなんか暗い感じになっちゃってたけど、ようやくいつもの日常が帰ってきた感じ。

「ミア、真面目な話、お前に救われたこの命だ。
 今後お前に何か災いが降り注いだとき、俺は全力でお前の盾になることを誓おう」

 オーウェンさんのお礼が重い。

「そんなのいいですって! 私のことよりも、ご家族がいるんですから、そっちを大切にしてあげてください!」

「ほら、俺が言った通りだったろ?」

「ああ……まぁ、困ってることがあったら助けてやるってことだ」

「今は特にないです!」

 仕事で何か困ってることがあったら言おうかなって思ったけど、今日は楽チンなので困ることなんて何もないんだよね。

「そうだ、ミア。術式開発課のエリオット課長覚えてるか?」

「はい、配属先を決める会議でお会いした黒髪で髭メガネの人ですよね」

「髭メガネ……。そのエリオット課長が、ミアからグランド・ヒールについて詳しく聞きたいそうなんだ」

「今からですか?」

「いや、午後からでいいと思う。俺も当事者だから一緒に行くけど、術式開発課の事務所に行くからそのつもりでいてくれ」

「はーい」

 グランド・ヒールについて聞きたいなんて、私にどんなことを聞きたいんだろう?
 もし実際に見せてくれと言われたら全力で断るけど、その辺はエリオットさんだってちゃんと考慮してくれるんだよね?
 術式開発課って、名前からして研究所の一番主要な部署なんだろうし、エリオットさん以外はどんな人たちがいるんだろう。


***


 午後になって、術式開発課に向かう時間になった。
 フィオルさんに連れられて事務所に向かう。
 知らない人たちがいる部署に行くのは、なんだか緊張しちゃうな。

「失礼します」

「よく来てくれたね、二人とも。課長は今忙しいみたいだから、応接室の方へ行って待っててくれ。
 ホットティーでいいかい?」

 部署の人は思ったより気さくな感じ。
 エリオットさんは、一応、あの時も話はしたけど堅い感じの印象だったから……どういう人かあんまりわからなかったんだよね。

「こっちは応接室なんてあるんですね」

「依頼で外出するよりも、直接来てもらうことが多い部署だからな」

 術式開発課は貴族出身のエリートなんかも多いみたい。
 だからと言って、庶民を馬鹿にするような人はいないみたいだけど、王家からの依頼も結構あるから、ある程度のマナーも必要になるそうで。
 こっちに配属にならなくてよかったって心底思った。

「こちらから呼びつけておいて、待たせてしまって申し訳ない」

 髭メガネのエリオットさんが応接室に入ってきた。


「二人に来てもらったのは他でも無い、グランド・ヒールについて詳しい話を聞きたくてな。
 何せ、使い手の少ない魔法だ。使用者であるミア君はもちろん、間近で見たというフィオルからも感想など聞いておきたい」

「はあ……」

 とは言っても、何を答えたらいいんだろう?

「気になってたんだが、魔導書には詠唱部分の記載があっただろ?
 あれがあるということは、過去に研究所にも使い手がいたということなんじゃないのか?」

「ああ、あれか。あれは三代前の課長が術式を独自で解釈し、詠唱を予測して書いたものらしいんだ」

「あれって、予測だったんですか!?
 でも、ちゃんとグランド・ヒールは発動しましたよ。
 ね、フィオルさん」

「ああ。街の人たちやオーウェンの呪いが消えたのが何よりの証拠だ」

「そこなんだよな、私が気になっているのも。
 先代がきちんと引き継いでくれてないから……。
 ともかく、詠唱は予測でも書ける。今回はそれを見事に体現した形になった。
 そして、こうも考えた。実は詠唱に正しいものなんて無いんじゃないか……と」

 なんか難しい話になってきた。
 もともと魔法を使ったことのなかった私にとって、詠唱が正しいとか正しくないとか意識したことなかったし、なんで魔法に詠唱が必要なのかもわからなかった。
 わかったのは、詠唱をきちんと唱えることで魔法の効果は大きく変わるということだけ。

「すまん、話が逸れた。グランド・ヒールを唱えたとき、ミア君は何を思っていた? それが聞きたくてね」

「んー……街の人たちを救いたいとか、オーウェンさんを死なせたくないとか、フィオルさんの頑張りを無駄にしたくないとか……ですかね?」

「なるほど……では、唱えた瞬間の体の様子はどうだった?」

「体がズンっと重くなった感じがして……力が抜けていく感じでしたね」

 本当は、もっとちゃんとした説明の仕方があるんだろうけど、私の語彙力じゃこれが限界です。
 語彙力の足りない女ですみません。

「フィオル、君は実際にグランド・ヒールを唱えた彼女を見てどんな印象を受けた?」

「率直な感想になってしまうけど……ミアの体から光の魔力が放射状に広がっていって、あの時はまるで天使のように見えた。
 聖女がもし本当に居たとしたら、きっとこんな感じなんだろうと……」

 その天使、目から光線を出しますけどね。
 ああ、でも……あの時、フィオルさんからはそんな風に私が見えていたんだ。
 褒められたみたいで、ちょっと嬉しいな。

「普段のミアからは想像もつかんけどな」

「なるほど……」

 ちょっと! なるほどじゃないよ!
 今、何に対して納得したのさ!

「グランド・ヒールを実際に受けてみてどうだった?」

「なんというか……暖かかったな。
 ヒールを受けた時とは違う、包み込んで癒されているといった感じだ。
 あれが、ヒールとリザレクションの違いなんだと思う」

「ミア君はリザレクションは使えるのかね?」

「そっちは飛ばして、いきなりグランド・ヒールに行っちゃいましたからね……」

「俺の予想だけど、詠唱さえあれば使えるんだと思う。
 ユリウスだって、インフェルノを覚える前にボルテクス・インフェルノを使用していただろ?」

「そういわれてみれば、そうだったな。
 あいつもなかなかの規格外で、それまでの前提をいくつも覆させられたものだ」

 やっぱりユリウスさんは化け物なんだね。
 あの人だけは、絶対に敵に回しちゃ駄目です。

「聞きたかったのはそのくらいかな。
 詠唱についてはまだ気になる部分はあるが、それはこちらでの資料がまとまり次第、改めてお願いさせてもらおう」

「私に協力できることなら、遠慮なくおっしゃってください」

「遠慮なくか……。光属性の人間は少ないから、できればいろいろとミア君の検査も行いたいのだが……」

「検査……ですか?」

「具体的には血液と尿がほしい」

「……はい?」

「おい、何言ってんだこの変態髭メガネ」

 フィオルさんに引っ張られるように術式開発課の事務所を出て、薬学治療課へと戻る。
 その間、私はエリオットさんの言っていた詠唱について考えていた。
 詠唱は、決められたものじゃ無くても魔法を発動できる。
 じゃあ、詠唱は何のために存在するのか。
 たぶん、ある程度の一定のルールは存在するんだと思う。
 それは、詠唱の有無で魔法の効果に影響が出ているから。
 私が唱えた無詠唱のグランド・ヒールは今回のものよりもはるかに規模が小さかった。
 目から出す光線も、使い勝手はいいけど威力は小さいし。
 この辺に無詠唱の秘密みたいなものが隠されているんじゃないかって思う。

 無詠唱の解析にはあと少し……まだ何か足りないことがあるような気がするんだけど、それが何なのかがわからない。
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