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本編
33:悪夢
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父からテストの成績で怒られた。
テストの結果が芳しくなかったためだ。
私は窮屈な家に生まれてしまったと思う。
父も母も、私に完璧ばかり求めてくる。
つまらない。
何もかもがつまらない。
いつしか、私は悪夢を見るようになっていた。
自分の叫び声で目が覚める。
頭には円形脱毛症ができていた。
アリの巣に水を流し込んだ。
少しだけ気分が晴れた。
バッタの足をもいだ。
少しだけ気分が晴れた。
セミの羽をもいだ。
少しだけ気分が晴れた。
私は優等生として通っている。
でも、こんな残酷なことだってできるんだ。
本当の私を知ったら、親は悲しむだろうか。
本当の私を知ったら、友達はどう思うだろうか。
知られてはいけない。
知られてしまっては、意味がない。
私は優等生なんだから。
私は野良猫に餌をやる。
私は野良猫をなでる。
野良猫は私に懐く
野良猫は私に甘える。
愛おしい。
可愛らしい。
私は野良猫の髭を切った。
カッターナイフで切った。
怯える、野良猫。
笑う、私。
かつてない快感が、私を襲った。
私は何だってできる。
悪夢は、まだ消えない……。
学校で見かけた少女。
儚げだけど、美しい少女。
いつしか、彼女に惹かれていた。
彼女の親は殺人者。
そう、親から聞いた。
彼女はいじめを受けていた。
そうだ、私は彼女の友達になろう。
彼女を、私だけのものにしよう。
私は彼女に声をかけた。
友達になりましょうと言った。
彼女はそれはもう、嬉しそうだった。
私も嬉しかった。
一緒に遊ぶことも多くなった。
一緒に居ることも多くなった。
彼女は優しかった。
彼女と一緒に居ることで、私はいじめを受けた。
それでも、私は彼女と一緒に居た。
それだけで、私は満たされていた。
私達は本当に仲良くなった。
クラスは違っても、私達はお互いに親友とも呼べるほどになった。
愛おしい。
可愛らしい。
彼女の、色んな表情を見たい。
彼女の、全てを知りたい。
彼女が、苦しむところを見たい。
彼女が、悲しむところを見たい。
もし、ここで、私が彼女を裏切ったら……。
きっと、彼女は苦しむだろう。
きっと、彼女は悲しむだろう。
ああ、見たい……。
どんな貴女でも、私は貴女を愛している。
私は、早速行動に移すことにした。
『あなたといることで、私もいじめを受けてるの』
彼女は何も言えず固まった。
『あなたのせいで、いじめられたの』
彼女は何も言えず、ただ泣いた。
『全部、あなたのせいだから』
彼女は私に謝った。
ああ、何て可愛いのだろう。
ああ、何て愛おしいのだろう。
彼女の悲しむ顔は、絶望の色に染まる。
私に縋ろうとするその必死さが、私に快楽を与えてくれた。
どれだけいじめられても、顔色一つ変えなかった彼女。
私は、きっと、この顔をずっと見たかったんだ。
いつしか、私に仲間ができていた。
あの時、私をいじめていた子達だ。
それから、私は彼女を、いじめ続けた。
その、絶望した顔を見たいから。
その、悲しんだ顔を見たいから。
もっともっと、仲間を増やさなきゃ。
足りない、全然足りない。
もっと、彼女の苦しむ顔が見たい。
彼女は、なかなか泣き顔を見せない。
いつしか、彼女の表情は消えていた。
私は、悪いことを覚えた。
それは、男を使うことだ。
男は単純だ。
私が優しくすれば、私を好きになってくれる。
私が好きと言えば、それだけで喜んでくれる。
私が抱きつけば、抱き返してくれる。
私が甘えれば、何でも言うことを聞いてくれる。
じゃあ、言うね。
『吉田恵利佳をいじめて』
悪夢は見なくなった。
いつの間にか、円形脱毛症も無くなっていた。
鏡の前の私。
三つ編みをほどいて、眼鏡を外した私。
まるで、違う自分になったようで、鏡の中で嗤う私の姿は他人のように見えた。
◇◆◇◆◇
「言われた通り、やってきたよ」
小岩井恭佑。
私の4人目の彼氏だ。
「御苦労様。さすが、私の恭佑だわ」
その言葉だけで照れる小岩井。
私の彼氏の中で、一番単純で使いやすい男。
「俺も、智沙の役に立てて嬉しいよ」
「じゃあ、もっと色々とお願いしてもいいかしら?」
「もちろんさ。なんたって、俺は智沙の彼氏だからね」
「嬉しい……」
「ねえ、抱いていい?」
「ええ……」
小岩井は、汚らしく厭らしい手で私の体を触る。
こんなことの何がそんなに嬉しいのか。
何て単純な生き物なんだろう。
愉悦の笑みが、思わずこぼれた。
……………………
…………
……
家に帰ると母が言った。
「勉強は進んでるの?
もうじき受験なんだから、これまで以上にしっかり勉強しなさいね」
「わかってる」
それだけ言って、私は部屋に籠った。
机の引き出しを開ける。
引き出しの中には彼女との思い出の写真が隠してある。
そこには、笑顔の彼女と私が写っていた。
懐かしい写真だ。
写真をそっとしまい、勉強に手を付ける。
私は、完璧を演じなくてはいけない。
演じ切らなくてはいけない。
彼女の色んな表情の写真を集めたい。
彼女の色んな姿の写真を集めたい。
もっと絶望して。
もっと悲しんで見せてよ。
もっと、貴女を、いじめてあげるから……だから、私だけの物になって。
永遠に、私は貴女を離さない。
テストの結果が芳しくなかったためだ。
私は窮屈な家に生まれてしまったと思う。
父も母も、私に完璧ばかり求めてくる。
つまらない。
何もかもがつまらない。
いつしか、私は悪夢を見るようになっていた。
自分の叫び声で目が覚める。
頭には円形脱毛症ができていた。
アリの巣に水を流し込んだ。
少しだけ気分が晴れた。
バッタの足をもいだ。
少しだけ気分が晴れた。
セミの羽をもいだ。
少しだけ気分が晴れた。
私は優等生として通っている。
でも、こんな残酷なことだってできるんだ。
本当の私を知ったら、親は悲しむだろうか。
本当の私を知ったら、友達はどう思うだろうか。
知られてはいけない。
知られてしまっては、意味がない。
私は優等生なんだから。
私は野良猫に餌をやる。
私は野良猫をなでる。
野良猫は私に懐く
野良猫は私に甘える。
愛おしい。
可愛らしい。
私は野良猫の髭を切った。
カッターナイフで切った。
怯える、野良猫。
笑う、私。
かつてない快感が、私を襲った。
私は何だってできる。
悪夢は、まだ消えない……。
学校で見かけた少女。
儚げだけど、美しい少女。
いつしか、彼女に惹かれていた。
彼女の親は殺人者。
そう、親から聞いた。
彼女はいじめを受けていた。
そうだ、私は彼女の友達になろう。
彼女を、私だけのものにしよう。
私は彼女に声をかけた。
友達になりましょうと言った。
彼女はそれはもう、嬉しそうだった。
私も嬉しかった。
一緒に遊ぶことも多くなった。
一緒に居ることも多くなった。
彼女は優しかった。
彼女と一緒に居ることで、私はいじめを受けた。
それでも、私は彼女と一緒に居た。
それだけで、私は満たされていた。
私達は本当に仲良くなった。
クラスは違っても、私達はお互いに親友とも呼べるほどになった。
愛おしい。
可愛らしい。
彼女の、色んな表情を見たい。
彼女の、全てを知りたい。
彼女が、苦しむところを見たい。
彼女が、悲しむところを見たい。
もし、ここで、私が彼女を裏切ったら……。
きっと、彼女は苦しむだろう。
きっと、彼女は悲しむだろう。
ああ、見たい……。
どんな貴女でも、私は貴女を愛している。
私は、早速行動に移すことにした。
『あなたといることで、私もいじめを受けてるの』
彼女は何も言えず固まった。
『あなたのせいで、いじめられたの』
彼女は何も言えず、ただ泣いた。
『全部、あなたのせいだから』
彼女は私に謝った。
ああ、何て可愛いのだろう。
ああ、何て愛おしいのだろう。
彼女の悲しむ顔は、絶望の色に染まる。
私に縋ろうとするその必死さが、私に快楽を与えてくれた。
どれだけいじめられても、顔色一つ変えなかった彼女。
私は、きっと、この顔をずっと見たかったんだ。
いつしか、私に仲間ができていた。
あの時、私をいじめていた子達だ。
それから、私は彼女を、いじめ続けた。
その、絶望した顔を見たいから。
その、悲しんだ顔を見たいから。
もっともっと、仲間を増やさなきゃ。
足りない、全然足りない。
もっと、彼女の苦しむ顔が見たい。
彼女は、なかなか泣き顔を見せない。
いつしか、彼女の表情は消えていた。
私は、悪いことを覚えた。
それは、男を使うことだ。
男は単純だ。
私が優しくすれば、私を好きになってくれる。
私が好きと言えば、それだけで喜んでくれる。
私が抱きつけば、抱き返してくれる。
私が甘えれば、何でも言うことを聞いてくれる。
じゃあ、言うね。
『吉田恵利佳をいじめて』
悪夢は見なくなった。
いつの間にか、円形脱毛症も無くなっていた。
鏡の前の私。
三つ編みをほどいて、眼鏡を外した私。
まるで、違う自分になったようで、鏡の中で嗤う私の姿は他人のように見えた。
◇◆◇◆◇
「言われた通り、やってきたよ」
小岩井恭佑。
私の4人目の彼氏だ。
「御苦労様。さすが、私の恭佑だわ」
その言葉だけで照れる小岩井。
私の彼氏の中で、一番単純で使いやすい男。
「俺も、智沙の役に立てて嬉しいよ」
「じゃあ、もっと色々とお願いしてもいいかしら?」
「もちろんさ。なんたって、俺は智沙の彼氏だからね」
「嬉しい……」
「ねえ、抱いていい?」
「ええ……」
小岩井は、汚らしく厭らしい手で私の体を触る。
こんなことの何がそんなに嬉しいのか。
何て単純な生き物なんだろう。
愉悦の笑みが、思わずこぼれた。
……………………
…………
……
家に帰ると母が言った。
「勉強は進んでるの?
もうじき受験なんだから、これまで以上にしっかり勉強しなさいね」
「わかってる」
それだけ言って、私は部屋に籠った。
机の引き出しを開ける。
引き出しの中には彼女との思い出の写真が隠してある。
そこには、笑顔の彼女と私が写っていた。
懐かしい写真だ。
写真をそっとしまい、勉強に手を付ける。
私は、完璧を演じなくてはいけない。
演じ切らなくてはいけない。
彼女の色んな表情の写真を集めたい。
彼女の色んな姿の写真を集めたい。
もっと絶望して。
もっと悲しんで見せてよ。
もっと、貴女を、いじめてあげるから……だから、私だけの物になって。
永遠に、私は貴女を離さない。
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