少女が過去を取り戻すまで

tiroro

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本編

29:ボウリングの後で

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 あの後、渡辺が『マイボールなんて卑怯だ!』とかゴネだしたので、渡辺と悠太郎だけで、もう1ゲームすることになった。

 今度は悠太郎もマイボールは使わずに、普通の貸し出しボールを使った。
 そして、

 渡辺:139、悠太郎:172 という、大差での決着となったのだ。

「くそぉ!! なんで普通のボールでスコア上がってんだよ!!」

「俺はスロースターターなんだ」

 よくわからないけど、悠太郎が凄いということだけはわかった。



 さて、ボウリングもこれで終わりだね。
 もともと嫌々参加したんだけど、不覚にもちょっとだけ楽しかったよ。

 一緒に遊んでみてわかったことだけど、こいつら根はそんなに悪い奴らじゃない。

 もしかして、説得すれば吉田さんを苛めるのもやめてくれるかもしれない。
 でも、なかなかそれを切り出せる状況は作れない。
 どうしたものだろう……。


「どうした? 難しい顔して」

 悠太郎が声を掛けてきた。
 そんなに顔に出ていただろうか。難しい顔。

「ちょっと、考えてることがあってさ」

「そっか。何か辛いことがあるなら遠慮せず言えよ」

 私もまだ、どうしたらいいのかわかんないんだよ。

「おい、ゲームやっていこうぜ!!」

 渡辺が呼んでる。

 たしかに、こんな広いゲームコーナーがあるんだもんね。
 ずっと考えてて頭疲れちゃったし、私もゲームで気分転換しようかな。

「何のゲームするんだ?」

「これだ、ス〇ファイ! 西田、対戦しようぜ!」

「おう、両替してくるから待ってろ」

「金なら俺が出すって! ほら!」

「いやいい、すぐ両替してくるから待っててくれ」

 琢也は両替機に走って行った。

 それにしても、渡辺はやたらとお金を出そうとしてくるな。
 家がお金持ちだったんだっけ? よっぽど親が甘やかしてるんだな。

「伊藤様! あっちに可愛いぬいぐるみがありますわ!」

 クレーンゲームを見てはしゃぐ森山さん。
 そのまま悠太郎の腕をつかみ、どこかへ行ってしまった。

 あれ? 私ぼっち?

 あ、江藤が居た。
 でも、特に共通の話題とか無いしなぁ。

 そんなことを考えてたら、江藤がしゃべりだした。

「謙輔さんと西田が、まさかこんな風に一緒に遊ぶところが見られるなんてな」

 これって、私に言ってるの?
 まあ、私しかいないけど……。

「仲悪かったんだっけ? 初日もケンカしてたもんね」

 ケンカっていうか、琢也が一方的にやられただけなんだけな。

「あれは、別の意図も入っていたんだと思うが……昔は犬猿の仲みたいな感じだったからなぁ」

 普段は渡辺と一緒になってオラついてるけど、こうしてると全然そんなふうに見えない。
 江藤は、ご主人様である渡辺に合わせてあげていただけなんだろう。
 今日は坂本は来ていないのでそっちのことはわからないけど、この人は話せばわかってくれる人のような気がする。

「江藤君は、普段そんななんだね。自己紹介の時のイメージがあるから意外だったよ」

「あー……あれな。あの時はビビらせて悪かった。日高にだけ言っても仕方ないけど」

「今度、みんなにもそう言ってあげなよ」

「機会があれば……な」

 江藤となんやかんや世間話しているうちに、悠太郎が一人で戻ってきた。

「あれ? 悠太郎、森山さんは?」

「うっとおしいから置いてきた」

 酷いことをする。
 朱音の時もそうだったけど、悠太郎は不必要にベタベタされるの嫌がるもんな。

「ククッ……」

 江藤も笑ってる。


*****


「ワッハッハ! 俺の勝ちだ!!」

「お前、ハメ技使ってんじゃねえよ!」

 あ、まだやってたんだ。
 あれから結構お金使ったんじゃないの?

「そろそろ飽きたな。帰ろうぜ」

 琢也が席を立った。

「待ってくれ、今わざと負けるから!」

「早くしろよ」

 ようやくゲームも終わるみたい。
 このゲーム、そんなに面白いのかな?
 今度、私もやってみようかな。

「琢也、お前幾ら使ったんだ?」

「ん? 100円だけだぜ」

 渡辺が一方的に負けまくってたのか。
 琢也って意外とゲーム上手いんだ。順には散々負けてた気がするけど。

「待たせたな。玲美が見に来てくれないから、なかなか勝てなかったぞ」

「私が見てたって何も変わらないでしょ?」

「そんなことは無い、やる気が出る!」

「そーですか」

「あ、伊藤様! 酷いですわ置いて行くなんて!!」

「悪い悪い、つい」

 つい置いてきたんですね。

「さて、全員揃ったことだしプリクラ撮ろうぜ!」

 そういえばプリクラあったね。
 正直、こいつらとは撮りたくないんだけど。

 6人でプリクラなんて撮れるのかなって思ってたけど、大きいのがあったからそれで撮ることになった。
 どうでもいいけど、私の目つぶり率高いな……。
 できたシールはハサミで切って、全員に均等に渡された。


 そして、バスに乗り、私達は帰る。


******


 バスの中でふと考えていたことがある。

 あのメモのこと。

 メモで気を付けろと書いてあったのは、河村智沙のことだけだ。
 その河村智沙自体は、私から見てもいじめをしているような実態がつかめない。

 そういえば、メモには渡辺達のことは書いていなかった。

 もしかして、渡辺達は吉田さんをいじめてはいたけど、それほど大きな障害にはならないってこと?
 だけど、このままこいつらを放置しては、吉田さんの心は傷付くばかりだ。
 やっぱり、渡辺達によるいじめはやめさせるべきだと思う。


………………
………



「結構遅い時間まで遊んじゃったな」

 悠太郎が腕時計を見ながら言った。

「俺は楽しかったから、あっという間だったぜ!」

 渡辺はご機嫌だ。
 とりあえず、機嫌を損ねて暴れられるよりはよっぽどいいか。

「玲美は、楽しかったか?」

 もともと、渡辺達のことを知るのに利用しただけなんだけど。
 そんな満面の笑みで聞かれたら、こっちが罪悪感が沸いてくる。

「まぁ……みんなで遊ぶのは楽しかったよ」

「そうか! また、みんなで来ような!」

「……渡辺君は、思っていたより良いやつみたいだね」

「そうだろう、俺は良いやつなんだ! あと、謙輔と呼び捨てにしてくれ!」

「そんな良いやつが…………何で吉田さんをいじめたりするの?」



 ……言ってしまった。

 言わずにはいられなかった。
 こいつが、話せばわかる奴だと思ってしまったから。


 このタイミングじゃ無かったかも知れない。

 渡辺の顔を見る。
 さっきまでとは違って、明らかに機嫌が悪くなってるのがわかる。

「吉田さんのこと……私は詳しく知らないけど、みんな嫌ってるよね? 苛めたりしてるよね?」

 全員黙りこんでしまった。

 ここでやめるべきか? 今ならちょっと気になっただけとか言ってごまかすこともできる。
 でも、ここを逃すと……もう、この話は続けられない。


「吉田さんって、あの時の子か?」

 沈黙を破ったのは、悠太郎だった。

「うん……今、うちのクラスでいじめにあってる。渡辺君達が花瓶を置いたんでしょ?」

「……たしかに、あれは俺達がやった。だが、それがお前に何の関係がある?」

「さっきも言ったように、私は吉田さんのことを詳しく知らない。少し話したことがあるだけだよ」

「なら、関係ねえじゃねえか!!」

 急にキレる渡辺。
 でも、ここで怯むわけにはいかない。

「関係ならあるよ。同じクラスの仲間だ。
 それが毎日いじめられているところを見て、気分が良いわけがないだろ!」

「お前は、あいつのことを何も知らないからそう言えるんだ!」

「へー……。じゃあ、そのいじめをするだけの理由が何なのか、私に教えてみろよ」

「あいつの親父はな……犯罪者だ!」

 犯罪者……吉田さんのお父さんが!?
 どういうこと……? そんなの、私は知らない。

「それは、俺も初耳だな……」

 吉田さんと同じクラスだった琢也でさえも知らなかったみたいだ。
 一部の人しか知らないのだろうか。

「謙輔さん、落ち着いて。日高も、突然どうしたんだ」

「全く……無知は罪ですわ。
 無駄な正義感振りかざすぐらいでしたら、相手のことをもっと調べてからにしなさいまし」

「玲美、落ち着け……。悪いけど、どういうことか教えてもらっていいか?」

 悠太郎が私をなだめながら渡辺に言った。

「ここで話すことじゃねえ……俺の家に来い。そこで全部話してやる」


 私達は渡辺の家に行くことになった。


 そこで、私は吉田恵利佳の真実を知ることになる。
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