少女が過去を取り戻すまで

tiroro

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本編

28:はじめてのボウリング

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「じゃあ、さっそく俺から行くぜ!」

 渡辺が一番手に躍り出た。

 投げる順番は、渡辺側が、渡辺・森山・私、琢也側が、琢也・悠太郎・江藤の順だ。

 一応、私は初心者ってことで一番最後にしてくれたらしい。
 私以外はみんなボウリングやったことあるんだ。


 渡辺の投げた球は凄い速さで滑って行った。
 そして、あっという間にピンに当たってドカーンと弾けた。
 私、このピンが弾ける音好きかも。
 全部倒れたかと思ったけど、両端に1本ずつ残ってるね。

「クソッ!!」

 憤慨する渡辺。
 いっぱい倒れたからいいじゃんね。

「スプリットだ」

「わかってる! いちいち言うな!」

 悠太郎がよくわからない言葉を言った。
 この両端に残ってる状況は、あんまりよくないらしい。
 そう言われれば、両端1本ずつを倒すのは難しそうだ。

「絶対倒す!!」

 また凄い勢いのボールを投げる渡辺。
 一直線に右端に向かって、1本だけ倒れた。

「駄目か、クソッ!!」

「次は俺だ」

 琢也が前に出る。
 2つのレーン使ってるから、二人とも一気に投げればいいのに。

「何で二人一緒に投げないの?」

「一緒に投げると隣の人が投げるタイミングに釣られちゃったりするからね。
 ボウリングでは、交互に投げるのがマナーなんだよ」

 そうなのか。やっぱり悠太郎は詳しいな。

「おりゃっ!」

 琢也の投げたボールも真っ直ぐ滑って行く。
 そして、ピンが弾けて1本だけ残った。

「凄いね琢也!」

「よし、順調順調。スペアはもらったぜ」

「はーずーせー」

 何て心の狭い男だろう。
 そんな渡辺の野次にも負けず、琢也は順調にスペアを取った。

 次は森山さんの番だ。

「伊藤様のキスは私のもの……フフフ……」

 何か怖い。

「愛の力を見せて差し上げますわ!!」

 森山さんの投げたボールはゆっくりと真ん中に向かって転がって行った。
 そして、パタパタと6本倒れた。ドミノ倒しみたい。

「次もこの調子で行きますわ」

 森山さんはさっきと同じように投げて、パタパタと2本倒した。
 惜しかったね。

「さて、次は俺の番だ」

「伊藤様ー!! がんばってー!!」

 森山さん、勝って悠太郎からのキスを貰うんじゃなかったっけ?

「……そらっ!!」

 琢也達ほど速くないけど、テレビで見たみたいな綺麗な投げ方で投げる悠太郎。
 でも、そんな端っこの方に投げて大丈夫なの?
 そう思っていたら、ボールが綺麗に真ん中によって行って全部のピンが弾けるように飛んだ。
 なにあれ、魔球?

「キャーッ!! ストライクですわー!! 日高さん、今の見ました!?」

「あ、うん……見たよ。凄いね」

 あなたの叫び声が凄いです。

「さ、私も投げてみよっと」

 私が最後かと思ってたけど、渡辺が先に投げ始めたから江藤よりも先になってしまった。
 これ、どの指を穴に入れたらいいんだっけ?

「親指と中指と薬指を、こうやって入れるんだよ」

「あー、そういうことね」

 さすが悠太郎、わかりやすい。

「俺が教えようと思ってたんだ」

「誰が教えたって一緒じゃないか」

 さて、気を取り直して、と。
 投げ方は見てたからだいたいわかったよ。

「えいっ!!」

 お、真っ直ぐ行った。
 そして、ガシャーンと弾けるいい音。
 1本残っちゃったけど、初めてにしてはうまくいったんじゃない?

「玲美、お前……初めてなんだよな?」

「うん」

「女の投げる球じゃねえ……」

 琢也が何か失礼な事を言ってるけど、まあいいさ。
 さて、2投目、と。

「ていっ」

 端っこに残ってるピンを狙ったんだけど、ちょっとずれてしまった。

「惜しかったな」

 悠太郎が、私の健闘を称えてくれた。
 初心者なんだし、最初から上手くはいかないよね。

 そして、江藤も準備に入る。
 なんだあれ。手に風をブワーっと当ててる……面白そうだし次は私もやってみよう。

「それっ!!」

 パワーは凄いけど、ボールは端っこの方行ってしまい3本だけ倒れた。

「女子に負けてんじゃねーか」

 そんな、男子が女子に勝って当たり前みたいな言い方。
 別に女子が勝ってもいいじゃんね。
 私、やっぱこいつ嫌いだわ。

 江藤は2投目で5本倒して、これで全員の1巡目が終わった。




 その後、9巡目まで終わり、私達のスコアは

 渡辺:130
 森山:74
 私:93
 琢也:129
 悠太郎:121
 江藤:83

 と、なっている。


 渡辺も琢也も、パワーでどんどん倒していった感じだ。
 悠太郎は、綺麗な投げ方で安定してる。

 勝負はラスト10巡目に持ち越された。
 渡辺と琢也と悠太郎の勝負だ。
 私は江藤と森山さんとの勝負。


「行くぜ!! オラァ!!」

 渡辺の投げたボールは真っ直ぐに進んで、全部のピンが弾け飛んだ。

「おっしゃぁぁぁあああ!! 見たか、玲美!」

 ここにきて、ストライクを叩きだした渡辺。

 その後、2投投げて9本倒した。
 何で3回も投げるのって思ったけど、最後はスペアかストライク取ると余分に1回投げれるらしい。

 スコアは149と表示されている。

「やりましたわね、渡辺様!」

「ワッハッハ! これで玲美のキスは俺のもんだ!!」

「え、その約束まだ生きてんの!?」

 神様、仏様、琢也様、勝ってくださいませ! 貞操のピンチです!
 こちらを見て頷く琢也様。

「とりゃっ!」

 全部のピンが倒れた。

「すごーい!! 琢也やるじゃん!」

「よし、この調子で行くぜ!」

 その後、琢也は2投投げて合計8本倒した。
 スコアは147と表示されている。
 ……駄目じゃん!!

「わりぃ……負けちまった」

 だ、大丈夫、まだ悠太郎がいるよ!

 ……そう思いながらも青ざめる私。
 だって、琢也の方がスコア高かったし……。

「次は私ですわ! 伊藤様!
 もし最後をパンチアウトで終えられたら、キスしていただいてもよろしくて!?」

 さり気にルール改変する森山さん。

「いいよ」

 あっさり了承する悠太郎。

「愛のパワーでストライクですわー!!」

 6本残りました。

 その後、意気消沈で投げた森山さんは2投目で5本倒して、スコアは83で終わった。
 とりあえず、この時点で森山さんには勝てた。

「さて、俺の番か」

「悠太郎! お願い、勝って!」

 風の吹き出るところに手を当てながら、悠太郎にエールを送った。
 この風のブワーっで心を落ち着けよう。

「負けるわけにはいかなくなったな……まぁ、見てて」

 慎重にフォームを整える悠太郎。
 今までの投球より真剣さが伝わってくる。

「はーずーせっ! はーずーせっ!」

 渡辺うるさい。

「そらっ!!」

 綺麗な弧を描いて中心のピンに向かうボール。
 当たった瞬間全部のピンが弾け飛び、見事なストライクだった。

「よしっ!」

「くそーっ!! 次は外せーっ!!」

 渡辺うるさい! 悠太郎凄い!
 今だけはあなたの負けず嫌いに頼るよ! だから次も全部倒して!

「例の賭け……」

「ん?」

「次も取る!!」

「取るなー!! はずせー!!」

「せいっ!!」

 ボールはカーブしながら真ん中へ吸い寄せられていき、お手本のように綺麗に全部弾け飛んだ。

「よし!」

「キャーッ!! 伊藤様ーッ!!」

 大はしゃぎのファンクラブ会員森山さん。
 10本を2回倒したから、もしかして悠太郎が勝った?

「まだだ! 9本以上倒せなきゃ、俺の勝ちだ!!」

 9本も!?
 お願い、悠太郎、外さないで!!

「大丈夫だよ」

 そう言うと、悠太郎は綺麗なフォームで最後の1投を投げた。
 そして、ピンは全て弾け飛んだ。

 スコアには151と表示されている。

 悠太郎が勝った!

「キャーッ!! 伊藤様!! 素敵過ぎます!! キスしてもいいですか!?」

「やったー!! 悠太郎、やったね!!」

「大丈夫だと言ったろ?」

 そう言いながら、額の汗をぬぐう悠太郎。
 結構ギリギリの勝負だったんだ。


 その後、私も投げてスコアは101。
 江藤は92で終わった。
 よし、江藤にも勝ったぞ。

 熱戦の繰り広げられた5年3組ボウリング大会は、悠太郎の優勝で幕を閉じた。

「初めてボウリングやった女が、いきなりスコア100超えてんじゃねえよ……」

 琢也が何か言ってたけど、褒め言葉として受け取っておこう。
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