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本編
21:悠太郎の過去
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二人をカブトムシのいる場所に案内するお礼にと、おばさんがそうめんを茹でてくれた。
外が暑いから、そうめんの冷たさが気持ちいい。
「玲美ちゃんのお母さんには連絡しておくね」
「ありがとうございます」
「悠太郎君のおうちにも電話しないとね」
「この時間は両親ともいないので大丈夫ですよ。共働きなんで」
そして、しれっと隣でそうめんを食べている悠太郎。
「もしかして、悠太郎も来るの?」
「小さい子達と玲美だけじゃ心配だからな」
心配してくれたのかと一瞬思ったけど、二人と同列に扱われてるだけっぽい。
「悠太郎兄ちゃん」
「官君だっけ。どうした?」
「玲美ちゃんと……付き合ってるの?」
「ゴフッ……!」
官君が急に変なこと言うからそうめんが鼻から出たわ。
「ただの友達に決まってんでしょ。付き合うとか、小学生であり得ないし」
「面白いこと言うな、官君は。そう見えたか? 俺達」
「だって、悠太郎兄ちゃん……長いから悠兄ちゃんでいい?
悠兄ちゃんカッコいいし、玲美ちゃんとお似合いだなって思って」
「悠太郎、顔だけはいいもんね」
「顔以外だっていいだろ? ほら、性格とか」
「負けず嫌いで頑固なところ?」
悠太郎にほっぺたつねられた。
わりと容赦ない、この人。
「玲美ちゃんとは、ぼくが結婚する!」
「そっかー。売れ残ってたら陽太君がもらってね」
陽太君を撫でてると、なんか知らんけど悠太郎がムッとした顔でこっち見てる。
まださっきの怒ってんの……冗談に決まってるでしょ。
「悠太郎君は、すっごく優しい良い人です。……これでいい?」
「よし」
許された。
*****
「暑いから、熱中症に気を付けてね」
おばさんからジュース代までもらってしまった。
「お昼もご馳走になったのに、ありがとうございます」
「こっちこそ、いつも二人の面倒見てもらっちゃって悪いわね」
おばさんに見送られ、山に出発。
いくら方向音痴の私でも、さすがに毎日のように行っていた場所への道は覚えている。
市民プールを過ぎて、謎に多く植えられた梅畑を超えると多く茂った山が見えてくるはずなんだけど。
「あれ? なんか……変わってる?」
舗装されてるってわけじゃないけど、散歩コースみたいな道ができていて、入り口を閉ざすほどあった藪はどこにも見当たらない。
「ここが、玲美の言ってた山か」
山道も、木でできた階段が作られて歩きやすくなってる。
あれから5年も経ってるんだもんね……そりゃ変わるよ。
「カブトムシはどの辺にいるの?」
「以前は、奥の方にある大きな木にいっぱいいたんだけどね。
あのころと違って、人通りも多くなってるみたいだし……せっかく来たのに、カブトムシいなかったらごめんね」
「全然いいよ。ここを歩くのも面白そうだし」
山でお散歩って考えれば、これはこれでいいのかもね。
ここまで歩いてきただけでも、充分散歩になってるっていうのは置いといて。
「あ……でも、待って。あの木」
この先に、他よりも目立つ大きな木が見える。
当時の私達がカブトムシを捕まえていた木は、今でも残っていた。
「ぼく見てくるー!」
「陽太、急に走ると危ないぞ」
二人とも駆けて行ってしまった。
「俺達も行こうか」
「うん」
そこには木製のベンチがいくつか置かれていて、ちょっとした憩いの場みたいになっていた。
「お兄ちゃん! メスのカブトムシがいた!」
「おー! やったな、陽太!」
陽太君は、メスのカブトムシを大事そうに虫カゴに入れた。
メスは立派な角がないから、たまたま道行く人達に見つからなかったのかもしれない。
それでも、ここにはまだ、あの頃と同じようにカブトムシが残ってたんだ。
「玲美ちゃん、ありがとう! オスじゃないけど、こいつはぼくが大事に育てるよ!」
「よかったな、陽太。お母さんに言って、オスのカブトムシを買ってもらって一緒に育てよう」
「うん!」
とりあえず、目標を達成できてよかった。
二人とも喜んでくれてるし。
それと、ここに久しぶりに来れてよかったのかもしれない。
変わっちゃったのは寂しいけど、あの頃の懐かしさを少しでも感じられたから。
*****
帰りに近くにあった公園に寄って、自販機で水分補給。
この公園も、この5年の間にできたんだ。
私達が遊んでいた頃は、ここに公園なんて無かったはずだし。
「悠太郎、今日は付き合ってくれてありがとう」
「まあ、そこそこ楽しかったよ」
官君達はコーラ、悠太郎はスポーツ飲料を買っていた。
私は麦茶。
「ここは、本当にいい街だな」
「そう? 絶対東京の方がいいと思うよ?」
「そうでもないよ。俺にとっては、東京でのことを忘れられるくらい、自然が多い街の方が良かったんだ」
官君達は、公園の遊具で遊んでる。
「言ってなかったけどさ……。俺、前の学校でいじめられてた。
変にやっかみ受けちゃって、クラスの男達から嫌われて……こっちに来た時とあまり変わらないな……」
「その話……聞いちゃっていいの?」
「ああ。玲美が聞きたくないならやめるけど……」
「ううん。聞くよ」
それで、悠太郎の気持ちが少しでも楽になるなら。
「この学校でも、やっぱり俺は嫌われるんだって思った。
友達を作るのは無理か……と。
だから、琢也が友達になってくれた時は本当に嬉しかったな……」
「琢也に救われたね」
「あいつには感謝してもしきれないよ」
悠太郎はいじめられてたのか。
苦労知らずのイケメンだって勝手に思い込んでたから、そういう辛い過去があるなんて思えなかった。
「じゃあ、女子といるの嫌なんじゃない? 悠太郎がいじめられた原因じゃん」
「玲美といるのは嫌じゃない」
「それならいいけど……こっちに来てから、クラスの男子達からはいじめられてない?」
「最初のうちはそんな感じもあったけど……3年の時の班決め騒動があってからは、みんな普通に話し掛けてくれるようになったよ。
それより、お前は大丈夫か? 佐島さんの件でクラスの女子達と揉めてたろ」
「私も由美も、女子の大きな派閥には関わらないようにしてるからね。
影では何か言われてるかもしれないけど、そんなことまで気にしてないし、同じように派閥に入ってない子達とはそれなりに仲良くしてるよ」
「女子には派閥なんてものがあるのか……そっちはそっちで大変なんだな」
「まあね。ただ……一番大きな派閥が、悠太郎のファンクラブだったりするんだけどね……」
「あれは、勘弁してほしいな……」
そんなことを話していたら、そろそろいい時間になってきたみたい。
「じゃあ帰ろっか。夏だから日は長いけど、遅い時間になるといけないから」
「そうだな……。なんか、カッコ悪いこと話しちゃってごめん。幻滅したか?」
「全然。ただ、悠太郎にも辛い過去があったんだなって思っただけ。
誰にも言わないから、安心して」
「琢也はこのこと知ってるけどな」
「いい友達だよね、琢也。今度会ったら、ご褒美にたっちゃんって呼んであげようかな」
「それ、いいかも。俺も一緒に呼んでやるか」
こうして、私達は家に帰った。
陽太君はおばさんにカブトムシを見せて、本当に嬉しそうだった。
官君は付き合ってくれた悠太郎にお礼を言っていた。私より年下なのにしっかりしてるなあ。
夏休みの登校日────。
琢也を見つけて二人でたっちゃんって呼んでみた。
嬉しかったのか何なのかよくわからんけど、なんかクネクネしてた。
外が暑いから、そうめんの冷たさが気持ちいい。
「玲美ちゃんのお母さんには連絡しておくね」
「ありがとうございます」
「悠太郎君のおうちにも電話しないとね」
「この時間は両親ともいないので大丈夫ですよ。共働きなんで」
そして、しれっと隣でそうめんを食べている悠太郎。
「もしかして、悠太郎も来るの?」
「小さい子達と玲美だけじゃ心配だからな」
心配してくれたのかと一瞬思ったけど、二人と同列に扱われてるだけっぽい。
「悠太郎兄ちゃん」
「官君だっけ。どうした?」
「玲美ちゃんと……付き合ってるの?」
「ゴフッ……!」
官君が急に変なこと言うからそうめんが鼻から出たわ。
「ただの友達に決まってんでしょ。付き合うとか、小学生であり得ないし」
「面白いこと言うな、官君は。そう見えたか? 俺達」
「だって、悠太郎兄ちゃん……長いから悠兄ちゃんでいい?
悠兄ちゃんカッコいいし、玲美ちゃんとお似合いだなって思って」
「悠太郎、顔だけはいいもんね」
「顔以外だっていいだろ? ほら、性格とか」
「負けず嫌いで頑固なところ?」
悠太郎にほっぺたつねられた。
わりと容赦ない、この人。
「玲美ちゃんとは、ぼくが結婚する!」
「そっかー。売れ残ってたら陽太君がもらってね」
陽太君を撫でてると、なんか知らんけど悠太郎がムッとした顔でこっち見てる。
まださっきの怒ってんの……冗談に決まってるでしょ。
「悠太郎君は、すっごく優しい良い人です。……これでいい?」
「よし」
許された。
*****
「暑いから、熱中症に気を付けてね」
おばさんからジュース代までもらってしまった。
「お昼もご馳走になったのに、ありがとうございます」
「こっちこそ、いつも二人の面倒見てもらっちゃって悪いわね」
おばさんに見送られ、山に出発。
いくら方向音痴の私でも、さすがに毎日のように行っていた場所への道は覚えている。
市民プールを過ぎて、謎に多く植えられた梅畑を超えると多く茂った山が見えてくるはずなんだけど。
「あれ? なんか……変わってる?」
舗装されてるってわけじゃないけど、散歩コースみたいな道ができていて、入り口を閉ざすほどあった藪はどこにも見当たらない。
「ここが、玲美の言ってた山か」
山道も、木でできた階段が作られて歩きやすくなってる。
あれから5年も経ってるんだもんね……そりゃ変わるよ。
「カブトムシはどの辺にいるの?」
「以前は、奥の方にある大きな木にいっぱいいたんだけどね。
あのころと違って、人通りも多くなってるみたいだし……せっかく来たのに、カブトムシいなかったらごめんね」
「全然いいよ。ここを歩くのも面白そうだし」
山でお散歩って考えれば、これはこれでいいのかもね。
ここまで歩いてきただけでも、充分散歩になってるっていうのは置いといて。
「あ……でも、待って。あの木」
この先に、他よりも目立つ大きな木が見える。
当時の私達がカブトムシを捕まえていた木は、今でも残っていた。
「ぼく見てくるー!」
「陽太、急に走ると危ないぞ」
二人とも駆けて行ってしまった。
「俺達も行こうか」
「うん」
そこには木製のベンチがいくつか置かれていて、ちょっとした憩いの場みたいになっていた。
「お兄ちゃん! メスのカブトムシがいた!」
「おー! やったな、陽太!」
陽太君は、メスのカブトムシを大事そうに虫カゴに入れた。
メスは立派な角がないから、たまたま道行く人達に見つからなかったのかもしれない。
それでも、ここにはまだ、あの頃と同じようにカブトムシが残ってたんだ。
「玲美ちゃん、ありがとう! オスじゃないけど、こいつはぼくが大事に育てるよ!」
「よかったな、陽太。お母さんに言って、オスのカブトムシを買ってもらって一緒に育てよう」
「うん!」
とりあえず、目標を達成できてよかった。
二人とも喜んでくれてるし。
それと、ここに久しぶりに来れてよかったのかもしれない。
変わっちゃったのは寂しいけど、あの頃の懐かしさを少しでも感じられたから。
*****
帰りに近くにあった公園に寄って、自販機で水分補給。
この公園も、この5年の間にできたんだ。
私達が遊んでいた頃は、ここに公園なんて無かったはずだし。
「悠太郎、今日は付き合ってくれてありがとう」
「まあ、そこそこ楽しかったよ」
官君達はコーラ、悠太郎はスポーツ飲料を買っていた。
私は麦茶。
「ここは、本当にいい街だな」
「そう? 絶対東京の方がいいと思うよ?」
「そうでもないよ。俺にとっては、東京でのことを忘れられるくらい、自然が多い街の方が良かったんだ」
官君達は、公園の遊具で遊んでる。
「言ってなかったけどさ……。俺、前の学校でいじめられてた。
変にやっかみ受けちゃって、クラスの男達から嫌われて……こっちに来た時とあまり変わらないな……」
「その話……聞いちゃっていいの?」
「ああ。玲美が聞きたくないならやめるけど……」
「ううん。聞くよ」
それで、悠太郎の気持ちが少しでも楽になるなら。
「この学校でも、やっぱり俺は嫌われるんだって思った。
友達を作るのは無理か……と。
だから、琢也が友達になってくれた時は本当に嬉しかったな……」
「琢也に救われたね」
「あいつには感謝してもしきれないよ」
悠太郎はいじめられてたのか。
苦労知らずのイケメンだって勝手に思い込んでたから、そういう辛い過去があるなんて思えなかった。
「じゃあ、女子といるの嫌なんじゃない? 悠太郎がいじめられた原因じゃん」
「玲美といるのは嫌じゃない」
「それならいいけど……こっちに来てから、クラスの男子達からはいじめられてない?」
「最初のうちはそんな感じもあったけど……3年の時の班決め騒動があってからは、みんな普通に話し掛けてくれるようになったよ。
それより、お前は大丈夫か? 佐島さんの件でクラスの女子達と揉めてたろ」
「私も由美も、女子の大きな派閥には関わらないようにしてるからね。
影では何か言われてるかもしれないけど、そんなことまで気にしてないし、同じように派閥に入ってない子達とはそれなりに仲良くしてるよ」
「女子には派閥なんてものがあるのか……そっちはそっちで大変なんだな」
「まあね。ただ……一番大きな派閥が、悠太郎のファンクラブだったりするんだけどね……」
「あれは、勘弁してほしいな……」
そんなことを話していたら、そろそろいい時間になってきたみたい。
「じゃあ帰ろっか。夏だから日は長いけど、遅い時間になるといけないから」
「そうだな……。なんか、カッコ悪いこと話しちゃってごめん。幻滅したか?」
「全然。ただ、悠太郎にも辛い過去があったんだなって思っただけ。
誰にも言わないから、安心して」
「琢也はこのこと知ってるけどな」
「いい友達だよね、琢也。今度会ったら、ご褒美にたっちゃんって呼んであげようかな」
「それ、いいかも。俺も一緒に呼んでやるか」
こうして、私達は家に帰った。
陽太君はおばさんにカブトムシを見せて、本当に嬉しそうだった。
官君は付き合ってくれた悠太郎にお礼を言っていた。私より年下なのにしっかりしてるなあ。
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