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本編
18:消えた佐島さん
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川に来ると、小岩井が岩の上に乗ってはしゃいでいた。
「押すなよ! 絶対押すなよ! 絶対だぞ!」
それって押せってことでしょ?
その後ろで、井上くんが押すべきか押さないべきか迷ってるみたい。
そっと背中に手を当てた。
いよいよ押すのかな?
「待つのだ、井上。まだその時ではない」
ひときわ貫禄のある田中くんが何か言ってる。
小岩井も困惑した顔をして、とってもカオスな雰囲気だ。
なにやってんの、この人達。
「お、意外と浅いぞこの川」
靴を脱いで川に入っていく伊藤くん……じゃなかった、悠太郎だ。
「そんな急に入って冷たくない? わたしも入っちゃお」
「おい玲美、メダカがいるぞ」
琢也がメダカの群れを見つけたみたい。
こんな人口っぽい川でもメダカっているんだ。
「ちっちゃくてかわいいね。ほら、由美ちゃん見て」
「かわいー。玲美ちゃんの方に行ったよ」
「皆さん、残念ですがこれはメダカではありません」
順が得意げに出てきた。
この人がいれば辞書はいらない。
「これは、カダヤシと言います。
背びれの位置がメダカとちょっと違うでしょう?」
そう言われても。
「まったく違いがわかんねえ」
「日本には、もうほとんど純粋なメダカっていないんですよ……」
遠い目をして話す順。
なんか良い話をしているっぽいんだけど、今はその話どうでもよくない?
「玲美ちゃん、この辺いっぱいシロツメクサ生えてるし、ここなら四つ葉のクローバーあるかも」
「探してみよっか」
男子達は川遊びに夢中みたいだから、わたし達は四つ葉のクローバーを探すことにした。
四葉のクローバーって、見つけると幸運が訪れるっていうしね。
こうして、残りの時間は穏やかに過ぎて行った。
わたしは四つ葉のクローバーを見つけることはできなかったけど、由美ちゃんが大きなのを見つけたし、悠太郎達は川の中に棲んでる昆虫を捕まえたみたいだ。
順が言うには、これも今じゃあまり見ない珍しい昆虫らしい。知らんけど。
「……そろそろ時間かな?」
悠太郎が時計台を見上げて言う。
「あっという間だったな」
「またみんなで来たいね」
「来れるよ。だって友達だもん。ね?」
「うん、友達だ」
「おう」
「はい」
******
集合場所に向かってると、古田くんがこっちに走って来る。
佐島さんと一緒にいた取り巻き女子達も一緒だ。
なんか慌ててるみたいだけど、どうしたんだろう?
「佐島さんが見当たらないんだ!
てっきり伊藤くん達のところに行ったのかなって思ってたんだけど……」
「こっちには来てないな」
古田くん達と一緒にいるんだと思ってたんだけど、あれから佐島さんとは別行動していたらしい。
じゃあ、佐島さんはこれまでの長い間、ずっと一人で過ごしてたってこと……?
「古田くん、なんで佐島さんを引き留めなかったの!? そっちの二人も……!」
「玲美、怒るのは後だ。それより……探すぞ。
おれと順は川の方をもう一度見てくるから、悠太郎と古田は反対側を見てきてくれ」
「わかった。悪いけど、女子達は先に戻って先生に報告してきてくれ。
オレ達は佐島さんを見つけたら戻るから、先に集合場所で待っていてほしい」
男子達は、さっき琢也が言っていたそれぞれの場所に駆け出して行った。
悠太郎と琢也は相当焦っていたみたいだ。
あんなことがあったから、自分達のせいだって思ってるのかもしれない。
「わたし達は悪くないわ……」
佐島さんのそばにいた取り巻きの二人。
斉藤さんと根本さんだったか。
「あんた達……何か知ってるんじゃないの?」
「別に……あの子が悪いんだから」
「佐島さんに何したんだ」
「せっかく、伊藤くんと一緒に行けると思ってたのに勝手に断っちゃうしさ。
あいつ……わけわかんないよ」
「あーあ……、あんた達は楽しかったでしょ? 良かったね、伊藤くんと一緒で。
わたし達はあの後、古田なんかと一緒に回ることになって散々だったんだから」
「何言ってんだ、さっきから自分達のことばっか。佐島さんは、あんた達の友達じゃなかったのか」
「友達? ああ、友達だったよ……今日まではね」
「……由美ちゃん、悪いけど、先戻ってて」
「えっ?」
「わたしも佐島さん探してくる」
「ちょ、ちょっと! 玲美ちゃん!?」
佐島さんはきっと、あの二人にいろいろ言われたんだ。
あんなことがあって……傷付いてたはずなのに。
二人とも佐島さんの友達だと思ってたけど、違ったんだ。
友達なら、傷付いた友達の傷を広げるようなことはしない。
悪い予感はしてた。古田くんがいるから大丈夫だと思ってた。
あの時、佐島さんだけでも引っ張っていけばよかった。
とりあえず、アスレチックのあった林の方に行ってみる。
そこにいなかったら、もしかしたら集合場所に戻ってるかも知れないし一旦戻ろう。
*****
「佐島さーん、いたら返事してーっ!!」
声の限り叫んでみたけど返事がない。
アスレチックのところにいないとなると悠太郎達が行った方にいるのかも。
もう一度呼んで、いなかったら戻ろう。
「佐島さーん!」
「……こ」
いま何か聞こえた。
あんなところにも川が流れてる。
アスレチックで遊んでた時は気付かなかったけど、あの川ってここまでつながってたのか。
「佐島さん!? どこにいるの!?」
「……ここ」
「佐島さん、なんでそんなところに……大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ……」
足を押えてる。
ケガをしたのに、誰も周りにいなかったから動けなかったのか。
「そこ……そこから落ちたの」
斜面に滑ったようなあとがあった。
「わたしも……その、アスレチックしたかったから」
もしかして、わたし達が遊んでいるところを見ていたの?
言ってくれたら一緒に遊んだのに……気付かなくてごめんね、佐島さん。
「佐島さん、今度またみんなで来ようね」
「うん……」
「さ、立って。肩貸すから、ゆっくりね。みんな心配して待ってるよ」
立ち上がった瞬間、ぶわっと風が吹いて佐島さんのかぶっていた帽子が川の中に飛んで行ってしまった。
「わたしの帽子……」
「足怪我してるんでしょ? いいよ。わたしが取って来るから待ってて」
わたしは靴を脱いで川に入った。
ここもそんなに深くない場所でよかった。
深かったら、わたし泳げないもんね。
「帽子取れたよ」
「ありがとう、日高さん」
帽子も救出できたし、川岸に戻ろう。
ザクッ────
足元で嫌な音が聞こえたような気がした。
何か踏んだ?
川にゆらゆら赤い色が漂っているのが見える。
それは、わたしの足元から広がっていた。
「……いっ!?」
遅れてすごい激痛。
何が足に……見たくない……。
「どうしたの?」
そっと足を上げ川岸を目指す。
水の中にいたら、たぶん血が止まらない。
その時、足の裏から何か外れた気がした。
大きなガラスの破片……あんなものが、わたしの足に……。
陸に上がったらハンカチか何かで押さえなきゃ。
破片が抜けた分、さっきより多く血が出てくる。
「ひ……、日高さん!
血が……、血がぁぁああ!!」
「大丈夫……。大丈夫、だから……はい、帽子……」
「誰か! 誰か来てー!! 日高さんが! 日高さんが死んじゃう!!」
かなり深いキズみたいで、ハンカチで押えても血が止まりそうにない……。
そういえばこれ、飯塚くんからもらったやつだ。
こんなことに使っちゃってごめん……。
佐島さんもケガしてるから、わたしが連れて帰らないといけないのに……。
何やってんだろ……しまらないな、わたし……。
「佐島さん、そこにいるのか!?」
悠太郎達が来てくれた。
「おい……どうなってんだこれ!」
琢也が心配そうにわたしを見てくる。
「玲美、しっかりしろ!」
「だ、大丈夫……」
「ひどい傷だ……待ってろって言ったのに、何でここに居るのかわかんないけど、まずは血を止めなきゃ……ちょっと痛いけど我慢してくれ」
ビリッ────
シャツを破る音が聞こえた。
悠太郎が羽織っていたシャツだ。
それを、わたしの足にくくりつけている。
「せっかく似合ってたシャツなのに、ごめん……」
「そんなこと言ってる場合か」
すぐに血で染まるので、そのたびにシャツを破ってわたしの足に巻いてくれた。
「ごめん……悠太郎のシャツ、ごめんなさい……」
「シャツくらい、いつでも買える。
痛いだろうけど、ここじゃ満足な治療はできない。このまま先生のところに戻ろう」
その場にしゃがむ悠太郎。
「おぶってくぞ」
「おぶるなら、佐島さんを……」
そう言おうとしたら、無理やり背中に乗せられた。
「佐島、お前も足をケガしてるのか?」
「わたしはちょっと挫いただけ……あうっ」
「しょうがねえ……こんなブタで嫌かもしれないが、お前はこっちだ」
佐島さんは琢也が背負う。
「ううん、ありがとう……西田くん、本当にごめんね……ごめんなさい……」
佐島さんは素直に琢也にお礼を言った。
******
こうして、わたし達の遠足は終わった。
このあと、先生とお母さんにめっちゃくちゃ怒られた。
せっかく友達ができて楽しかったのに、ちょっとしょぼんとしてしまう。
足の裏の怪我は、何針か縫うことになってしまった。
痛すぎて、病院でもらった薬を飲んでもズキズキと響くような痛みが治まらなくて泣いた。
カッコ悪いな、わたしは……。
佐島さんは軽い捻挫ですんだみたい。よかった。
由美ちゃんにもめっちゃ怒られた。
思えば、由美ちゃんにこんなに怒られたのって初めてかも。
謝ることしかできません。ごめんなさい。
でも、わたしがすぐ良くなるようにって、四つ葉のクローバーをくれた。
あの時由美ちゃんががんばって見つけたやつだ。
腕輪に貝殻に四葉のクローバー。
他にもいろいろ。
わたしの机の上もだいぶ賑やかになってきた。
何かこういうのを大事にしまっておけるようなもの、どこかに無かったかな。
「押すなよ! 絶対押すなよ! 絶対だぞ!」
それって押せってことでしょ?
その後ろで、井上くんが押すべきか押さないべきか迷ってるみたい。
そっと背中に手を当てた。
いよいよ押すのかな?
「待つのだ、井上。まだその時ではない」
ひときわ貫禄のある田中くんが何か言ってる。
小岩井も困惑した顔をして、とってもカオスな雰囲気だ。
なにやってんの、この人達。
「お、意外と浅いぞこの川」
靴を脱いで川に入っていく伊藤くん……じゃなかった、悠太郎だ。
「そんな急に入って冷たくない? わたしも入っちゃお」
「おい玲美、メダカがいるぞ」
琢也がメダカの群れを見つけたみたい。
こんな人口っぽい川でもメダカっているんだ。
「ちっちゃくてかわいいね。ほら、由美ちゃん見て」
「かわいー。玲美ちゃんの方に行ったよ」
「皆さん、残念ですがこれはメダカではありません」
順が得意げに出てきた。
この人がいれば辞書はいらない。
「これは、カダヤシと言います。
背びれの位置がメダカとちょっと違うでしょう?」
そう言われても。
「まったく違いがわかんねえ」
「日本には、もうほとんど純粋なメダカっていないんですよ……」
遠い目をして話す順。
なんか良い話をしているっぽいんだけど、今はその話どうでもよくない?
「玲美ちゃん、この辺いっぱいシロツメクサ生えてるし、ここなら四つ葉のクローバーあるかも」
「探してみよっか」
男子達は川遊びに夢中みたいだから、わたし達は四つ葉のクローバーを探すことにした。
四葉のクローバーって、見つけると幸運が訪れるっていうしね。
こうして、残りの時間は穏やかに過ぎて行った。
わたしは四つ葉のクローバーを見つけることはできなかったけど、由美ちゃんが大きなのを見つけたし、悠太郎達は川の中に棲んでる昆虫を捕まえたみたいだ。
順が言うには、これも今じゃあまり見ない珍しい昆虫らしい。知らんけど。
「……そろそろ時間かな?」
悠太郎が時計台を見上げて言う。
「あっという間だったな」
「またみんなで来たいね」
「来れるよ。だって友達だもん。ね?」
「うん、友達だ」
「おう」
「はい」
******
集合場所に向かってると、古田くんがこっちに走って来る。
佐島さんと一緒にいた取り巻き女子達も一緒だ。
なんか慌ててるみたいだけど、どうしたんだろう?
「佐島さんが見当たらないんだ!
てっきり伊藤くん達のところに行ったのかなって思ってたんだけど……」
「こっちには来てないな」
古田くん達と一緒にいるんだと思ってたんだけど、あれから佐島さんとは別行動していたらしい。
じゃあ、佐島さんはこれまでの長い間、ずっと一人で過ごしてたってこと……?
「古田くん、なんで佐島さんを引き留めなかったの!? そっちの二人も……!」
「玲美、怒るのは後だ。それより……探すぞ。
おれと順は川の方をもう一度見てくるから、悠太郎と古田は反対側を見てきてくれ」
「わかった。悪いけど、女子達は先に戻って先生に報告してきてくれ。
オレ達は佐島さんを見つけたら戻るから、先に集合場所で待っていてほしい」
男子達は、さっき琢也が言っていたそれぞれの場所に駆け出して行った。
悠太郎と琢也は相当焦っていたみたいだ。
あんなことがあったから、自分達のせいだって思ってるのかもしれない。
「わたし達は悪くないわ……」
佐島さんのそばにいた取り巻きの二人。
斉藤さんと根本さんだったか。
「あんた達……何か知ってるんじゃないの?」
「別に……あの子が悪いんだから」
「佐島さんに何したんだ」
「せっかく、伊藤くんと一緒に行けると思ってたのに勝手に断っちゃうしさ。
あいつ……わけわかんないよ」
「あーあ……、あんた達は楽しかったでしょ? 良かったね、伊藤くんと一緒で。
わたし達はあの後、古田なんかと一緒に回ることになって散々だったんだから」
「何言ってんだ、さっきから自分達のことばっか。佐島さんは、あんた達の友達じゃなかったのか」
「友達? ああ、友達だったよ……今日まではね」
「……由美ちゃん、悪いけど、先戻ってて」
「えっ?」
「わたしも佐島さん探してくる」
「ちょ、ちょっと! 玲美ちゃん!?」
佐島さんはきっと、あの二人にいろいろ言われたんだ。
あんなことがあって……傷付いてたはずなのに。
二人とも佐島さんの友達だと思ってたけど、違ったんだ。
友達なら、傷付いた友達の傷を広げるようなことはしない。
悪い予感はしてた。古田くんがいるから大丈夫だと思ってた。
あの時、佐島さんだけでも引っ張っていけばよかった。
とりあえず、アスレチックのあった林の方に行ってみる。
そこにいなかったら、もしかしたら集合場所に戻ってるかも知れないし一旦戻ろう。
*****
「佐島さーん、いたら返事してーっ!!」
声の限り叫んでみたけど返事がない。
アスレチックのところにいないとなると悠太郎達が行った方にいるのかも。
もう一度呼んで、いなかったら戻ろう。
「佐島さーん!」
「……こ」
いま何か聞こえた。
あんなところにも川が流れてる。
アスレチックで遊んでた時は気付かなかったけど、あの川ってここまでつながってたのか。
「佐島さん!? どこにいるの!?」
「……ここ」
「佐島さん、なんでそんなところに……大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ……」
足を押えてる。
ケガをしたのに、誰も周りにいなかったから動けなかったのか。
「そこ……そこから落ちたの」
斜面に滑ったようなあとがあった。
「わたしも……その、アスレチックしたかったから」
もしかして、わたし達が遊んでいるところを見ていたの?
言ってくれたら一緒に遊んだのに……気付かなくてごめんね、佐島さん。
「佐島さん、今度またみんなで来ようね」
「うん……」
「さ、立って。肩貸すから、ゆっくりね。みんな心配して待ってるよ」
立ち上がった瞬間、ぶわっと風が吹いて佐島さんのかぶっていた帽子が川の中に飛んで行ってしまった。
「わたしの帽子……」
「足怪我してるんでしょ? いいよ。わたしが取って来るから待ってて」
わたしは靴を脱いで川に入った。
ここもそんなに深くない場所でよかった。
深かったら、わたし泳げないもんね。
「帽子取れたよ」
「ありがとう、日高さん」
帽子も救出できたし、川岸に戻ろう。
ザクッ────
足元で嫌な音が聞こえたような気がした。
何か踏んだ?
川にゆらゆら赤い色が漂っているのが見える。
それは、わたしの足元から広がっていた。
「……いっ!?」
遅れてすごい激痛。
何が足に……見たくない……。
「どうしたの?」
そっと足を上げ川岸を目指す。
水の中にいたら、たぶん血が止まらない。
その時、足の裏から何か外れた気がした。
大きなガラスの破片……あんなものが、わたしの足に……。
陸に上がったらハンカチか何かで押さえなきゃ。
破片が抜けた分、さっきより多く血が出てくる。
「ひ……、日高さん!
血が……、血がぁぁああ!!」
「大丈夫……。大丈夫、だから……はい、帽子……」
「誰か! 誰か来てー!! 日高さんが! 日高さんが死んじゃう!!」
かなり深いキズみたいで、ハンカチで押えても血が止まりそうにない……。
そういえばこれ、飯塚くんからもらったやつだ。
こんなことに使っちゃってごめん……。
佐島さんもケガしてるから、わたしが連れて帰らないといけないのに……。
何やってんだろ……しまらないな、わたし……。
「佐島さん、そこにいるのか!?」
悠太郎達が来てくれた。
「おい……どうなってんだこれ!」
琢也が心配そうにわたしを見てくる。
「玲美、しっかりしろ!」
「だ、大丈夫……」
「ひどい傷だ……待ってろって言ったのに、何でここに居るのかわかんないけど、まずは血を止めなきゃ……ちょっと痛いけど我慢してくれ」
ビリッ────
シャツを破る音が聞こえた。
悠太郎が羽織っていたシャツだ。
それを、わたしの足にくくりつけている。
「せっかく似合ってたシャツなのに、ごめん……」
「そんなこと言ってる場合か」
すぐに血で染まるので、そのたびにシャツを破ってわたしの足に巻いてくれた。
「ごめん……悠太郎のシャツ、ごめんなさい……」
「シャツくらい、いつでも買える。
痛いだろうけど、ここじゃ満足な治療はできない。このまま先生のところに戻ろう」
その場にしゃがむ悠太郎。
「おぶってくぞ」
「おぶるなら、佐島さんを……」
そう言おうとしたら、無理やり背中に乗せられた。
「佐島、お前も足をケガしてるのか?」
「わたしはちょっと挫いただけ……あうっ」
「しょうがねえ……こんなブタで嫌かもしれないが、お前はこっちだ」
佐島さんは琢也が背負う。
「ううん、ありがとう……西田くん、本当にごめんね……ごめんなさい……」
佐島さんは素直に琢也にお礼を言った。
******
こうして、わたし達の遠足は終わった。
このあと、先生とお母さんにめっちゃくちゃ怒られた。
せっかく友達ができて楽しかったのに、ちょっとしょぼんとしてしまう。
足の裏の怪我は、何針か縫うことになってしまった。
痛すぎて、病院でもらった薬を飲んでもズキズキと響くような痛みが治まらなくて泣いた。
カッコ悪いな、わたしは……。
佐島さんは軽い捻挫ですんだみたい。よかった。
由美ちゃんにもめっちゃ怒られた。
思えば、由美ちゃんにこんなに怒られたのって初めてかも。
謝ることしかできません。ごめんなさい。
でも、わたしがすぐ良くなるようにって、四つ葉のクローバーをくれた。
あの時由美ちゃんががんばって見つけたやつだ。
腕輪に貝殻に四葉のクローバー。
他にもいろいろ。
わたしの机の上もだいぶ賑やかになってきた。
何かこういうのを大事にしまっておけるようなもの、どこかに無かったかな。
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