16 / 35
本編
16:佐島さん襲来
しおりを挟む
今日は、待ちに待った遠足当日。
天気は晴れ。降水確率も0%なんだって。
歩く歩く。どんどん歩く。
班ごとに分かれておしゃべりしながら歩くので、どれだけ歩いても疲れないね。
「晴れてよかったねー」
由美ちゃんは、ポニーテールを犬の尻尾のように揺らしながら上機嫌だ。
「着いたら川でザリガニ取ろうぜ」
西田がなんか変なこと言ってる。
遠足でザリガニを捕まえるとか聞いたことないわ。
そういえば、今向かってる公園には川が流れてるんだっけ。
ザリガニはどうでもいいんだけど、川に入ってちょっと遊ぶのは楽しいかもね。
「日高さん、今日はおさげにしたんだね」
「こっちのほうが動きやすいと思って。変?」
「ううん、似合ってるよ」
髪の毛が伸びてきてうっとおしかったから、適当に2本に束ねてきただけだったりする。
でも、こういう変化にすぐ気付くところが、伊藤くんのモテる秘訣なんだろうな。
先生、ちゃんとメモ取っておいてくださいよ。
うわー……、伊藤くんと話してるだけで佐島さんがめっさ睨んでくる。
ちょっと、離れて歩くか。
「日高さん、なんでそっち行くの?」
佐島さんが睨んでくるから離れてるだけだってば。
*****
「よーし、到着したな! 点呼とるぞー!」
思ってた倍は広い。市内にこんなに大きな公園あったんだね。
ここ隣の学区にあるから、まだ来たことなかったよ。
「沢木、大丈夫か?」
「ぜー……ぜー……、こ、これしき……」
全然これしきじゃなさそう。
「じゃあ、お昼までは班ごとに自由行動だ。
くれぐれも、危ないことはしないように気を付けろよ。
先生達はあっちの休憩所にいるから何かあったらすぐに来るように。いいな?」
「「「はーい!」」」
みんなもう行っちゃったけど、うちらの班は沢木くんが瀕死なのでちょっと休憩。
「僕のせいですみません……」
「仕方ねえさ。とりあえず、お茶でも飲んで休んでろ」
西田は持っていたタオルを濡らして、沢木くんのおでこに乗せた。
西田って、本当に見た目とは違っていいやつだな。
見た目とは違って。
そうして休憩をしていたら、なんか向こうから佐島さんと取り巻き達が来てる。あと古田くん。
伊藤くんを誘いに来たんだろうなー……伊藤くんと同じ班になってしまった時からこうなるとは思ってたけど。
「伊藤くん、もし良かったら、わたし達の班と一緒に回らない?」
「悪いけど、佐島さん達と一緒に行動する気はない」
誘いに来た佐島さんをばっさりと切り捨てる伊藤くん。
あれ以来、ファンクラブをも寄せ付けないオーラが凄かったもんね。
それで、佐島さんもあきらめてくれたらよかったんだけど。
「そう言わずに、頼むよ……」
古田くんがすがるような目で、伊藤くんに懇願する。
佐島さん達から頼まれたんだろうな。
古田くんからあんな目で見られたら、さすがの伊藤くんもバツが悪いか。
「……日高さん、どうする?」
そこでわたしに振る?
自分達の問題でしょ? わたしは関係な……くはないか、一緒の班だし。
「佐島さん達と一緒に回るのは、わたしは別にいいと思ってる」
「それじゃあ……」
「でも、伊藤くんは嫌みたい。
そうなると、きっと佐島さんにとって楽しくはならないだろうけど……それでもいい?」
「それは……」
伊藤くんのこと好きなのはわかるけど、不機嫌な人と一緒に回ったって佐島さんだって楽しくないでしょ。
「それとね、佐島さんは、ちゃんと西田に謝ったほうがいいと思うよ。
誰だって友達を悪く言われたら怒るでしょ?
西田って、こう見えて優しいところや面倒見のいいところもあるんだよ」
「おれのことならもういいぜ?」
西田はそう言うけど、伊藤くんがずっと怒ってる原因ってたぶんそれだよ?
わたしだって、由美ちゃんのこと悪く言うやつがいたら怒るもん。
「……西田くん……ごめんなさい……」
どうなるかなって思ったけど、佐島さんはちゃんと西田に謝った。
これで伊藤くんの気も少しは晴れたんじゃない?
ファンクラブの件も怒ってたけど、それは知らん。
「西田くんに……、伊藤くんが取られちゃうと思って……」
その言い方だと二人がホモみたいだ。
実際それに近いくらい仲よさそうだけどさ。
佐島さんの件はこれでいいとして、わたしは伊藤くんにも思うところがあった。
「じゃあ、次は伊藤くん」
「ん? オレ?」
「伊藤くんも佐島さんに謝って。
学級会の時、佐島さんに怒鳴ってたでしょ?」
「オレは、悪くないだろ。あれは……売り言葉に買い言葉みたいなもんだ。
ファンクラブのことだって……迷惑なのは事実だし……」
「だったら、最初から迷惑だからやめてくれって言えばよかったでしょ?」
なんか、ふてくされちゃってるし。
お互いに謝って仲直りでいいじゃんね。
佐島さんは意外と素直だったけど、伊藤くんは結構頑固だな。
「日高さん……伊藤くんとケンカしないで。
わたし、そこまで伊藤くんの迷惑になってるなんて考えてなくて……本当にごめんなさい!」
別にケンカしてるつもりはないんだけどさ。
もう……佐島さん、ボロボロ泣いちゃってるじゃん。
ほら、伊藤くん。
佐島さんはファンクラブのことも謝ってきたよ?
そしたら伊藤くんはどうすんのさ。
そう目で合図をすると、伊藤くんもようやく頭が冷えたみたいで佐島さんに謝った。
「……ごめん、言いすぎた」
これで、ようやく解決かな。
せっかく楽しいはずの遠足なのに、最初からこんなんじゃ疲れちゃうよ。
由美ちゃんは、ハンカチで佐島さんの涙を拭いてあげてる。
わたしもいまから泣くから、由美ちゃんにあれやってほしい。
……それにしても、佐島さんについてきた子達は佐島さんが泣いても知らんぷり。
友達なんじゃないの? あんた達。
「じゃあ、佐島さん。一緒に行こう。伊藤くんもいいよね?」
「うん、いいよ。一緒に行こう」
「……ううん、わたし達はもういいわ。
伊藤くん、日高さん、無理言ってごめんなさい」
佐島さんは、それ以上は何も言わず去っていった。
ほんとに一緒でもよかったのに。
取り巻きの子達がなんか言ってるみたいだけど、古田くんが間に入ってるから大丈夫かな?
*****
「玲美ちゃん、おつかれさま」
由美ちゃんに頭を撫でてもらった。
涙は出なかったし拭いてもらえなかったけど、これはこれで満足。
「日高さん……ごめん。
オレのせいで時間取らせちゃって……」
「ほんとだよ」
「お前、意外と度胸あるのな。
まさか、あの佐島があんなに謝るとは思わなかったぜ」
「そ、尊敬します」
尊敬は意味わかんない。
沢木くんの体調も戻ったみたいだし、ここからは遅れた分も楽しまなきゃ。
ここにしかないような遊具で遊んだり、お弁当食べたり、おやつ食べたり。
やりたいことはいっぱいあるんだから。
天気は晴れ。降水確率も0%なんだって。
歩く歩く。どんどん歩く。
班ごとに分かれておしゃべりしながら歩くので、どれだけ歩いても疲れないね。
「晴れてよかったねー」
由美ちゃんは、ポニーテールを犬の尻尾のように揺らしながら上機嫌だ。
「着いたら川でザリガニ取ろうぜ」
西田がなんか変なこと言ってる。
遠足でザリガニを捕まえるとか聞いたことないわ。
そういえば、今向かってる公園には川が流れてるんだっけ。
ザリガニはどうでもいいんだけど、川に入ってちょっと遊ぶのは楽しいかもね。
「日高さん、今日はおさげにしたんだね」
「こっちのほうが動きやすいと思って。変?」
「ううん、似合ってるよ」
髪の毛が伸びてきてうっとおしかったから、適当に2本に束ねてきただけだったりする。
でも、こういう変化にすぐ気付くところが、伊藤くんのモテる秘訣なんだろうな。
先生、ちゃんとメモ取っておいてくださいよ。
うわー……、伊藤くんと話してるだけで佐島さんがめっさ睨んでくる。
ちょっと、離れて歩くか。
「日高さん、なんでそっち行くの?」
佐島さんが睨んでくるから離れてるだけだってば。
*****
「よーし、到着したな! 点呼とるぞー!」
思ってた倍は広い。市内にこんなに大きな公園あったんだね。
ここ隣の学区にあるから、まだ来たことなかったよ。
「沢木、大丈夫か?」
「ぜー……ぜー……、こ、これしき……」
全然これしきじゃなさそう。
「じゃあ、お昼までは班ごとに自由行動だ。
くれぐれも、危ないことはしないように気を付けろよ。
先生達はあっちの休憩所にいるから何かあったらすぐに来るように。いいな?」
「「「はーい!」」」
みんなもう行っちゃったけど、うちらの班は沢木くんが瀕死なのでちょっと休憩。
「僕のせいですみません……」
「仕方ねえさ。とりあえず、お茶でも飲んで休んでろ」
西田は持っていたタオルを濡らして、沢木くんのおでこに乗せた。
西田って、本当に見た目とは違っていいやつだな。
見た目とは違って。
そうして休憩をしていたら、なんか向こうから佐島さんと取り巻き達が来てる。あと古田くん。
伊藤くんを誘いに来たんだろうなー……伊藤くんと同じ班になってしまった時からこうなるとは思ってたけど。
「伊藤くん、もし良かったら、わたし達の班と一緒に回らない?」
「悪いけど、佐島さん達と一緒に行動する気はない」
誘いに来た佐島さんをばっさりと切り捨てる伊藤くん。
あれ以来、ファンクラブをも寄せ付けないオーラが凄かったもんね。
それで、佐島さんもあきらめてくれたらよかったんだけど。
「そう言わずに、頼むよ……」
古田くんがすがるような目で、伊藤くんに懇願する。
佐島さん達から頼まれたんだろうな。
古田くんからあんな目で見られたら、さすがの伊藤くんもバツが悪いか。
「……日高さん、どうする?」
そこでわたしに振る?
自分達の問題でしょ? わたしは関係な……くはないか、一緒の班だし。
「佐島さん達と一緒に回るのは、わたしは別にいいと思ってる」
「それじゃあ……」
「でも、伊藤くんは嫌みたい。
そうなると、きっと佐島さんにとって楽しくはならないだろうけど……それでもいい?」
「それは……」
伊藤くんのこと好きなのはわかるけど、不機嫌な人と一緒に回ったって佐島さんだって楽しくないでしょ。
「それとね、佐島さんは、ちゃんと西田に謝ったほうがいいと思うよ。
誰だって友達を悪く言われたら怒るでしょ?
西田って、こう見えて優しいところや面倒見のいいところもあるんだよ」
「おれのことならもういいぜ?」
西田はそう言うけど、伊藤くんがずっと怒ってる原因ってたぶんそれだよ?
わたしだって、由美ちゃんのこと悪く言うやつがいたら怒るもん。
「……西田くん……ごめんなさい……」
どうなるかなって思ったけど、佐島さんはちゃんと西田に謝った。
これで伊藤くんの気も少しは晴れたんじゃない?
ファンクラブの件も怒ってたけど、それは知らん。
「西田くんに……、伊藤くんが取られちゃうと思って……」
その言い方だと二人がホモみたいだ。
実際それに近いくらい仲よさそうだけどさ。
佐島さんの件はこれでいいとして、わたしは伊藤くんにも思うところがあった。
「じゃあ、次は伊藤くん」
「ん? オレ?」
「伊藤くんも佐島さんに謝って。
学級会の時、佐島さんに怒鳴ってたでしょ?」
「オレは、悪くないだろ。あれは……売り言葉に買い言葉みたいなもんだ。
ファンクラブのことだって……迷惑なのは事実だし……」
「だったら、最初から迷惑だからやめてくれって言えばよかったでしょ?」
なんか、ふてくされちゃってるし。
お互いに謝って仲直りでいいじゃんね。
佐島さんは意外と素直だったけど、伊藤くんは結構頑固だな。
「日高さん……伊藤くんとケンカしないで。
わたし、そこまで伊藤くんの迷惑になってるなんて考えてなくて……本当にごめんなさい!」
別にケンカしてるつもりはないんだけどさ。
もう……佐島さん、ボロボロ泣いちゃってるじゃん。
ほら、伊藤くん。
佐島さんはファンクラブのことも謝ってきたよ?
そしたら伊藤くんはどうすんのさ。
そう目で合図をすると、伊藤くんもようやく頭が冷えたみたいで佐島さんに謝った。
「……ごめん、言いすぎた」
これで、ようやく解決かな。
せっかく楽しいはずの遠足なのに、最初からこんなんじゃ疲れちゃうよ。
由美ちゃんは、ハンカチで佐島さんの涙を拭いてあげてる。
わたしもいまから泣くから、由美ちゃんにあれやってほしい。
……それにしても、佐島さんについてきた子達は佐島さんが泣いても知らんぷり。
友達なんじゃないの? あんた達。
「じゃあ、佐島さん。一緒に行こう。伊藤くんもいいよね?」
「うん、いいよ。一緒に行こう」
「……ううん、わたし達はもういいわ。
伊藤くん、日高さん、無理言ってごめんなさい」
佐島さんは、それ以上は何も言わず去っていった。
ほんとに一緒でもよかったのに。
取り巻きの子達がなんか言ってるみたいだけど、古田くんが間に入ってるから大丈夫かな?
*****
「玲美ちゃん、おつかれさま」
由美ちゃんに頭を撫でてもらった。
涙は出なかったし拭いてもらえなかったけど、これはこれで満足。
「日高さん……ごめん。
オレのせいで時間取らせちゃって……」
「ほんとだよ」
「お前、意外と度胸あるのな。
まさか、あの佐島があんなに謝るとは思わなかったぜ」
「そ、尊敬します」
尊敬は意味わかんない。
沢木くんの体調も戻ったみたいだし、ここからは遅れた分も楽しまなきゃ。
ここにしかないような遊具で遊んだり、お弁当食べたり、おやつ食べたり。
やりたいことはいっぱいあるんだから。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる