少女が過去を取り戻すまで

tiroro

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序章

06:お誕生日会(1)

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「今度の日曜日、お誕生日会やるから日高さんもおいでよ」

 この子は飯塚陽亮いいづかようすけくん。
 同じ幼稚園出身で、幼稚園では小岩井達の次によく遊んでた子。

「行ってもいいの?」

「幼稚園では仲良かったじゃないか」

 それはそうなんだけど、仲良しグループはお互い別々だったし、家にも遊びに行ったことないのに。

「その時に、ぜひ日高さんに見てほしいものがあるんだ。
 きっと君も興味を持ってくれると思う」

 わたしに見てほしいもの?
 いったい何なんだろう……わたしが興味を持つものなんてあったっけ。

 ピカピカの泥団子とか?


*****


「──ってことがあったの」

「そうなの。玲美ちゃん、せっかくのお誘いだし行ってきたら?」

「わたしは飯塚くんのお誕生日会より由美ちゃんと遊んでたいんだけど」

「わたしも玲美ちゃんと一緒に遊びたいけど、わたしばかりが玲美ちゃんを独り占めってよくないと思う」

 由美ちゃんになら独り占めされるなら全然いいよ。
 なんなら、わたしの方こそ由美ちゃんを独り占めしてるような気がするし。

「そうだ、由美ちゃんも一緒に来る?」

「飯塚くんのことまだよく知らないし、わたしはいいかな……」

 断られちゃった。
 おもちゃ屋さんでしゃべってたときも、最初は嫌そうだったもんね。
 由美ちゃんが行かないなら、わたしも断っちゃおうかな。

「玲美ちゃんは行ってあげた方がいいよ。
 その……飯塚くん、同じ幼稚園で仲良かったんでしょ?
 それって、もしかしたら玲美ちゃんのこと、す、好き……だったりして……」

「そんなわけないじゃん」

 なんか意味不明なことを言いだして、勝手に真っ赤になってる由美ちゃんがかわいい。
 とりあえず頭なでますけどいいですか?
 
「ん、誕プレ買うなら一緒に付き合うけど、玲美ちゃんはわたしに遠慮なく行ってきて。
 そして、帰りにわたしんちに寄って」

「寄ります」

 わたしに見せたいものがあるって言ってたし、このまま断るのも悪いかな。
 由美ちゃんと一緒に誕プレ買いに行くのも楽しいかもしれないし。

 ところで、男子の誕プレには何をあげたら喜ぶんだろう?


*****


「何かほしいものある?」

「プレゼントを用意してくれるのは嬉しいけど、それを直接ぼくに聞くとは恐れ入った」

 だって、飯塚くんが何をもらったら嬉しいかなんてわかんないんだもん。

「じゃあ、ラジコン」

「そんな高いのがわたしのお小遣いで買えると思う?」

「冗談です」


 とりあえず、くれるものなら何でも嬉しいってさ。
 何でもっていうのが一番困るんだけどね。




 ──そして、いつものおもちゃ屋へ。

 男の子達がよくいるのは、この辺の車のおもちゃのコーナーだよね。

「値段は……600円!? これってこんなに高かったの!?」

 わたしのお小遣いは月500円。
 100円足りない……。

「男の子のおもちゃは高いね」

「せやね……」

 思わずお父さんの方言が出てしまった。

 うーん……飯塚くんって、いいとこのぼんぼんっぽい感じの子だから、これでも喜んでくれるかわからん。
 でも、そんなに高いものも買えないしな……困ったなー…。


「玲美ちゃんもミ〇四駆やるのかい?」

 おっちゃんだ。
 そうだ、おっちゃんなら男の子が誕プレでほしいものわかるんじゃないか?

「わたしがほしいわけじゃないけど、男子の誕プレで何がいいかなって」

「タンプレ? ああ、誕生日プレゼントね。
 男の子にプレゼントかい?玲美ちゃんの好きな子かな?」

「全然そんなことないんだけど、お誕生日会に呼ばれちゃったから何かあげないとって選んでるの」

「完全否定とは、なんだかその子がかわいそうだね……」

 なんか誤解されてるし。
 由美ちゃんといい、おっちゃんといい、やたらとそっち方面に持っていきたがるから困る。


「これなら安いし、男の子が喜ぶプラモデルだし、おっちゃんのオススメだ」

 おっちゃんはそう言って、箱に入ったロボットのおもちゃを持ってきた。
 これなら300円か……。
 お誕生日会っていうくらいだから何かおいしいものも出るだろうし、それで元が取ればいいかな。


 そんなこんなで、おっちゃんオススメのロボットのおもちゃを買って、誕プレ用に梱包してもらって準備は完了。
 慣れないことしてなんだか疲れた。
 由美ちゃんちで癒されてから帰ろっと。


*****


「飯塚の誕生日会楽しみだな」

 そんなことを小岩井達が言っている。

「日高も行くんだろ? 飯塚から聞いたよ」

「おれ、友達の誕生日会に行くの初めてだから緊張するぜ」

 飯塚くんと川田くんは友達なのか。それは意外だわ。

 聞いた話だと、小岩井と鈴木くんと川田くん、野村くんと三浦くん、高津ちゃんとわたし。
 わたしを入れて7人も呼ぶって、結構な人数だけど大丈夫なのかな?

 高津ちゃんと野村くんは同じ幼稚園出身だからわかるけど……あと、小岩井もか。
 鈴木くんと川田くんと飯塚くんってそんなに仲良かったっけ?
 川田くんなんかは特に飯塚くんの苦手そうな子だと思うけど、よくわからん。
 

「誕プレは何か用意したの? もう3日後だよ」

「なんで? おれ達が行って祝ってやるんだからそれでいいじゃん」

 なんでって聞きたいのはこっちなんだけど。
 普通、お友達のお誕生日会には何かプレゼント用意するもんじゃないの?

 ……とりあえず、わたしは川田くんとは友達になりたくないな。
 なんかいや。


 高津ちゃんはどうなんだろ。

「もちろん買ったよ。
 あいつとは幼稚園からの付き合いだからね」

 高津ちゃんは何か買ったらしい。
 何を買ったかは当日のお楽しみなんだって。
 わたしも当日のお楽しみってことにしとこう。

 そういえば、わたし友達に誕プレ買ったのって初めて……じゃないか。
 小岩井達にお菓子を買ってあげたことあったっけ。
 でも、ちゃんとしたものを買うのは初めてだね。

 飯塚くん、おっちゃんのおすすめで喜んでくれるかな?





 ──とか思っていたら、金曜日になって突然。


「飯塚の誕生日会中止になったって。
 なんでもお母さんが倒れてそれどころじゃなくなったらしい」

 なんて小岩井が言いやがる。
 そっか……お母さんが倒れたんじゃ大変だよね。

 それもそうだけど、わたしが買ったプレゼントどうすんの?
 お小遣いの半分以上使って買ったのに無駄になっちゃった。

 仕方ない……わたしが自分で組み立てて遊ぶか。
 もー……。
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