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本編
13:神社にて(1)
しおりを挟む「玲美ー、ちょっとお醤油切らしちゃってるから買ってきてもらっていい?」
「はーい」
お母さんに頼まれてお買いもの。
醤油かー……結構重たいんだよね、あれ。
でも、いつもご飯作ってくれてるんだから、このくらいは恩返ししないとね。
醤油が売ってる酒屋さんは、神社を挟んで向こう側にある。
普通に行くとちょっと遠回りだけど、神社を抜ければ近道なのでこっちから行こう。
*****
「毎度ありぃ!!」
酒屋のおっちゃんはいつも元気だな。
醤油はやっぱり重たいけど、落とさないように気を付けて持ってこ。
帰りも神社を通っていけば近道できるね。
一本だけある大きなクヌギの木。
何のために建てられたのかわからない石碑。
そして、大晦日にはにぎわう境内。
何でかわからないけど、ここに来るとすごく懐かしい感じがする。
見慣れてる風景なんだけど、頭がふわふわってする感じ。
こういうのって、何て言うんだろう?
チャリン――――
静かな神社で、お賽銭を投げる音が響いた。
境内の方を見ると、誰かお参りに来てるみたいだ。
あれは、わたしと同い年くらいの子かな?
周りに親もいないみたいだし、子供だけでお参りって珍しいね。
お参りに来てた子と目が合う。女の子だ。
しかも、ちょっと綺麗な感じの子。
髪も背中くらいまで長くて、まるでお人形さんみたい。
でも、着てる服はあちこちが伸びてほつれてる感じ。
綺麗な服着たら凄く似合いそうなのに勿体ない。
「……」
……まただ。
由美ちゃんと初めて会ったときの感じと似てる。
じんわりと胸が温かくなるような、なんともいえない感覚。
なんなんだろうこれ……。
女の子が行っちゃう──。
「あの、こんにちは」
なんでかわかんないけど、何か話しかけなきゃって思ってとっさに挨拶しちゃった。
「……こんにちは」
細いけど綺麗な声が聞こえた。
……あれ?
どうしたんだろ……わたし、めっちゃ心臓ドキドキしてる。
いくら綺麗な子でも、なんで顔を見ただけでこんなにドキドキするの?
由美ちゃんと一緒に遊んでる時だってこんなふうになったことないのに。
どうしちゃったんだ、わたし。
思わず頬をバシバシ叩いたら、ちょっとびっくりさせてしまったみたいだ。
「えっと、ね……なにかお願いしてたの?」
話しかけといて何も言わないのもなんなので、とりあえず思ったことをそのまま聞いてみた。
家のことでも祈ってたのかな。
もしかして、家族の誰かが病気とか?
この子の着てる服もこんなだし……お父さんかお母さんに何かあったのかもしれない。
だから、こんな一生懸命お参りしてるのかも。
「神様って……本当にいるのかな……」
「わたし、クラス替えの時に神様に祈ったんだ。
そしたら大好きな友達と同じクラスになれたんだよ」
あとは、勉強しなくてもテストでいい点が取れるようにしてもらえたら最高です。
うーん……醤油が重たい。
ちょっと座ろっと。
「あなた……もしかして私のこと知らないの?」
「え? 今日、初めて会ったよね?」
「そうだけど……そっか、わたしのこと知らないんだ。
だからこうやって話しかけてくれた……」
最後のほうは小さくて聞き取れなかったけど、なにか有名な子なのかな?
綺麗な子だし、伊藤くんと違って本当にアイドルだったりして。
でも、それだと話しかけてくれたなんて言わないよね……そんな自分を下げるような言い方……。
「……何か困ってる?」
「えっ……?」
「さっき神様に祈ってたでしょ?
わたしでよかったら相談に乗るよ。
わたし、日高玲美っていうの」
「わたしは……吉田恵利佳」
吉田……エリカ?
なんだろう……名前を聞いたら、なにかが頭に引っかかてるような……知らない名前のはずなのに、なんで?
「大丈夫? 日高さん」
「……大丈夫、ちょっと立ち眩みがしただけ。醤油が重たかったからじゃないかな」
「日高さんが持つには……ちょっと大きすぎない?」
「家は近いから大丈夫だよ。そこの門を過ぎたところにある家がうちなんだ」
「そうなの……手伝ってあげたいけど、わたしと一緒にいたら日高さんが……」
そう言って、吉田さんが黙ってしまった。
なにか変なこと言ったっけ?
吉田さんと一緒にいたらってどういうこと?
「吉田さん、あのさ……困ってることがあるならなんでも言って。
今日会ったばかりだし、わたしは神様じゃないけど……もし、わたしにできることがあるなら……」
すると、吉田さんは一瞬困ったような顔をしてこう言った。
「……別になにも困ってないわ。
だから、大丈夫……心配かけてごめんね」
「そう……?」
「ありがとう、日高さん。
久しぶりに誰かとお話しすることができて……それだけでも楽しかった……」
吉田さんはそう言って、立ち上がった。
去っていく吉田さんを見ていると、わたしはなんだか寂しいような、悲しいような……そんな気持ちになった。
さっき言った大丈夫って、何に対しての大丈夫なんだろう……。
わたしは、ただ見ていることしかできなかった。
◆◇◆◇
吉田恵利佳。
私が彼女の言っていた言葉の意味を知るのは、もう少し先のことになる。
そして、その晩、わたしは夢を見た。
これは……前にも見たことがある?
そうだ、思い出した。
肺炎で寝込んでいたときに見た夢だ。
学校の屋上……そして、飛び降りる少女。
また、この手は届かない。
でも、少しだけ見えたその顔はまるで────
起きたら、汗びっしょりだった。
パジャマがべたついて気持ち悪い。
前の時と違うのは、今度は起きても夢の内容を覚えていた。
頭が痛い……。
あの夢は、いったいなんなの……?
「はーい」
お母さんに頼まれてお買いもの。
醤油かー……結構重たいんだよね、あれ。
でも、いつもご飯作ってくれてるんだから、このくらいは恩返ししないとね。
醤油が売ってる酒屋さんは、神社を挟んで向こう側にある。
普通に行くとちょっと遠回りだけど、神社を抜ければ近道なのでこっちから行こう。
*****
「毎度ありぃ!!」
酒屋のおっちゃんはいつも元気だな。
醤油はやっぱり重たいけど、落とさないように気を付けて持ってこ。
帰りも神社を通っていけば近道できるね。
一本だけある大きなクヌギの木。
何のために建てられたのかわからない石碑。
そして、大晦日にはにぎわう境内。
何でかわからないけど、ここに来るとすごく懐かしい感じがする。
見慣れてる風景なんだけど、頭がふわふわってする感じ。
こういうのって、何て言うんだろう?
チャリン――――
静かな神社で、お賽銭を投げる音が響いた。
境内の方を見ると、誰かお参りに来てるみたいだ。
あれは、わたしと同い年くらいの子かな?
周りに親もいないみたいだし、子供だけでお参りって珍しいね。
お参りに来てた子と目が合う。女の子だ。
しかも、ちょっと綺麗な感じの子。
髪も背中くらいまで長くて、まるでお人形さんみたい。
でも、着てる服はあちこちが伸びてほつれてる感じ。
綺麗な服着たら凄く似合いそうなのに勿体ない。
「……」
……まただ。
由美ちゃんと初めて会ったときの感じと似てる。
じんわりと胸が温かくなるような、なんともいえない感覚。
なんなんだろうこれ……。
女の子が行っちゃう──。
「あの、こんにちは」
なんでかわかんないけど、何か話しかけなきゃって思ってとっさに挨拶しちゃった。
「……こんにちは」
細いけど綺麗な声が聞こえた。
……あれ?
どうしたんだろ……わたし、めっちゃ心臓ドキドキしてる。
いくら綺麗な子でも、なんで顔を見ただけでこんなにドキドキするの?
由美ちゃんと一緒に遊んでる時だってこんなふうになったことないのに。
どうしちゃったんだ、わたし。
思わず頬をバシバシ叩いたら、ちょっとびっくりさせてしまったみたいだ。
「えっと、ね……なにかお願いしてたの?」
話しかけといて何も言わないのもなんなので、とりあえず思ったことをそのまま聞いてみた。
家のことでも祈ってたのかな。
もしかして、家族の誰かが病気とか?
この子の着てる服もこんなだし……お父さんかお母さんに何かあったのかもしれない。
だから、こんな一生懸命お参りしてるのかも。
「神様って……本当にいるのかな……」
「わたし、クラス替えの時に神様に祈ったんだ。
そしたら大好きな友達と同じクラスになれたんだよ」
あとは、勉強しなくてもテストでいい点が取れるようにしてもらえたら最高です。
うーん……醤油が重たい。
ちょっと座ろっと。
「あなた……もしかして私のこと知らないの?」
「え? 今日、初めて会ったよね?」
「そうだけど……そっか、わたしのこと知らないんだ。
だからこうやって話しかけてくれた……」
最後のほうは小さくて聞き取れなかったけど、なにか有名な子なのかな?
綺麗な子だし、伊藤くんと違って本当にアイドルだったりして。
でも、それだと話しかけてくれたなんて言わないよね……そんな自分を下げるような言い方……。
「……何か困ってる?」
「えっ……?」
「さっき神様に祈ってたでしょ?
わたしでよかったら相談に乗るよ。
わたし、日高玲美っていうの」
「わたしは……吉田恵利佳」
吉田……エリカ?
なんだろう……名前を聞いたら、なにかが頭に引っかかてるような……知らない名前のはずなのに、なんで?
「大丈夫? 日高さん」
「……大丈夫、ちょっと立ち眩みがしただけ。醤油が重たかったからじゃないかな」
「日高さんが持つには……ちょっと大きすぎない?」
「家は近いから大丈夫だよ。そこの門を過ぎたところにある家がうちなんだ」
「そうなの……手伝ってあげたいけど、わたしと一緒にいたら日高さんが……」
そう言って、吉田さんが黙ってしまった。
なにか変なこと言ったっけ?
吉田さんと一緒にいたらってどういうこと?
「吉田さん、あのさ……困ってることがあるならなんでも言って。
今日会ったばかりだし、わたしは神様じゃないけど……もし、わたしにできることがあるなら……」
すると、吉田さんは一瞬困ったような顔をしてこう言った。
「……別になにも困ってないわ。
だから、大丈夫……心配かけてごめんね」
「そう……?」
「ありがとう、日高さん。
久しぶりに誰かとお話しすることができて……それだけでも楽しかった……」
吉田さんはそう言って、立ち上がった。
去っていく吉田さんを見ていると、わたしはなんだか寂しいような、悲しいような……そんな気持ちになった。
さっき言った大丈夫って、何に対しての大丈夫なんだろう……。
わたしは、ただ見ていることしかできなかった。
◆◇◆◇
吉田恵利佳。
私が彼女の言っていた言葉の意味を知るのは、もう少し先のことになる。
そして、その晩、わたしは夢を見た。
これは……前にも見たことがある?
そうだ、思い出した。
肺炎で寝込んでいたときに見た夢だ。
学校の屋上……そして、飛び降りる少女。
また、この手は届かない。
でも、少しだけ見えたその顔はまるで────
起きたら、汗びっしょりだった。
パジャマがべたついて気持ち悪い。
前の時と違うのは、今度は起きても夢の内容を覚えていた。
頭が痛い……。
あの夢は、いったいなんなの……?
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