少女が過去を取り戻すまで

tiroro

文字の大きさ
上 下
13 / 91
本編

13:神社にて(1)

しおりを挟む
「玲美ー、ちょっとお醤油切らしちゃってるから買ってきてもらっていい?」

「はーい」

 お母さんに頼まれてお買いもの。
 醤油かー……結構重たいんだよね、あれ。
 でも、いつもご飯作ってくれてるんだから、このくらいは恩返ししないとね。


 醤油が売ってる酒屋さんは、神社を挟んで向こう側にある。
 普通に行くとちょっと遠回りだけど、神社を抜ければ近道なのでこっちから行こう。


*****
 

「毎度ありぃ!!」

 酒屋のおっちゃんはいつも元気だな。
 醤油はやっぱり重たいけど、落とさないように気を付けて持ってこ。

 帰りも神社を通っていけば近道できるね。


 一本だけある大きなクヌギの木。
 何のために建てられたのかわからない石碑。
 そして、大晦日にはにぎわう境内。


 何でかわからないけど、ここに来るとすごく懐かしい感じがする。
 見慣れてる風景なんだけど、頭がふわふわってする感じ。
 こういうのって、何て言うんだろう?




 チャリン――――




 静かな神社で、お賽銭を投げる音が響いた。
 境内の方を見ると、誰かお参りに来てるみたいだ。

 あれは、わたしと同い年くらいの子かな?
 周りに親もいないみたいだし、子供だけでお参りって珍しいね。


 お参りに来てた子と目が合う。女の子だ。
 しかも、ちょっと綺麗な感じの子。
 髪も背中くらいまで長くて、まるでお人形さんみたい。

 でも、着てる服はあちこちが伸びてほつれてる感じ。
 綺麗な服着たら凄く似合いそうなのに勿体ない。 

「……」

 ……まただ。
 由美ちゃんと初めて会ったときの感じと似てる。
 じんわりと胸が温かくなるような、なんともいえない感覚。
 なんなんだろうこれ……。


 女の子が行っちゃう──。 

「あの、こんにちは」

 なんでかわかんないけど、何か話しかけなきゃって思ってとっさに挨拶しちゃった。

「……こんにちは」

 細いけど綺麗な声が聞こえた。
 ……あれ?
 どうしたんだろ……わたし、めっちゃ心臓ドキドキしてる。

 いくら綺麗な子でも、なんで顔を見ただけでこんなにドキドキするの?
 由美ちゃんと一緒に遊んでる時だってこんなふうになったことないのに。

 どうしちゃったんだ、わたし。
 思わず頬をバシバシ叩いたら、ちょっとびっくりさせてしまったみたいだ。


「えっと、ね……なにかお願いしてたの?」

 話しかけといて何も言わないのもなんなので、とりあえず思ったことをそのまま聞いてみた。

 家のことでも祈ってたのかな。
 もしかして、家族の誰かが病気とか?

 この子の着てる服もこんなだし……お父さんかお母さんに何かあったのかもしれない。
 だから、こんな一生懸命お参りしてるのかも。


「神様って……本当にいるのかな……」

「わたし、クラス替えの時に神様に祈ったんだ。
 そしたら大好きな友達と同じクラスになれたんだよ」

 あとは、勉強しなくてもテストでいい点が取れるようにしてもらえたら最高です。

 うーん……醤油が重たい。
 ちょっと座ろっと。


「あなた……もしかして私のこと知らないの?」

「え? 今日、初めて会ったよね?」

「そうだけど……そっか、わたしのこと知らないんだ。
 だからこうやって話しかけてくれた……」

 最後のほうは小さくて聞き取れなかったけど、なにか有名な子なのかな?
 綺麗な子だし、伊藤くんと違って本当にアイドルだったりして。

 でも、それだと話しかけてくれたなんて言わないよね……そんな自分を下げるような言い方……。


「……何か困ってる?」

「えっ……?」

「さっき神様に祈ってたでしょ?
 わたしでよかったら相談に乗るよ。
 わたし、日高玲美っていうの」

「わたしは……吉田恵利佳」

 吉田……エリカ?
 なんだろう……名前を聞いたら、なにかが頭に引っかかてるような……知らない名前のはずなのに、なんで?

「大丈夫? 日高さん」

「……大丈夫、ちょっと立ち眩みがしただけ。醤油が重たかったからじゃないかな」

「日高さんが持つには……ちょっと大きすぎない?」

「家は近いから大丈夫だよ。そこの門を過ぎたところにある家がうちなんだ」

「そうなの……手伝ってあげたいけど、わたしと一緒にいたら日高さんが……」

 そう言って、吉田さんが黙ってしまった。
 なにか変なこと言ったっけ?
 吉田さんと一緒にいたらってどういうこと?


「吉田さん、あのさ……困ってることがあるならなんでも言って。
 今日会ったばかりだし、わたしは神様じゃないけど……もし、わたしにできることがあるなら……」

 すると、吉田さんは一瞬困ったような顔をしてこう言った。

「……別になにも困ってないわ。
 だから、大丈夫……心配かけてごめんね」

「そう……?」

「ありがとう、日高さん。
 久しぶりに誰かとお話しすることができて……それだけでも楽しかった……」

 吉田さんはそう言って、立ち上がった。
 去っていく吉田さんを見ていると、わたしはなんだか寂しいような、悲しいような……そんな気持ちになった。

 さっき言った大丈夫って、何に対しての大丈夫なんだろう……。

 わたしは、ただ見ていることしかできなかった。




◆◇◆◇




 吉田恵利佳よしだえりか

 私が彼女の言っていた言葉の意味を知るのは、もう少し先のことになる。




 そして、その晩、わたしは夢を見た。


 これは……前にも見たことがある?

 そうだ、思い出した。
 肺炎で寝込んでいたときに見た夢だ。


 学校の屋上……そして、飛び降りる少女。
 また、この手は届かない。

 でも、少しだけ見えたその顔はまるで────




 起きたら、汗びっしょりだった。
 パジャマがべたついて気持ち悪い。

 前の時と違うのは、今度は起きても夢の内容を覚えていた。


 頭が痛い……。
 あの夢は、いったいなんなの……?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...