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第32話 再会

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「ぅうん……痛ッ!」

 ズキズキ痛む首筋を押さえながら、僕はゆっくり上体を起こした。

「一体どうなったんだ?」

 たしか僕は可憐に……。

「そうだ飛鳥っ!」

 思い出して周囲に目を向けると、飛鳥の姿はもちろんのこと、そこには可憐の姿もなかった。

 代わりに見慣れない人影が一人佇んでいた。

「……ん?」

 夕暮れに染まる廊下は逆光になっており、僕はよく見えなくて目を細めた。

 誰だ……?

 そう思ったのも束の間、光の中に佇むその人を見たとき、こめかみの辺りを思い切り殴られたように、一瞬、目の前が真っ白になった。

「うそ……だろ?」

 僕は時間が止まったように絶句した。

 窓辺には和柄模様のゴスロリドレスに身を包んだ天使、姫野柚希が立っていたのだ。

 驚愕に固まり目を見開く僕は、あり得ないと心中何度も繰り返す。

 しかし、彼女はそんな僕ににっこり微笑んだ。

「あら、起きたようね。一年振りね、夜戯乃くん」
「ほ、ほんとうにゆず、き……なのか!?」

 僕は恐る恐る彼女に近づいた。

「ええ、正真正銘、私は姫野柚希よ」

 そんな、あり得ない。
 だって彼女は一年前に死んだはず。
 僕は彼女の遺体をこの目で確認している。

 間違いようがないっ!

 だがどう見ても、僕の目の前にいるのは姫野柚希本人だった。

「夜戯乃くんが驚くのも無理もないわね。まずは、このような状況になってしまったことを説明する必要がありそうね」

 理解できずに呆然とする僕に、柚希はこれまでの経緯を静かに語り出した。



 ◆



 それは一度目の時間軸にまで遡る。

「しっかりしなさい、夜戯乃くんっ!」

 涙ながらに声を張り上げる姫野柚希の傍らには、虚ろな目で横たわる天満夜戯乃の姿があった。

「必ず、必ずなにがあっても私があなたを守るからっ――」

 抱きしめた彼の体温が急激に失われていく。
 柚希は夜戯乃が死んだことを肌で感じ取っていた。

 涙を流す彼女の側には剣を構える瀬戸際可憐の姿と、川利音泉華の姿も見受けられた。
 二人は対峙しており、泉華は息を引き取った夜戯乃に一瞥くれ、傑作だと腹を抱えている。

「今日は実に愉快だよ。一度に終わらせるには少し惜しい。続きは今度にするか。どうせお前らメスブタにはもう魔力回復は不可能なんだからね」

 哄笑する泉華が闇に姿を消したあとも、柚希と可憐はその場を動けずにいた。

 柚希の顔はロウのように血の気を失った無表情。
 一方可憐は、獣のようにこわばった顔をしていた。

 どのくらいの間、二人はそうしていたのだろう。
 二人を包み込む沈黙を断ち切るように、柚希は静かに口を開く。

「やり直しましょう」
「やり直すって」
「夜戯乃くんが泉華に殺される前まで戻るのよ」
「そんなことが可能なのっ!?」

 柚希は感情のこもらない声で淡々と述べた。自分の能力、『思念移行』を駆使すれば可能だと。

「私は今から一年前、夜戯乃くんと出会った日まで飛ぶわ」
「ちょっと待ってよ! そんなことをしても十五分じゃ未来は変えられないわよ」
「ええ、そんなことは百も承知よ。だから可憐にも協力してもらうわよ」
「協力……? なにをすればいいのよ?」

 ここから姫野柚希による、天満夜戯乃復活へ向けた長い過去改変の旅が始まった。
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