32 / 37
第32話 再会
しおりを挟む
「ぅうん……痛ッ!」
ズキズキ痛む首筋を押さえながら、僕はゆっくり上体を起こした。
「一体どうなったんだ?」
たしか僕は可憐に……。
「そうだ飛鳥っ!」
思い出して周囲に目を向けると、飛鳥の姿はもちろんのこと、そこには可憐の姿もなかった。
代わりに見慣れない人影が一人佇んでいた。
「……ん?」
夕暮れに染まる廊下は逆光になっており、僕はよく見えなくて目を細めた。
誰だ……?
そう思ったのも束の間、光の中に佇むその人を見たとき、こめかみの辺りを思い切り殴られたように、一瞬、目の前が真っ白になった。
「うそ……だろ?」
僕は時間が止まったように絶句した。
窓辺には和柄模様のゴスロリドレスに身を包んだ天使、姫野柚希が立っていたのだ。
驚愕に固まり目を見開く僕は、あり得ないと心中何度も繰り返す。
しかし、彼女はそんな僕ににっこり微笑んだ。
「あら、起きたようね。一年振りね、夜戯乃くん」
「ほ、ほんとうにゆず、き……なのか!?」
僕は恐る恐る彼女に近づいた。
「ええ、正真正銘、私は姫野柚希よ」
そんな、あり得ない。
だって彼女は一年前に死んだはず。
僕は彼女の遺体をこの目で確認している。
間違いようがないっ!
だがどう見ても、僕の目の前にいるのは姫野柚希本人だった。
「夜戯乃くんが驚くのも無理もないわね。まずは、このような状況になってしまったことを説明する必要がありそうね」
理解できずに呆然とする僕に、柚希はこれまでの経緯を静かに語り出した。
◆
それは一度目の時間軸にまで遡る。
「しっかりしなさい、夜戯乃くんっ!」
涙ながらに声を張り上げる姫野柚希の傍らには、虚ろな目で横たわる天満夜戯乃の姿があった。
「必ず、必ずなにがあっても私があなたを守るからっ――」
抱きしめた彼の体温が急激に失われていく。
柚希は夜戯乃が死んだことを肌で感じ取っていた。
涙を流す彼女の側には剣を構える瀬戸際可憐の姿と、川利音泉華の姿も見受けられた。
二人は対峙しており、泉華は息を引き取った夜戯乃に一瞥くれ、傑作だと腹を抱えている。
「今日は実に愉快だよ。一度に終わらせるには少し惜しい。続きは今度にするか。どうせお前らメスブタにはもう魔力回復は不可能なんだからね」
哄笑する泉華が闇に姿を消したあとも、柚希と可憐はその場を動けずにいた。
柚希の顔はロウのように血の気を失った無表情。
一方可憐は、獣のようにこわばった顔をしていた。
どのくらいの間、二人はそうしていたのだろう。
二人を包み込む沈黙を断ち切るように、柚希は静かに口を開く。
「やり直しましょう」
「やり直すって」
「夜戯乃くんが泉華に殺される前まで戻るのよ」
「そんなことが可能なのっ!?」
柚希は感情のこもらない声で淡々と述べた。自分の能力、『思念移行』を駆使すれば可能だと。
「私は今から一年前、夜戯乃くんと出会った日まで飛ぶわ」
「ちょっと待ってよ! そんなことをしても十五分じゃ未来は変えられないわよ」
「ええ、そんなことは百も承知よ。だから可憐にも協力してもらうわよ」
「協力……? なにをすればいいのよ?」
ここから姫野柚希による、天満夜戯乃復活へ向けた長い過去改変の旅が始まった。
ズキズキ痛む首筋を押さえながら、僕はゆっくり上体を起こした。
「一体どうなったんだ?」
たしか僕は可憐に……。
「そうだ飛鳥っ!」
思い出して周囲に目を向けると、飛鳥の姿はもちろんのこと、そこには可憐の姿もなかった。
代わりに見慣れない人影が一人佇んでいた。
「……ん?」
夕暮れに染まる廊下は逆光になっており、僕はよく見えなくて目を細めた。
誰だ……?
そう思ったのも束の間、光の中に佇むその人を見たとき、こめかみの辺りを思い切り殴られたように、一瞬、目の前が真っ白になった。
「うそ……だろ?」
僕は時間が止まったように絶句した。
窓辺には和柄模様のゴスロリドレスに身を包んだ天使、姫野柚希が立っていたのだ。
驚愕に固まり目を見開く僕は、あり得ないと心中何度も繰り返す。
しかし、彼女はそんな僕ににっこり微笑んだ。
「あら、起きたようね。一年振りね、夜戯乃くん」
「ほ、ほんとうにゆず、き……なのか!?」
僕は恐る恐る彼女に近づいた。
「ええ、正真正銘、私は姫野柚希よ」
そんな、あり得ない。
だって彼女は一年前に死んだはず。
僕は彼女の遺体をこの目で確認している。
間違いようがないっ!
だがどう見ても、僕の目の前にいるのは姫野柚希本人だった。
「夜戯乃くんが驚くのも無理もないわね。まずは、このような状況になってしまったことを説明する必要がありそうね」
理解できずに呆然とする僕に、柚希はこれまでの経緯を静かに語り出した。
◆
それは一度目の時間軸にまで遡る。
「しっかりしなさい、夜戯乃くんっ!」
涙ながらに声を張り上げる姫野柚希の傍らには、虚ろな目で横たわる天満夜戯乃の姿があった。
「必ず、必ずなにがあっても私があなたを守るからっ――」
抱きしめた彼の体温が急激に失われていく。
柚希は夜戯乃が死んだことを肌で感じ取っていた。
涙を流す彼女の側には剣を構える瀬戸際可憐の姿と、川利音泉華の姿も見受けられた。
二人は対峙しており、泉華は息を引き取った夜戯乃に一瞥くれ、傑作だと腹を抱えている。
「今日は実に愉快だよ。一度に終わらせるには少し惜しい。続きは今度にするか。どうせお前らメスブタにはもう魔力回復は不可能なんだからね」
哄笑する泉華が闇に姿を消したあとも、柚希と可憐はその場を動けずにいた。
柚希の顔はロウのように血の気を失った無表情。
一方可憐は、獣のようにこわばった顔をしていた。
どのくらいの間、二人はそうしていたのだろう。
二人を包み込む沈黙を断ち切るように、柚希は静かに口を開く。
「やり直しましょう」
「やり直すって」
「夜戯乃くんが泉華に殺される前まで戻るのよ」
「そんなことが可能なのっ!?」
柚希は感情のこもらない声で淡々と述べた。自分の能力、『思念移行』を駆使すれば可能だと。
「私は今から一年前、夜戯乃くんと出会った日まで飛ぶわ」
「ちょっと待ってよ! そんなことをしても十五分じゃ未来は変えられないわよ」
「ええ、そんなことは百も承知よ。だから可憐にも協力してもらうわよ」
「協力……? なにをすればいいのよ?」
ここから姫野柚希による、天満夜戯乃復活へ向けた長い過去改変の旅が始まった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
彼女が愛した彼は
朝飛
ミステリー
美しく妖艶な妻の朱海(あけみ)と幸せな結婚生活を送るはずだった真也(しんや)だが、ある時を堺に朱海が精神を病んでしまい、苦痛に満ちた結婚生活へと変わってしまった。
朱海が病んでしまった理由は何なのか。真相に迫ろうとする度に謎が深まり、、、。
この満ち足りた匣庭の中で 二章―Moon of miniature garden―
至堂文斗
ミステリー
それこそが、赤い満月へと至るのだろうか――
『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。
更なる発展を掲げ、電波塔計画が進められ……そして二〇一二年の八月、地図から消えた街。
鬼の伝承に浸食されていく混沌の街で、再び二週間の物語は幕を開ける。
古くより伝えられてきた、赤い満月が昇るその夜まで。
オートマティスム、鬼封じの池、『八〇二』の数字。
ムーンスパロー、周波数帯、デリンジャー現象。
ブラッドムーン、潮汐力、盈虧院……。
ほら、また頭の中に響いてくる鬼の声。
逃れられない惨劇へ向けて、私たちはただ日々を重ねていく――。
出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io
友よ、お前は何故死んだのか?
河内三比呂
ミステリー
「僕は、近いうちに死ぬかもしれない」
幼い頃からの悪友であり親友である久川洋壱(くがわよういち)から突如告げられた不穏な言葉に、私立探偵を営む進藤識(しんどうしき)は困惑し嫌な予感を覚えつつもつい流してしまう。
だが……しばらく経った頃、仕事終わりの識のもとへ連絡が入る。
それは洋壱の死の報せであった。
朝倉康平(あさくらこうへい)刑事から事情を訊かれた識はそこで洋壱の死が不可解である事、そして自分宛の手紙が発見された事を伝えられる。
悲しみの最中、朝倉から提案をされる。
──それは、捜査協力の要請。
ただの民間人である自分に何ができるのか?悩みながらも承諾した識は、朝倉とともに洋壱の死の真相を探る事になる。
──果たして、洋壱の死の真相とは一体……?
存在証明X
ノア
ミステリー
存在証明Xは
1991年8月24日生まれ
血液型はA型
性別は 男であり女
身長は 198cmと161cm
体重は98kgと68kg
性格は穏やかで
他人を傷つけることを嫌い
自分で出来ることは
全て自分で完結させる。
寂しがりで夜
部屋を真っ暗にするのが嫌なわりに
真っ暗にしないと眠れない。
no longer exists…
戦憶の中の殺意
ブラックウォーター
ミステリー
かつて戦争があった。モスカレル連邦と、キーロア共和国の国家間戦争。多くの人間が死に、生き残った者たちにも傷を残した
そして6年後。新たな流血が起きようとしている。私立芦川学園ミステリー研究会は、長野にあるロッジで合宿を行う。高森誠と幼なじみの北条七美を含む総勢6人。そこは倉木信宏という、元軍人が経営している。
倉木の戦友であるラバンスキーと山瀬は、6年前の戦争に絡んで訳ありの様子。
二日目の早朝。ラバンスキーと山瀬は射殺体で発見される。一見して撃ち合って死亡したようだが……。
その場にある理由から居合わせた警察官、沖田と速水とともに、誠は真実にたどり着くべく推理を開始する。
勿忘草 ~記憶の呪い~
夢華彩音
ミステリー
私、安積織絵はとある学校に転入してくる。 実は彼女には記憶がない。その失われた記憶を取り戻すために手がかりを探していくのだが…
織絵が記憶をたどるほど複雑で悲しい出来事が待っているのだった。
勿忘草(ワスレナグサ)シリーズ第1弾
<挿絵 : パラソルさんに描いて頂きました>
《面白いと感じてくださったら是非お気に入り登録 又はコメントしてくださると嬉しいです。今後の励みになります》
嘘つきカウンセラーの饒舌推理
真木ハヌイ
ミステリー
身近な心の問題をテーマにした連作短編。六章構成。狡猾で奇妙なカウンセラーの男が、カウンセリングを通じて相談者たちの心の悩みの正体を解き明かしていく。ただ、それで必ずしも相談者が満足する結果になるとは限らないようで……?(カクヨムにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる