上 下
53 / 66

第53話 ゴブリンの恋愛指南塾

しおりを挟む
 とある昼下り、俺はいつものように書斎で村の発展のために必要なことを書類にまとめていた。

「うぅ~疲れたな」

 気分転換に覗き……ではなく、神眼で村の様子を確認する。
 いつものように畑仕事に精を出す子供たち、真っ昼間から子作りに励む王様と従者。

『はぁっ、はぁっ、ジャンヌ!』
『あん、ああんっ、アーサー』

 ……子作りは素晴らしい行為だが――

「――昼間から激しすぎるだろッ!」

 ゴブトリオにからかわれるわけだ。
 村にはまだ幼い子供もいるのだから、今度それとなく声のトーンを抑えるように注意しよう。いくらなんでも大きすぎる。


「アネモネとガウェインの姿が見当たらないな」

 この時間は仕立て屋工房に居ることが多いアネモネなのだが、今日は姿が見えない。ガウェインの姿も見えないことが気になり、神眼で村の周辺を確認してみる。
 すると、村外れの川にガウェインとゴブトリオの姿を発見する。

「何をやっとんのだ、あいつら……」

 鼻息荒く茂みに身を潜めるガウェインたちの視線の先には、素っ裸で水浴びをするアネモネにクレア、それにミカエルの姿があった。

『クレアさんもミカエルさんもすごく大きいのね』
『何言ってんのよ。あんただって十分大きいじゃない』
『そうですよ。その年でそれだけ立派なら大したもんです!』

 夜は水浴びができないので、彼女たちは昼間にこっそり水浴びをしているらしい。
 それを覗く最低な輩が、彼らというわけだ。

「……ウリエルの報告書には真面目な少年兵と書かれていたのだけど、あれではゴブリンと変わらないではないか」

 少年兵時代のガウェインは常に戦場に身を預けていたため、女性との交流が極端に少なかった。そのため女を前にすると緊張してうまく会話ができない。典型的な拗らせ童貞。

「だからって、ゴブトリオと一緒に覗くことはないだろ。バレたらアネモネに嫌われる上に、クレアに殺されるぞ」

 心配した矢先、いやらしい気配を敏感に感じ取ったクレアが茂みに小石を放った。

『――痛いじょ!?』
『バガッ、声を出すなだがや!』
『バレたらヤバいべッ!』
『手遅れだ、師匠っ!』

 あたふたする三匹と一人を、鬼の形相で取り囲む三人の美少女。濡れた裸体を布一枚で覆い隠した、とてもスケベな恰好をしている。

『なっ、なにをしているのよガウェイン!』
『ご、誤解だアネモネッ!』
『これのどこが誤解だって言うのよッ! ガウェインッ――!!』

 ――数時間後、顔面を三倍にまで腫らした彼らが、村の広場で正座させられていた。

「兄ちゃん、神様は兄ちゃんに覗きをさせるために目を治したわけじゃねぇぞ」
「あれは覗きではなく警護だったんだ!」
「茂みに隠れて娘っ子の水浴びを見る警護っぺかぁ? 随分楽しそうな仕事っぺな」
「いや、その、まあ……はぃ」

 それから場所を移した三匹と一人が、後ろを歩く俺へと振り返る。

「神様、さっきからなんでわてらについて来るだがや?」
「お前らがみんなに迷惑かけないよう、間近で監視しているだけだ」
「小生たちそんなことしないじょ!」
「真面目だけが取り柄だべ!」
「その顔でよく言うわッ!」

 ゲラゲラゴブゴブ愉快そうに笑うゴブトリオは、まったく反省していなかった。
 一人深刻そうな顔でうつむいているのはガウェイン。

「神、ウゥルカーヌスよ!」
「な、なんだよ?」

 いきなりすごい勢いで向かってきては、神の手をギュッと握るからびっくりしてしまった。

「オレを、オレが女の子と話せるようになる武具を作ってほしいッ!」
「……そんなもんあるかよ」
「そ、そんな」

 あからさまに落ち込むガウェインが、「こうなれば……致し方ない」深呼吸して気持ちを落ち着かせている。

 一体何をする気なのだろうと見ていると、

 ――ブスッ!

「いぎぁあああああああああああああああああああああッ―――!?!?」

 自分で自分の眼球を指で突き、地面を転げ回っている。

「お前は何をやっているのだ」
「見えなかった時は喋れたんだッ!」

 だからって、自分で眼を突いて失明しようとするバカがいるかよ。

「仕方ねぇべな。ちょっと待ってろ!」
「し、師匠ッ!」

 ゴブゾウはガウェインの拗らせ童貞を治す秘策でもあるというのか、その場に待つように言い、どこかに行ってしまった。
 待つこと十分。
 ゴブゾウが嫁のゴブミちゃんを連れて戻ってきた。

「ガウェイン! これはオラの嫁のゴブミだべ! お前に貸してやるから、ちょっと練習してみるべ!」

 俺はその場でズッコケそうになってしまう。いくら何でもそれはないだろうと。

「し、しかし、その、初めてがゴブリンというのは……ちょっと」
「何を言ってるべかッ! 神様ならまだしも、誰がお前と交尾までさせると言ったべ! メスと話す練習用に貸してやるって言ってるべ!」
「ああ、そういうことか!」

 俺は頼まれてもいらんけどな。
 つーか、ガウェインのやつは何を納得しとんのだ! 正気の沙汰とは思えん。

「ほら、まずは二人でここに座るだがや」

 ゴブヘイに言われた通り、ガウェインとゴブミちゃんは丁度いいサイズの石に腰を下ろす。

「まずは雰囲気作りが大事だべな。ゴブミの肩に腕をまわしてみるだべ」
「こ、こうか?」
「うーん、少し硬いんじゃない? もっとこう、グッと引き寄せる感じよ。メスはオスの逞しくて、少し強引なとこに惹かれるんだから!」
「そ、そうか! こんな感じか?」
「ああんっ! ガウェインたらすごく強引なんだから」

 ゴブミちゃん旦那の前でノリノリだな。
 つーか、俺は一体全体何を見せられているのだ。

「会話の基本は以下にメスの本能を引き出すかだじょ!」
「本能……?」
「スケベな会話でその気にさせるだがや!」
「スケベな会話とは、どんなものなのか分からなくて」
「例えばそうだべな。メスの乳房を褒めたり、エロいメスの匂いがたまらねぇべって伝えるんだべさ!」
「なるほど!」

 いや、納得すなっ!
 人間界ではそれを変態と言うのだっ!!

「お、お前のス、スケベな匂いがたまらない。……こんな感じだろうか?」
「いい感じだべな。でも欲を言えばもっと情熱的に、以下に自分の鬼棒がでかくて逞しいかアピールするだべさ」

 アホらしい。
 もういいや……帰ろう。

「神様、ガウェインお兄ちゃんは何をやってるの?」
「見ちゃいけません」

 翌日、ガウェインがアネモネに往復ビンタを食らわされたのは言うまでもない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

追放された貴族の子息はダンジョンマスターとなりハーレムライフを満喫中

佐原
ファンタジー
追放された貴族が力を蓄えて好き放題に生きる。 ある時は馬鹿な貴族をやっつけたり、ある時は隠れて生きる魔族を救ったり、ある時は悪魔と婚約したりと何かと問題は降りかかるがいつも前向きに楽しくやってます。追放した父?そんなの知らんよ、母さん達から疎まれているし、今頃、俺が夜中に討伐していた魔物に殺されているかもね。 俺は沢山の可愛くて美人な婚約者達と仲良くしてるから邪魔しないでくれ

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

ハズレ職の<召喚士>がS級万能職に化けました~世界で唯一【召喚スポット】をサーチ可能になった俺、次々と召喚契約して一瞬で成り上がる~

ヒツキノドカ
ファンタジー
 全ての冒険者は職業を持ち、その職業によって強さが決まる。  その中でも<召喚士>はハズレ職と蔑まれていた。  召喚の契約を行うには『召喚スポット』を探し当てる必要があるが、召喚スポットはあまりに発見が困難。  そのためほとんどの召喚士は召喚獣の一匹すら持っていない。  そんな召喚士のロイは依頼さえ受けさせてもらえず、冒険者ギルドの雑用としてこき使われる毎日を過ごしていた。  しかし、ある日を境にロイの人生は一変する。  ギルドに命じられたどぶさらいの途中で、ロイは偶然一つの召喚スポットを見つけたのだ。  そこで手に入ったのは――規格外のサーチ能力を持つ最強クラスの召喚武装、『導ノ剣』。  この『導ノ剣』はあらゆるものを見つけ出せる。  たとえそれまでどんな手段でも探知できないとされていた召喚スポットさえも。    ロイは『導ノ剣』の規格外なサーチ能力によって発見困難な召喚スポットをサクサク見つけ、強力な召喚獣や召喚武装と契約し、急激に成長していく。  これは底辺と蔑まれた『召喚士』が、圧倒的な成長速度で成り上がっていく痛快な物語。 ▽ いつも閲覧、感想等ありがとうございます! 執筆のモチベーションになっています! ※2021.4.24追記 更新は毎日12時過ぎにする予定です。調子が良ければ増えるかも? ※2021.4.25追記 お陰様でHOTランキング3位にランクインできました! ご愛読感謝! ※2021.4.25追記 冒頭三話が少し冗長だったので、二話にまとめました。ブクマがずれてしまった方すみません……!

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

処理中です...