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第12話 ダークエルフ!? クレア登場

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 突如ゴブリン村の奥から姿を現したのは、露出度高めの衣服を身にまとったダークエルフ。

 健康的な褐色の肌からスラリと伸びた艶めかしい手脚に、うっとりするほど美しい銀灰色の髪。天界の女神たちにも引けを取らないほどの美貌。まさに妖艶な森の妖精。

 予期せぬダークエルフの登場に脅えるレッサーコボルトたち。
 そんな彼らに辛辣な眼差しを向けるドSな妖精。

 劣等種族と他者を見下したこの女の眼を、俺はよく知っている。
 自分が上位の存在であることに自負を抱く、傲慢で思い上がったものの眼。
 俺の大嫌いな眼。

 選民思想の塊という慣れ親しんだこの感覚に、俺は思わず身震いを覚えてしまう。

 レッサーコボルトたちを眼ではねつけながら近づいてくる。
 なんという勝ち気で不遜な振る舞い。

「先程の一戦見事だった。喜べ、褒めてやる。貴様はそこそこ名のある冒険者なのだろうな」
「そこそこ……まあそんなところだ」
「なるほど、理解した。十倍払おう」
「は?」
「そっちの人族が払った十倍の額を払うと言っている。それで文句はないのだろ?」

 俺が中央アーサーの村に雇われた冒険者だと思っているのか。
 やれやれと頭を振る仕草が妙に腹立たしい。
 
「何を言っているのだ! ウゥルカーヌスはか―――」
「金で一度引き受けた依頼をキャンセルすることは俺の流儀に反する。よって断る!」
「……ウゥルカーヌス?」

 アーサーとジャンヌが疑問符を瞳に宿しているが、ここで《闇の女王》サイドに俺が神であることを知られるのはまずい。

 今頃トリートーンは俺の拠点地を血眼になって探しているはず。
 遅かれ早かれ、いずれそのことを《闇の女王》は知ることになるだろう。

 懸念すべきはその時、《闇の女王》に俺が神であると知られていたら、トリートーンに俺の情報を売られるかもしれないということだ。
 そうなればトリートーンとの即時開戦は避けられない。

 もう少し戦力が整うまでは、隠密行動は必須だ。

「……そうか。では、そちらの言い値を払おう。それで満足か? 卑しい人族めっ」
「くどいッ。金額の問題じゃない」
「……金額の問題ではないだと? 人族は金に汚いはず……。そうか。貴様は奇行種か」

 親の仇を見るような顔のダークエルフ。
 つーか奇行種ってなんだよ。

 俺の顔を睨めつけるダークエルフが、豊満な胸の間からなにやら取り出した。
 手鏡……? どうやら魔法道具のようだ。

「うむ、相手は奇行種のようなのだ……」

 魔法道具を使って誰かと話している。
 てか奇行種言うなっ。

「了解した。ではそのように」

 話が終わったらしい。
 魔法道具をわざわざ胸の谷間に戻すところに、なんとなくポリシーを感じる。

「自己紹介がまだだったな。わたしはクレアだ」
「………あっ、ども」
「…………」

 にこりともせずに淡々と名を名乗るダークエルフ――改めクレアが真顔で俺の顔をガン見してくる。
 目がお前も名乗れと言っていた。

 つーかここまであからさまに嫌悪感むき出しで来られると、いっそ清々しさすら感じる。

 神に対する振る舞いとは思えん態度だが、神であることを伏せている以上仕方ない。

 俺は深く息を吐き出し、あきらめたように名を口にする。

「……ウゥルカーヌスだ。ただのしがない冒険者だ」
「「――――!?」」

 俺の意図に気がついたかは不明だが、アーサーとジャンヌが顔を見合わせて小さくうなずいた。

「僕はアーサー・ペンドラゴン」
「私はジャンヌ・ダル―――」
「悪いが諸君に興味はない」
「なっ、なんだと!? 私はともかくかれぴぃ――アーサーはアヴァロンの王なのだぞ!」

 かれぴぃって……つーかそこはさすがに自重して言い直すのかよ。
 もはや基準がわからん。

「ウゥルカーヌスよ、光栄に思うがいい。我が国の女王が人族との謁見を許可している」
「無視をするなッ! 無礼であろう!」
「先に言っておくが、人族に拒否権はない」
「拒否権はないのかよ!」
「だから無視をするでないっ!」

 ブチギレて今にも斬りかかりそうな騎士を、アーサーが必死に止めていた。
 その間、クレアは一度もジャンヌの方を見なかった。

「すぐにここを立つ。いいな?」
「んっなこと急に言われても。魔族街まではここから一月半もかかるんだろ?」
黒翼馬ダークペガサスで突っ切れば数日だ」

 クレアが指笛を鳴らすと、空から黒翼馬が駆けてくる。

「私も行くからなッ!」
「当然、僕も行きます!」
「オラも行くべさ!」
「小生も行くじょ!」
「わてもいぐがんなぁ!」

 結局俺はジャンヌ、アーサー、ゴブゾウ、ゴブスケ、ゴブヘイと共に龍の背骨――魔族街に行くことになった。

 その他のゴブリンたちには、先にアーサーたちの村に戻っていてもらうことにした。
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